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馬の病気:胃潰瘍

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胃潰瘍(Gastric ulceration)について。

胃粘膜の炎症(Inflammation)から、糜爛(Erosion)、潰瘍(Ulcer)へと進行する疾患で、逆流性食道炎(Reflux esophagitis)、食道閉塞(Esophageal obstruction)、胃排出障害(Gastric emptying disorder)などの他の病態を併発する症例も多いことから、馬胃潰瘍症候群(Equine gastric ulcer syndrome)という病名が用いられる場合もあります。馬における胃潰瘍は特に競走馬に多く発症し、胃の内視鏡検査(Gastroscopy)では70~95%の競走馬に病変が認められていますが、乗用馬やショーホースなどでは、内視鏡検査での胃潰瘍の発症率(Incidence)は40~77%である事が知られています。一方、剖検馬の所見を評価した文献では、全体としての胃潰瘍の有病率(Prevalence)は10%で、サラブレッドやスタンダードブレッド競走馬では19%であった事が報告されています。

馬の胃潰瘍の病因としては、運動時の腹圧上昇によって扁平上皮粘膜(Squamous mucosa)が酸曝露(Acid exposure)を受ける事が挙げられており、輸送ストレス、過度の調教、Helicobacter菌の感染、給餌間隔が長くなり過ぎたことによる胃pHの上昇、などが素因(Predisposing factors)となると考えられています。また、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の過剰投与によって、プロスタグランディンE(PGE)生成が阻害され、粘膜血流量の減少(Mucosal blood flow reduction)と粘膜防御能の低下が起こり、腺性粘膜(Glandular mucosa)に潰瘍が生じる事も知られています。

胃潰瘍の症状としては、成馬の症例では、食欲不振(Anorexia)、歯ぎしり(Bruxism)、間欠性疝痛(Intermittent colic)、体重減少(Weight loss)などを呈し、性格や態度の変化(Personality/Attitude change)、強直性歩様(Stiff gait)、プアパフォーマンス等の症状が見られる場合もあります。子馬の胃潰瘍では、成馬よりも腺性粘膜の病巣を起こし易く、食欲不振や歯ぎしりに加えて、下痢(Diarrhea)や流涎(Ptyalism)などの症状が見られます。

成馬および子馬のいずれの症例においても、認められる臨床症状は胃潰瘍に特徴的所見(Pathognomonic sign)ではないため、胃潰瘍の確定診断には内視鏡検査が必要です。しかし、上述のように、内視鏡所見と症状発現は常には相関しないため、内科的治療における症状改善によって推定診断が下される事もあります。一方、子馬の胃潰瘍では、造影レントゲン検査(Contrast radiography)を介した胃排出閉塞(Gastric outflow obstruction)の診断を要する場合もあります。一般的に、胃潰瘍の病態把握や記録のためには、以下のような内視鏡所見の点数化評価システムが用いられています。
グレード0:正常胃粘膜所見
グレード1:粘膜赤色化(Reddening)および角化亢進(Hyperkeratosis)
グレード2:小型の単独(Small single)、もしくは多巣性(Multifocal)の病巣
グレード3:大型の単独(Large single)、もしくは多巣性、もしくは広範囲表在性(Extensive superficial)の病巣
グレード4:深在性潰瘍(Deep ulceration)を含む広範囲の病巣

胃潰瘍の治療では、ヒスタミン2型受容体拮抗薬(Histamin-2-receptor antagonist: Cimetidine, Ranitidine, Femotidine, Nizatidine, etc)、プロトンポンプ遮断薬(Proton pump blocker: Omeprazole, Pantoprazole, Rabeprazole, Esomeprazole, etc)、粘膜付着剤(Mucosal adherent: Sucralfate, etc)などの投与が行われます。ヒスタミン2型受容体拮抗薬による、壁細胞ヒスタミン受容体の競合的抑制(Competitive inhibition of parietal cell histamine receptor)を介した塩酸分泌の減退(Suppression of hydrochloric acid secretion)では、1~2週間の継続使用で臨床症状の改善が見られますが、病巣完治には一ヶ月以上を要する場合もあります。Sucralfateは、子馬における腺性粘膜潰瘍を防ぐ効能がある事も示唆されていますが、他の経口投与薬の吸収阻害を考慮することが必要です。子馬の症例において、逆流性食道炎および十二指腸潰瘍(Duodenal ulceration)が確認された場合は、消化管運動賦活薬(Prokinetic drug: Bethanechol, Metoclopramide, etc)を用いての消化管活動の促進が試みられる場合もあります。非ステロイド系抗炎症剤に起因する腺性粘膜潰瘍では、PGE類似体(PGE analogue: Misoprostol, etc)を用いての、粘膜病巣の再生促進も試みられています。

胃潰瘍の予防では、給餌および環境管理(Dietary and environmental management)が第一指針とされ、牧草地への放牧(Pasture turnout)や高品質飼料(High-quality forage)の給与(特にアルファルファ)などが推奨されています。また、低容量のOmeprazoleは、競走前や非ステロイド系抗炎症剤の投与と併用することで、胃潰瘍の再発予防(Prevention of recurrence)にも有効である事が報告されています。

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