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馬の文献:軟口蓋背方変位(Ortved et al. 2010)

「15頭の競走馬における持続性軟口蓋背方変位の治療成功と喉頭位置の評価」
Ortved KF, Cheetham J, Mitchell LM, Ducharme NG. Successful treatment of persistent dorsal displacement of the soft palate and evaluation of laryngohyoid position in 15 racehorses. Equine Vet J. 2010; 42(1): 23-29.

この研究論文では、馬の軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate)に対する有用な外科的療法を検討するため、2002~2007年にかけて、安静時の内視鏡検査(Endoscopy at rest)によって、持続性(Persistent)の軟口蓋背方変位の診断が下され、喉頭Tie-forward手術(Laryngeal tie-forward surgery)およびレーザー口蓋帆切除術(Laser staphylectomy)による治療が行われた15頭の競走馬における、治療前と治療後のレントゲン検査(Pre/post-operative radiography)、および、競走能力(Racing performance)の解析が行われました。

結果としては、15頭の患馬のうち、術後にレース復帰を果たした馬は87%(13/15頭)に及んで、術後の平均出走数は十一回でした。そして、持続性の軟口蓋背方変位を呈した馬では、手術直後のレース平均獲得賞金(Mean earnings per race)のほうが、手術直前に比べて、有意に増加していた事が報告されています。このため、そのような持続性の軟口蓋背方変位を呈した競走馬に対しては、喉頭Tie-forward手術のみの治療(7/15頭)、または、喉頭Tie-forward手術とレーザー口蓋帆切除術の併用(8/15頭)によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が期待され、競走復帰を果たす馬の割合が高い、というこれまでの知見を、再確認させるデータが示されました。

この研究では、術前レントゲン検査において、持続性の軟口蓋背方変位を呈した馬では、間欠性の軟口蓋背方変位を呈した馬に比べて、甲状軟骨の骨形成部(Ossification in the thyroid cartilage)の位置が13mm尾側より、舌骨基底骨(Basihyoid bone)の位置が10mm尾側よりで7mm背側より、甲状舌骨甲状関節(Thyrohyoid bone-thyroid articulation)の位置が10mm背側よりであった事が示されました。このため、持続性の軟口蓋背方変位の罹患馬では、喉頭の位置がより尾側にあり、より重篤な鼻腔咽頭不安定性(Nasopharyngeal instability)を呈することが、その発症に関与していると推測されています。

一般的に、馬における持続性の軟口蓋背方変位は、発症率の低い病態で、安静時の内視鏡検査において、喉頭蓋(Epiglottis)が軟口蓋の上にまったく移動できないか、軟口蓋の上に一過性にしか保持できない状態、という定義づけがなされています。そして、口蓋帆切除術(Staphylectomy)による治療は奏功しなかったという知見や(Haynes. JAVMA. 1981;179:677)、喉頭蓋下小帯(Subepiglottic fren)(=軟口蓋背方変位の直接的な原因と推測された)の切除には不応性(Refractory)を示したという症例報告があります(Moorman et al. JAVMA. 2007;231:51)。今回の研究では、持続性の軟口蓋背方変位の罹患馬では、喉頭の位置が大きく尾側に落ち込んでいる事から、Tie-forward 手術によって喉頭前進(Laryngeal advancement)を施すことが、理にかなった治療指針である、という考察がなされています。

この研究では、喉頭蓋の長さ(Epiglottic length)は、持続性の軟口蓋背方変位を呈した馬では平均72mm、間欠性の軟口蓋背方変位を呈した馬(平均66mm)よりも、有意に短かった事が報告されています。過去の文献では、健常なサラブレッドの喉頭蓋は長さ87mmであった事から(Linford et al. AJVR. 1983;44:1660)、特に、今回の研究での、持続性の軟口蓋背方変位においては、正常な喉頭蓋よりも2cm以上も短かった事になります。一般的に、喉頭蓋形成不全(Epiglottic hypoplasia)は、喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)や軟口蓋背方変位の発症に関与するという知見がある反面(Honnas et al. Vet Surg. 1988;17:246, Tulleners et al. JAVMA. 1990;196:1971, Tulleners et al. JAVMA. 1997;211:1022)、喉頭蓋の短さと間欠性軟口蓋背方変位の発症には、有意な相関は見られなかった、という報告もあります(Redher et al. AJVR. 1995;56:269)。また、今回の研究では、持続性の軟口蓋背方変位を呈した馬のうち73%(11/15頭)が、喉頭蓋への手術歴(History of sub-epiglottic surgery)を持っていた事から、喉頭蓋捕捉などの治療の際に、披裂喉頭蓋組織(Aryepiglottic tissue)が過剰に切除(Excessive resection)されることが、持続性の軟口蓋背方変位の発病素因(Predisposing factor)になっている可能性も指摘されています。

この研究では、持続性の軟口蓋背方変位に対するTie-forward手術では、舌骨基底骨が5mm背側へ、甲状軟骨の骨形成部が17mm吻側へ、甲状舌骨甲状関節が12mm背側へと、それぞれ有意に移動していました。一方、間欠性の軟口蓋背方変位に対するTie-forward手術では、舌骨基底骨が8mm尾側へ、甲状軟骨の骨形成部が8mm吻側および21mm背側へ、甲状舌骨甲状関節が11mm背側へと、それぞれ有意に移動していました。つまり、持続性の軟口蓋背方変位に対するTie-forward手術では、間欠性の軟口蓋背方変位に対するTie-forward手術に比べて、舌骨基底骨がより背側へ、甲状軟骨の骨形成部がより吻側かつ背側へと、それぞれ有意に大きく移動していた事が報告されています。これは、持続性の軟口蓋背方変位を呈した馬では、術前における喉頭の位置がより尾側にあったため、Tie-forward手術の際に、より大きな喉頭前進を要したことを反映していると考察されています。

この研究では、術中測定(Intra-operative measurement)によって、舌骨基底骨の尾側端(Caudal aspect of the basihyoid bone)と甲状軟骨の吻側端(Rostral aspect of the thyroid cartilage)のあいだの距離が評価されました。その結果、持続性の軟口蓋背方変位に対するTie-forward手術では、間欠性の軟口蓋背方変位に対するTie-forward手術に比べて、この距離の短縮度合いが有意に大きかった事が示されました。これは、上述のレントゲン所見とも合致しており、持続性の軟口蓋背方変位を呈した馬のほうが、Tie-forward手術によって、より大きな喉頭前進が施された事を示していると考えられます。

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