馬の文献:軟口蓋背方変位(Pigott et al. 2010)
文献 - 2020年06月20日 (土)

「軟口蓋背方変位の罹患馬における運動中の嚥下頻度」
Pigott JH, Ducharme NG, Mitchell LM, Soderholm LV, Cheetham J. Incidence of swallowing during exercise in horses with dorsal displacement of the soft palate. Equine Vet J. 2010; 42(8): 732-737.
この研究論文では、馬の軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate)の病因論(Etiology)を解明するため、2001~2007年にかけて、運動中の内視鏡検査(Endoscopy during exercise)によって軟口蓋背方変位の確定診断(Definitive diagnosis)が下された69頭の症例馬(=高速運動中に八秒間以上連続して軟口蓋背方変位を起こした場合)、および、28頭の健常な対照馬(Control horses)における、トレッドミル運動中の内視鏡所見および嚥下頻度(Incidence of swallowing)の解析が行われました。
結果としては、健常な対照馬では、運動速度が増加するにつれて、嚥下回数が減少したのに対して、症例馬においては、毎分の嚥下回数が有意に多く、また、軟口蓋背方変位の発生直前に嚥下回数が増加する現象が認められました。そして、軟口蓋背方変位の発生時には、呼気時の気管内圧の上昇(Increase in tracheal expiratory pressure)、呼気時の咽頭内圧の減少(Decrease in pharyngeal expiratory pressure)、吸気時の咽頭内陰圧の減退(Less negative pharyngeal inspiratory pressure)が示されたものの、上述のような嚥下の前後では、気道圧(Airway pressure)の有意な変化は確認されませんでした。このため、運動中の馬においては、嚥下回数の増加が軟口蓋背方変位の発症に関与している可能性が指摘されています。
この研究は、観察的調査(Observational study)であるため、嚥下と軟口蓋背方変位の因果関係(Causality)を証明することは出来ませんが、少なくとも吸気時や呼気時の気道圧変化が、嚥下に関与しているというデータは示されませんでした。このため、軟口蓋背方変位の罹患馬では、吸気時の喉頭下降(Inspiratory descent of the larynx)が大きく、その際の喉頭不安定性(Laryngeal instability)を鼻腔咽頭感覚受容体(Sensory input in nasophalanx)が探知することが、嚥下反応の引き金(Trigger of swallowing reaction)になっているという仮説がなされています(=軟口蓋背方変位を誘発するような喉頭不安定がまずあって、その結果として嚥下増加が見られる)。一方で、嚥下した際に軟口蓋の下に潜り込んだ喉頭蓋 (Epiglottis)が、軟口蓋の上に戻って来ることが出来ず、結果的に嚥下の即時的続発症(Immediate sequel)として、軟口蓋背方変位の発症に至るという代換的仮説(Alternative hypothesis)も提唱されています(=嚥下回数の増加がまず起こり、その結果として軟口蓋背方変位が発症する)。
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