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馬の文献:軟口蓋背方変位(Allen et al. 2013)

「サラブレッド競走馬の口蓋不安定性の特徴および軟口蓋背方変位の発症への関与」
Allen K, Franklin S. Characteristics of palatal instability in Thoroughbred racehorses and their association with the development of dorsal displacement of the soft palate. Equine Vet J. 2013; 45(4): 454-459.

この研究論文では、馬の軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate)の病因論を解明するため、72頭におけるサラブレッド競走馬の口蓋不安定性の特徴(Characteristics of palatal instability)の解析、および、軟口蓋背方変位の発症への関与が検討されました。

この研究では、軟口蓋の動きや挙上が認められない場合(No movement or lifting of the soft palate was observed)には、口蓋の不安定性は無いと判断されました。一方、軟口蓋が喉頭蓋基底部の高さまで持ち上げられるものの、声門裂は隠されていない場合(Soft palate lifts up to the level of the base of epiglottis but the rima glottidis is not obscured)には、声門裂の閉塞を伴わない口蓋不安定性(Palatal instability with no rima glottidis obstruction)が起きていると定義されました。さらに、軟口蓋が持ち上げられて声門裂が隠されている場合(Soft palate lifts so that the rima glottidis becomes obscured)には、声門裂の閉塞を伴う口蓋不安定性(Palatal instability with rima glottidis obstruction)が起きていると定義されました。

結果としては、口蓋の不安定性が認められた馬のうち、軟口蓋背方変位を発症していたのは46%(30/65頭)に及んでいました。また、これらの馬における喉頭蓋の形状(Epiglottic conformation)や披裂喉頭蓋ヒダ軸側偏位(Axial deviation of aryepiglottic folds)の発現を見ると、口蓋の不安定性とのあいだに有意な関係(Significant association)が認められました。さらに、口蓋不安定性の重篤度や、披裂喉頭蓋ヒダ軸側偏位の発現を見ると、軟口蓋背方変位の発症とのあいだに有意な関係が見られました。このため、馬の軟口蓋背方変位の発症には、口蓋の不安定性が関与している可能性が示唆されており、軟口蓋背方変位の前駆症状(Prodromal signs)として、口蓋不安定性を見極めることが重要であるという考察がなされています。

一般的に、馬における口蓋の不安定性は、軟口蓋が背方変位する直前に観察されることから、軟口蓋背方変位の発現様式のひとつであると考えられています(Lane et al. EVJ. 2006;38:393)。また、口蓋の不安定性が認められた馬の約四割に、ノド鳴りの病歴が認められたり(Lane et al. EVJ. 2006;38:401)、強運動時に軟口蓋背方変位を起こす馬において、弱い運動時には口蓋の不安定性のみが確認されたという知見もあります(Allen et al. EVJ. 2010;42:186)。さらに、口蓋の不安定性は、“軽度”の軟口蓋背方変位を示唆する徴候であるという提唱もあります(Barakzai et al. EVJ. 2011;43:18)。

この研究では、口蓋の不安定性が認められた馬において、吸気の際に喉頭蓋の凸形状が失われる徴候(Concave appearance of epiglottis to the soft palate was lost during inspiration)が示されました。この所見は、吸気時の気道低内圧においては、口腔口蓋封鎖(Oropalatal seal)を維持するのがより困難になっている、という仮説(Ahern et al. J Eq Vet Sci. 1999;19:226)を裏付けるものであると考察されています。

この研究では、軟口蓋背方変位のみならず、披裂喉頭蓋ヒダ軸側偏位の発症においても、口蓋の不安定性が関与している可能性が示唆されており、同様の知見は、他の文献でも示されています(Allen et al. EVJ Suppl. 2010;38:587)。このため、口蓋が不安定になった際に、軟口蓋によって喉頭蓋が持ち上げられて、披裂喉頭蓋ヒダが緩んでしまうことが、正中側への虚脱(Axial collapse)(=つまり軸側変位)を引き起こす原因であると考察されています。一方、他の文献では、披裂喉頭蓋ヒダが軸側偏位した結果として、二次的に喉頭蓋の形状に変化(Changes in epiglottic shape)をきたすという仮説もなされています(Strand et al. EVJ. 2012;44:524)。

一般的に、軟口蓋背方変位の発現においては、喉頭蓋および喉頭軟骨の位置を制御する舌骨喉頭蓋筋(Hyoepiglotticus muscle)の働きが阻害されて、喉頭蓋が軟口蓋を押し下げる機能が減退することが病因であるという定説があります(Strand et al. EVJ. 2012;44:524)。しかし、その一方で、人為的に喉頭蓋を反転(Experimentally induced epiglottic retroversion)させて、喉頭蓋と軟口蓋がまったく接触していない状態であっても、軟口蓋は背方変位しなかったという報告もあります(Holcombe et al. AJVR. 1997;58:1022)。このため、喉頭蓋の正常な機能が、口蓋の安定性に必要不可欠であるか否かについては賛否両論(Controversy)があり、今後の更なる研究を要すると考察されています。

この研究の限界点(Limitations)としては、口蓋の不安定性の有無および重篤度が、観察者の主観的評価(Subjective evaluation)に頼っている点が挙げられていますが、二人の観察者のあいだには、満足できる再現性と信頼性(Satisfactory repeatability and reliability)が達成できたことが報告されています。また、この研究では、気道内圧や蹄踏着(Airway pressures or footfall)は記録されていないため、喉頭蓋や軟口蓋の評価における呼気と吸気のタイミングが、必ずしも正確ではない可能性がありますが、一般的に、喉頭の頭側変位(Caudal movement of the larynx)の動きが吸気と一致することが知られています(Tsukroff et al. Proc WEAS. 1998)。

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