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馬の文献:喉頭片麻痺(Williams et al. 1990)

「左側喉頭神経切除、人工喉頭形成術、披裂軟骨亜全摘出術が最大労作時の上部気道圧に及ぼす影響」
Williams JW, Pascoe JR, Meagher DM, Hornof WJ. Effects of left recurrent laryngeal neurectomy, prosthetic laryngoplasty, and subtotal arytenoidectomy on upper airway pressure during maximal exertion. Vet Surg. 1990; 19(2): 136-141.

この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、十頭の健常馬を用いて、実験前と、左側喉頭神経切除術(Left recurrent laryngeal neurectomy)による喉頭片麻痺の誘導後、そして、人工喉頭形成術(Prosthetic laryngoplasty)の十六週間後、および、披裂軟骨亜全摘出術(Subtotal arytenoidectomy)の十六週間後における、最大労作時(毎分の心拍数が230回以上)の上部気道圧(Upper airway pressure during maximal exertion)の測定が行われました。

結果としては、喉頭形成術の十六週間後では、披裂軟骨は適切な外転(Adequate abduction)を示していたのに対して、披裂軟骨亜全摘出術の十六週間後では、上部気道の内径(Luminal diameter)は30~40%減退していたことが示されました。また、走行区間毎の上部気道圧を、喉頭神経の切除後と比べた場合には、披裂軟骨亜全摘出術の十六週間後では1.8倍の減退(1.8-fold reduction)であったのに対して、喉頭形成術の十六週間後では2.2倍の減退と、有意に高い治療効果が認められました。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、披裂軟骨亜全摘出術よりも人工喉頭形成術のほうが、上部気道圧上昇の逆転作用(Reversing effects of the increases in upper airway pressure)が高いことが示唆されました。

この研究における気流制限(Airflow limitation)は、最大労作以下である毎秒流量25リットルの時点(=毎分の心拍数が200回未満)から起こり始め、この際の上部気道圧である20cm-H2Oは、45cm-H2Oまで上昇して維持されていました。これは、外転筋機能の損失(Loss of abductor muscle function)によって生じた気流制限が、吸気(Inspiration)の際の内腔径の減退によって、更なる低大気圧(Even greater subatmospheric pressures)を誘発して(=ベルヌーイの定理:Bernoulli's principle)、より重篤な上部気道圧潰(Further collapse of the upper airway)につながったためである、という考察がなされています。

一般的に、馬の喉頭形成術では、同側喉頭声嚢切除術(Ipsilateral laryngeal ventriculectomy)を併用することで、声帯(Vocal cord)の更なる安定化(Stabilization)が起こせると仮説されており、喉頭神経切除を介しての喉頭片麻痺の誘導後に、声嚢切除術だけを施しても、最大労作時における気流改善はあまり期待できないのに対し、声嚢切除なしで喉頭形成術のみを実施した場合と、二つの術式を併用した場合とで、気流改善効果に有意差があるか否かは明確ではない、という考察がなされています。一方、披裂軟骨亜全摘出術によって気流改善が達成されるためには、喉頭粘膜(Laryngeal mucous membrane)と下部の筋層が、瘢痕形成(Scar formation)を起こして喉頭壁(Laryngeal wall)を安定化させる必要があると考えられており、この研究における術後の内視鏡検査(Endoscopy)の結果から、披裂軟骨亜全摘出術によって上部気道の内径の三~四割減退が残存した潜在的要因(Potential factor)としては、そのような瘢痕形成が不十分であったことが挙げられています。

一般的に、馬の喉頭神経切除による喉頭片麻痺の誘導後には、呼吸頻度(Respiratory frequency)とストライド頻度(Stride frequency)との同期化(Synchronization)が出来なくなることが知られており、この研究では、最高走行速度(Maximum gait velocity)も有意に減退したことが示されました。そして、喉頭形成術の後には、この呼吸頻度とストライド頻度の一対一の同期化が達成されたのに対して、披裂軟骨亜全摘出術の後には、そのような作用は認められなかった事が報告されており、つまり、プアパフォーマンスの改善効果においても、披裂軟骨亜全摘出術よりも喉頭形成術のほうが、より優れた効能を発揮できることが示唆されました。

この研究では、経過追跡(Follow-up)は手術から十六週間しかなされておらず、これよりも更に時間が経てば、二つの術式(喉頭形成術&披裂軟骨亜全摘出術)が同程度の治療効果を示すようになる可能性は否定できないため、この研究のデータのみから、喉頭形成術よりも披裂軟骨亜全摘出術のほうが、効能発現に時間が掛かるのか?(=披裂軟骨亜全摘出術による喉頭安定化には、充分な瘢痕形成を要するため)、という疑問に答えるのは難しいと考えられました。また、披裂軟骨を摘出する手法によっては、その治療効果には大きな差が出る場合も考えられる、という仮説がなされており、異なった披裂軟骨摘出の術式による効能発現の度合いやタイミングの相違は、今後の更なる検討を要すると考察されています。

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