馬の文献:喉頭片麻痺(Bohanon et al. 1990)
文献 - 2020年06月26日 (金)

「重種馬の喉頭片麻痺:27症例の調査」
Bohanon TC, Beard WL, Robertson JT. Laryngeal hemiplegia in draft horses. A review of 27 cases. Vet Surg. 1990; 19(6): 456-459.
この研究論文では、重種馬(Draft horses)の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)の病態解明と、有用な外科的療法を検討するため、1973~1987年にかけて、臨床症状(Clinical signs)および内視鏡検査(Endoscopy)によって、喉頭片麻痺の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、人工喉頭形成術(Prosthetic laryngoplasty)、声嚢切除術(Ventriculectomy)、もしくはその併用による治療が行われた27頭の症例の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、経過追跡(Follow-up)ができた17頭の症例のうち、治療成功(=患馬は常に馬主の予測通りの競技能力を示す)を示した馬は82%、部分的成功(=患馬は競技参加できるが、馬主の予測通りの競技能力を示せない)を示した馬は6%、治療失敗(=患馬は意図した用途に使役できない)を示した馬は12%であったことが報告されています。また、治療前の能力スコア(平均値1.2)に比べて、治療後の能力スコア(平均値2.4)のほうが有意に改善していました。さらに、声嚢切除術のみが実施された症例郡と、喉頭形成術と声嚢切除術が併用された症例郡のあいだで、術後の能力スコアや治療成功率には有意差は認められませんでした。このため、重種馬の喉頭片麻痺に対しては、声嚢切除術のみ(喉頭形成術なし)の治療によって、充分な吸気時雑音(Inspiratory noise)および運動不耐性(Exercise intolerance)の改善効果が期待され、良好な予後を示す割合が高いことが示唆されました。
この研究の重種馬症例において、喉頭形成術なしの声嚢切除術が奏功した要因としては、サラブレッドやスタンダードブレッド競走馬よりも競技歩様のスピードが低い重種馬では、上部気道圧がそれほど高くならず、喉頭形成術による直接的な内径拡大(Increasing inner diameter)を要しなかった事が挙げられています。一般的に、喉頭片麻痺の治療としての声嚢切除術では、上部気道乱流(Upper airway turbulence)および吸気時抵抗(Inspiratory resistance)を減退させることが主要な作用であると考えられていますが(=喉頭室の外返りを予防するため:Preventing eversion of the laryngeal ventricle)、それと同時に、披裂軟骨(Arytenoid cartilage)と甲状軟骨(Thyroid cartilage)の癒着(Adhesion)を促すことで、麻痺した披裂軟骨の気道内への動的圧潰(Dynamic collapse into the airway)を予防する効果も期待されています。
この研究では、初診時の臨床症状としては、吸気時雑音のみを呈した馬が48%、吸気時雑音と運動不耐性の両方を呈した馬が30%、運動不耐性のみを呈した馬が19%で、全症例の内視鏡検査において、休養時および嚥下時における左側披裂軟骨の完全麻痺&不全麻痺(Total/Partial paralysis of the left arytenoid cartilage at rest/swallowing)が認められました。また、症例郡の78%を去勢馬(Gelding)が占めており(=この地域における性別分布と統計的に有意に異なる)、症例郡の平均年齢は6.9歳、症状発現の平均年齢は5.6歳であったことが報告されています。
この研究では、29%の症例において術後合併症(Post-operative complications)が認められ、これには、発熱(Fever)、肺炎(Pneumonia)、気管切開術(Tracheostomy)を要する呼吸困難(Dyspnea)、切開創感染(Incisional infection)などが含まれました。また、入院(Hospitalization)の平均期間は8.5日でしたが、声嚢切除術のみが実施された症例のほうが、喉頭形成術と声嚢切除術が併用された症例に比べて、入院期間が有意に短く、さらに、起立位手術(Standing surgery)での声嚢切除術のみが実施された症例のほうが、全身麻酔下(Under general anesthesia)で施術された症例に比べて、入院期間が有意に短かったことが報告されています。
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