馬の文献:喉頭片麻痺(Fulton et al. 1991)
文献 - 2020年06月27日 (土)
「神経筋接合根部移植によるスタンダードブレッドの左側喉頭片麻痺の治療」
Fulton IC, Derksen FJ, Stick JA, Robinson NE, Walshaw R. Treatment of left laryngeal hemiplegia in standardbreds, using a nerve muscle pedicle graft. Am J Vet Res. 1991; 52(9): 1461-1467.
この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、七頭の健常なスタンダードブレッドを用いて、左側喉頭神経切除(Left recurrent laryngeal neurectomy)によって喉頭片麻痺を誘導した後、肩甲舌骨筋(Omohyoid muscle)の神経筋接合根部移植(Neuromuscular pedicle graft)によって、背側輪状披裂筋(Criocoarytenoideus dorsalis muscle)を神経再支配(Reinnervation)して、12週後、24週後、52週後における上部気道機能(Upper airway function)の解析が行われました。
結果としては、喉頭神経切除による喉頭片麻痺の誘導後に比べて、神経筋接合根部移植の12週間後では、吸気性インピーダンス(Inspiratory impedance)と吸気量(Inspiratory air flow)の改善が認められ、52週間後では、吸気性インピーダンスが実験前と同程度まで回復したことが示されました。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、神経筋接合根部移植によって上部気道機能の回復効果が期待でき、喉頭片麻痺の治療に有効であることが示唆されました。そして、この実験の術式のように、神経線維だけでなく、運動神経終板(Motor endplates)を一緒に移植することで、受け取り側の筋肉(Recipient muscle)の再神経支配が迅速に達成できる、という考察がなされています。
一般的に、呼吸支持筋(Accessory muscle of inspiration)である肩甲舌骨筋は、休息時には無活動(Quiescent)で、運動の際の吸気時(During inspiration under exercise condition)のみに活動していることから、この筋肉を支配している神経を移植することで、運動時のみの披裂軟骨の外転(Abduction of arytenoid cartilage)が誘導できることが知られています(=つまり、休息時の内視鏡検査の所見は、術後における治療効果の判定指標にはならない)。しかし、移植された神経は、本来とは違う筋肉の動きを制御することになるため、披裂軟骨外転の度合いやタイミングが正確に回復できるか否かに関しては、更なる検討を要するのかもしれません。
他の文献では、神経再支配の術式としては、第二頚椎神経の断端(Cut-end of second cervical nerve)を埋め込んだり(Ducharme et al. Can J Vet Res. 1989;53:210)、第一頚椎神経の分枝(Branch of first cervical nerve)の吻合術(Anastomosis)(Ducharme et al. Can J Vet Res. 1989;53:216)、肩甲舌骨筋と第二頚椎神経根の移植(Ducharme et al. Can J Vet Res. 1989;53:202)、などが試みられていますが、いずれも筋繊維肥大(Muscle fiber hypertrophy)や軸索再生(Axon regeneration)は認められたものの、気道機能の完全な回復は達成されなかったことが報告されています。
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この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、七頭の健常なスタンダードブレッドを用いて、左側喉頭神経切除(Left recurrent laryngeal neurectomy)によって喉頭片麻痺を誘導した後、肩甲舌骨筋(Omohyoid muscle)の神経筋接合根部移植(Neuromuscular pedicle graft)によって、背側輪状披裂筋(Criocoarytenoideus dorsalis muscle)を神経再支配(Reinnervation)して、12週後、24週後、52週後における上部気道機能(Upper airway function)の解析が行われました。
結果としては、喉頭神経切除による喉頭片麻痺の誘導後に比べて、神経筋接合根部移植の12週間後では、吸気性インピーダンス(Inspiratory impedance)と吸気量(Inspiratory air flow)の改善が認められ、52週間後では、吸気性インピーダンスが実験前と同程度まで回復したことが示されました。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、神経筋接合根部移植によって上部気道機能の回復効果が期待でき、喉頭片麻痺の治療に有効であることが示唆されました。そして、この実験の術式のように、神経線維だけでなく、運動神経終板(Motor endplates)を一緒に移植することで、受け取り側の筋肉(Recipient muscle)の再神経支配が迅速に達成できる、という考察がなされています。
一般的に、呼吸支持筋(Accessory muscle of inspiration)である肩甲舌骨筋は、休息時には無活動(Quiescent)で、運動の際の吸気時(During inspiration under exercise condition)のみに活動していることから、この筋肉を支配している神経を移植することで、運動時のみの披裂軟骨の外転(Abduction of arytenoid cartilage)が誘導できることが知られています(=つまり、休息時の内視鏡検査の所見は、術後における治療効果の判定指標にはならない)。しかし、移植された神経は、本来とは違う筋肉の動きを制御することになるため、披裂軟骨外転の度合いやタイミングが正確に回復できるか否かに関しては、更なる検討を要するのかもしれません。
他の文献では、神経再支配の術式としては、第二頚椎神経の断端(Cut-end of second cervical nerve)を埋め込んだり(Ducharme et al. Can J Vet Res. 1989;53:210)、第一頚椎神経の分枝(Branch of first cervical nerve)の吻合術(Anastomosis)(Ducharme et al. Can J Vet Res. 1989;53:216)、肩甲舌骨筋と第二頚椎神経根の移植(Ducharme et al. Can J Vet Res. 1989;53:202)、などが試みられていますが、いずれも筋繊維肥大(Muscle fiber hypertrophy)や軸索再生(Axon regeneration)は認められたものの、気道機能の完全な回復は達成されなかったことが報告されています。
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