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新型コロナの専門家会議

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新型コロナウイルス感染症の対策において、専門家の在り方が問われているような気がします。

新型コロナの専門家会議が廃止されることになったのですが、この背景には、新型コロナに関する専門家の判断に対して、世間の批判が集まっていた事象があるようです。たとえば、某大学の感染症の専門家が、日本における新型コロナの感染拡大を春先の段階で予測した際に、感染者数が80万人以上で、死者数が40万人以上に及ぶという見通しが示されました。これを踏まえて、緊急事態宣言や社会的距離政策が取られたのですが、六月末の時点での感染者数は約2万人で、死者数も約1,000人に留まっています。このため、過大な感染拡大を煽って、社会活動の自粛による多大な経済的ダメージを生んだという批判に繋がっている側面もあるようです。

しかし、この事への批判が起こるのは、予測を立てた専門家に対してアンフェアであるように思えます。なぜなら、感染対策を取らなかった場合の予測値と、対策を取った結果の実測値を比較して、値が違い過ぎると論じるのは、条件が異なるケースを比べている点から、ナンセンスのように見えるからです。また、専門家はあくまで科学的計算に基づく予測値を示しただけであり、その予測値をどう解釈して、どのような政策を実施するかの責任は、基本的に政治家のほうにあるべきだと思います。さらに、死者40万人という予測値が出たときに、ほかの人がもっと少ない予測値を示して、どちらがより信頼できるかを深く協議した訳では無かったと思いますので、今になって批判をするのは、後出しジャンケンのようなもので、必ずしもフェアな議論ではないという印象を持ちます。

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何よりも、日本における新型コロナの感染が、かなり良好に制御されているという結果に対して、まず適切に称賛されるべきだと思います。たとえば、日本と米国の感染者数の推移を見ると(上図:人口10万人当たりの数に補正した折線グラフ)、日本では感染拡大を非常にうまく抑えられているのが分かります。また、日本と諸外国の死者数を比較してみても(下図:人口100万人当たりの数に補正した棒グラフ)、日本で新型コロナによって亡くなる方が格段に少ないことが分かります。これらの結果を見る限り、日本における新型コロナ対策は、(少なくとも現時点では)大成功であったと言えるのではないでしょうか。

もちろん、成功という結果が出ることと、判断が正解であったかどうかは別の問題です。専門家の判断と結果における可能性としては、①専門家の判断が正解で結果も成功であった場合、②専門家の判断は不正解だったが結果は成功となった場合、③専門家の判断は正解でも結果は失敗となった場合、④専門家の判断が不正解で結果も失敗となった場合、という四通りがあり得ますが、今回は、新型コロナ対策は成功しましたので、①または②のケースです。このうち、②の立場を取って、専門家の判断(40万人の死者予測や、接触8割減の政策など)に対して、過剰にリスクを煽ったという批判が起こっているように見受けられます。本当にそうなのでしょうか?

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専門家は、最善の判断を下す義務がありますが、専門家に全ての結果責任を負わせるのは酷だと考えます。基本的に、上述の①から④のうち、専門家が批判されうるのは④のケースだけだと思いますし、その場合も、他の要因によって及ぼされる影響が、理論上、明確に排除された場合に限るべきではないでしょうか。そうしなければ、国家政策を決定づけるような大きな判断をしてくれる専門家はいなくなってしまいますし、選挙で選ばれた政治家が政策の責任を担うという原則から外れてしまうからです。さらに、そのような重大な判断を下すときには、一人の専門家に重い十字架を背負わせるのではなく、複数の専門家の協議によって、より信頼性の高い判断を導き出していくプロセスが重要であると考えます。

もうひとつ、専門家の大切な仕事は、最初に出した判断に固執することなく、結果に基づいて予測モデルを調整するなどして、エビデンスとデータに基づいた新たな判断を下し、対策の有効性を上げていく事ではないでしょうか。今回のケースでは、日本で実施された社会的距離政策が、日本での感染状況において適切だったのか、不足だったのか、はたまた過剰だったのか、という事後評価をするのも、専門家の大切な仕事だと考えます。たとえば、接触機会の8割減という方針が、もしかすると4割減でも事足りたのかもしれませんし、ソーシャルディスタンスも、杓子定規に2mと決めるのではなく、マスクを着用していたら50cmでも構わない、といった基準もあり得るのかもしれません。そのような専門家の判断は、今後の第2波や第3波への対応という意味でも、大変に有益であると思います。

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専門家の在り方に関しては、誰しも他人事ではありません。私も、馬を専門にする獣医師として、たとえば、海外から馬の伝染病が持ち込まれた時には、どう対策を取るべきかの判断を委ねられる可能性があります。それは、九州で口蹄疫が流行したときの牛の獣医師もそうでしたし、現在進行している豚コレラ(新しい呼称は豚熱)に対する豚の獣医師の判断も然りです。ひとつの判断の間違いが大きな経済的損失を生んでしまうというプレッシャーはありますが、その反面、正しい対処を取ることで社会に大きく貢献できるチャンスでもあります。そのような事態に備えて、伝染病の防疫に関する論文を常に読んでおくなど、不断の努めが重要なのだと感じています。

新型コロナ対策における専門家の判断は、ヒトの命が左右されるという面で、とても大変な立ち位置なのだろうという想像は難くありません。そして、ヒトの感染症の専門家の方々が、ときに批判の矢面に立つ危険を承知で、適切な対策を取っていくための重要な判断を下して頂いていることに、私たちは感謝の意を忘れてはいけないのではないかと感じています。

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Rowdy Pony

Author:Rowdy Pony
名前: 石原章和
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年齢: 40代
住所: 神奈川県
職業: 獣医師・獣医学博士
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