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馬の文献:喉頭片麻痺(Hay et al. 1993)

「喉頭外アプローチによる馬の披裂軟骨部分摘出術」
Hay WP, Tulleners EP, Ducharme NG. Partial arytenoidectomy in the horse using an extralaryngeal approach. Vet Surg. 1993; 22(1): 50-56.

この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、七頭の健常な実験馬を用いて、左側喉頭神経切除(Left recurrent laryngeal neurectomy)によって喉頭片麻痺を誘導した後、喉頭外アプローチ(Extralaryngeal approach)による馬の披裂軟骨部分摘出術(Partial arytenoidectomy)を実施して、六十日後における上部気道内視鏡検査(Upper airway endoscopy)が行われました。

この研究の術式では、喉頭形成術(Laryngoplasty)と同様な喉頭外アプローチが選択され、披裂軟骨筋結節(Muscular process of the arytenoid cartilage)を頭尾側方向(Cranial-to-caudal direction)に切開し、背側輪状披裂筋(Cricoarytenoideus dorsalis muscle)を尾側に切開しました。そして、披裂軟骨をタオル鉗子で掴み外側へと引きながら、披裂横行靭帯(Transverse arytenoid ligament)を切断することで、披裂軟骨を輪状軟骨(Cricoid cartilage)から関節離断(Disarticulation)させてから、披裂軟骨とそれを覆う粘膜(Overlying mucosa)を、尾側縁から頭側&腹側へと切り進めるように剥離しました。さらに、外側部位における外側輪状披裂筋、室筋(Ventricularis muscle)、声帯筋(Vocalis muscle)の付着箇所、および、背側部位における横披裂筋(Arytenoideus transversus muscle)の付着箇所をそれぞれ切断することで、披裂軟骨が“ひとまとめに”切除(En bloc resection)されました。その後、小角突起(Corniculate process)を安定化させるため、室筋膜と小角突起粘膜(Corniculate mucosa)を甲状軟骨外側翼の頭側部(Cranial aspect of the lateral wing of the thyroid cartilage)に糸を通過させながらマットレス縫合し、さらに、声帯外転(Vocal cord abduction)を促すと同時に喉頭小嚢突出(Protrusion of the laryngeal saccule)を予防する目的で、声帯靭帯と甲状軟骨外側翼をマットレス縫合しました。これらの縫合後には、気管チューブを一旦引き抜いて、術中内視鏡検査(Intra-operative endoscopy)を行うことで、残存軟部組織の外転(Abduction of remaining soft tissue)を確認する指針が選択されています。

結果としては、喉頭神経切除を介しての喉頭片麻痺の誘導後に比べて、披裂軟骨部分摘出術の六十日後には、左右喉頭比(Left-to-right hemilaryngeal ratio)が有意に上昇しており、咳嗽(Coughing)、誤嚥(Aspiration)、気道狭窄(Airway narrowing)などの術後合併症(Post-operative complications)は認められませんでした。また、七頭中の六頭において、喉頭粘膜の連続性維持(Preservation of the laryngeal mucosa)、および、周辺軟部組織の安定化傾向(Apparent stabilization of the adjacent soft tissue )が達成され、これらの事例においても、合併症を伴うことなく粘膜損傷部の治癒が見られました。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、喉頭外アプローチによる披裂軟骨部分摘出術によって、喉頭切開術(Laryngotomy)や気管切開術(Tracheotomy)を介することなく、上部気道の内径拡大(Increasing inner diameter)が達成できることが示唆されました。

この研究で試験された、喉頭外アプローチによる披裂軟骨部分摘出術では、喉頭切開術を介する従来の術式に比べて、喉頭内腫脹(Intra-laryngeal swelling)が顕著に少なかったことが示され、術後の嚥下障害(Dysphagia)や呼吸困難(Dyspnea)などを予防できる効果が期待できると考えられました。また、喉頭粘膜への外科的侵襲が無いことによって、術創への細菌感染(Bacterial infection)が抑えられ、喉頭内肉芽組織形成(Intra-laryngeal granulation tissue formation)を防ぐ効能もあると推測されています。今後の研究では、実際の症例において、高速運動時の上部気道機能(Upper airway function)の回復度合いを検討する必要があると考察されています。

この研究では、七頭の患馬のうち一頭において、気管チューブの再挿入時における外傷(Trauma during re-intubation)によって、小角突起粘膜に設置した縫合糸が切れてしまい、術後に小角突起粘膜の気道内腔への圧潰(Intra-luminal collapse)が起こって、左右喉頭比が術前よりも減少してしまった事が報告されており、これは、披裂軟骨を部分摘出した後に、二重のマットレス縫合を介して、小角突起の安定化を施すことの重要性を再確認させる成績であったと考察されています。一方、喉頭粘膜の連続性が失われてしまった事が術中に確認された場合には、気道内から術創への細菌汚染(Bacterial contamination)が続発することを考慮して、切開創外に達する排液チューブ(Drainage tubing)を設置する必要があると提唱されています。

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