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馬の病気:上腕骨骨折

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上腕骨骨折(Humerus fracure)について。

上腕骨の骨折は一歳齢以下の子馬に多く見られ、蹴傷や転倒などの外傷によって発症します。上腕骨の完全骨折(Complete fracture)は、骨幹部(Diaphysis)における横骨折(Transverse fracture)(骨前面からの衝撃により発症)または斜位骨折(Oblique fracture)(横方向からの衝撃により発症)の病態を呈する場合が多く、不完全骨折(Incomplete fracture)は、骨端部(Epiphysis)、大結節(Greater tubercle)、三角筋隆起(Deltoid tuberosity)などに多く見られます。一方、上腕骨の不完全疲労骨折(Incomplete stress fracture)は、近位外尾側面(Proximal caudolateral cortx)および遠位内頭側面(Dsital craniomedial cortx)に好発することが知られています。また、上腕骨の遠位部においては、関節部骨折(Fracture of distal articulation)が見られる事もあります。

上腕骨骨折の症状としては、完全骨折の症例では、重度~不負重性跛行(Marked to non-weight-bearing lameness)と患部の腫脹を呈し、肘頭脱落(Dropped elbow)の外観を示すため、尺骨骨折(Ulnar frcature)や橈側神経麻痺(Radial nerve paralysis)との鑑別を要します。また、歩行時の上腕部聴診によって、捻髪音(Crepitation)が聴取される事もあります。上腕骨骨折の確定診断と病態把握は、レントゲン検査によって行われますが、疼痛のため羅患肢保持が困難な症例においては、全身麻酔下でのレントゲン撮影が必要となることもあります(特に頭尾側方向への撮影像)。一方、不完全骨折の症例では、急性発現性(Acute onset)に中程度~重度跛行(Moderate to severe lameness)を示した後、24~48時間で症状改善が見られます。患部の腫脹や圧痛(Pain on palpation)が認められる事もありますが、レントゲン検査での診断が困難な場合には、核医学検査(Nuclear scintigraphy)による放射医薬性取込(Radiopharmaceutical uptake)の増加を探知したり、1~2週間後の再レントゲン撮影を要する症例もあります。上腕骨骨折では、橈側神経麻痺を併発する症例が多いため、的確な予後判定(Prognostication)のため、発症後二週間以上経った後に筋電図検査(Electromyography)を行うことが推奨されています(皮膚感覚消失は橈側神経損傷の目安とはなりにくいため)。

上腕骨は周囲の多くの筋肉に囲まれているため、上腕骨の不完全骨折および非変位性の完全骨折(Non-displaced complete fracture)の治療では、馬房休養(Stall rest)による保存性療法(Conservative therapy)が試みられます。この際には、頭上に渡したワイヤーに無口を繋ぐことで患馬の寝起きを制限する手法(Head-tied confinement on overhead wire)が有効である場合もあります。休養期間は、子馬の骨端骨折や成馬の大結節および三角筋隆起の骨折では6~8週間で、遠位部の疲労骨折や骨幹部の不完全骨折および非変位性完全骨折では3~4ヶ月を要することが報告されています。変位性の完全骨折(Displaced complete fracture)の治療においても、保存性療法による骨治癒が見られる症例もありますが、通常は4~6ヶ月の休養期間が必要で、患肢の尾側面への副木バンテージ(Splint bandage)の装着と、対側肢への蹄叉支持具(Frog support)や遠位肢バンテージを施すことで、負重性蹄葉炎(Weight-bearing laminitis)や側湾性肢変形症(Angular limb deformity)を予防することが重要です。

上腕骨の完全骨折において、重篤な変位性骨折によって骨折片の重複(Fragment overriding)を生じた症例においては、保存性療法での骨治癒は期待しにくいため、内固定法(Internal fixation)を介しての外科的整復が必要ですが、成馬では一般的に予後不良を呈する症例が多いことが報告されています。子馬における上腕骨骨折では、頭側皮質骨面(Cranial cortex)でのプレート固定が行われ、体重150kg以上の症例には、外側皮質骨面(Lateral cortex)へもう一枚のプレート装着を行うことが推奨されています。他の内固定法としては、骨髄内ラッシュピン固定術(Intra-medullary Rush pinning)や骨髄内連動釘固定術(Intra-medullary interlocking nailing)などの使用も報告されています。上腕骨の近位部における大結節の骨折では、骨折片の螺子固定術(Lag screw fixation)が用いられ、三角筋隆起の骨折ではプレート装着を介して、テンション・バンド原理(Tension-band principle)を作用させる術式も試みられています。上腕骨の遠位部における関節部骨折では、関節鏡手術(Arthroscopy)による骨折片の摘出(骨片が小さい場合)、もしくは骨折片の螺子固定術(骨片が大きい場合)が実施される場合もあります。上腕骨骨折の内固定術が応用された症例においては、スムーズな麻酔覚醒(Anesthesia recovery)が極めて重要で、様々な起立補助手法が実施されています。

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