馬の文献:喉頭片麻痺(Lumsden et al. 1994)
文献 - 2020年07月03日 (金)

「披裂軟骨部分摘出術による馬の喉頭片麻痺の治療」
Lumsden JM, Derksen FJ, Stick JA, Robinson NE, Nickels FA. Evaluation of partial arytenoidectomy as a treatment for equine laryngeal hemiplegia. Equine Vet J. 1994; 26(2): 125-129.
この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、六頭の健常なスタンダードブレッドを用いて、左側喉頭神経切除(Left recurrent laryngeal neurectomy)によって喉頭片麻痺を誘導した後、披裂軟骨部分摘出術(Partial arytenoidectomy)および両側性声嚢切除術(Bilateral ventriculectomy)を実施して、十六週間後における上部気道機能(Upper airway function)の解析が行われました。
結果としては、喉頭神経切除による喉頭片麻痺の誘導後において、吸気インピーダンスの低下が認められましたが、披裂軟骨部分摘出術の十六週間後には、基線値(Baseline value)(=喉頭片麻痺の誘導前)まで回復したことが示されました。しかし、最大心拍数(Maximum heart rate)の時点における、呼気量&吸気量の比率(Ratio of expiratory and inspiratory flow)(50%運動強度)の上昇や、吸気量(25%および50%運動強度)の低下を見ると、披裂軟骨部分摘出術のあとの方が、喉頭片麻痺の誘導後よりも有意に改善していましたが、基線値よりは有意に悪かったことが示されました。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、披裂軟骨部分摘出術および両側性声嚢切除術によって、上部気道機能のある程度の改善が期待されるものの、運動強度の高い状況下では、呼気量&吸気量の制限(Expiratory/Inspiratory flow limitation)が見られることが示唆されました。
一般的に、馬の披裂軟骨の摘出術は、喉頭片麻痺や披裂軟骨炎(Arytenoid chondritis)の症例に対して、嚥下機能(Swallowing)を維持しながら、気道の最大横断面積(Airway maximal cross-sectional area)を確保する目的で実施されます。過去の文献では、披裂軟骨の亜全摘出術(Subtotal arytenoidectomy)のほうが適しているという知見もありましたが(Haynes et al. Proc AAEP. 1984:21)、その後の研究では、披裂軟骨亜全摘出術のあとには、残った箇所の小角軟骨(Remaining corniculate cartilage)のダイナミック吸気性圧潰(Dynamic inspiratory collapse)によって、持続的な気道閉塞(Continued airway obstruction)を生じることが示されています(Belknap et al. AJVR. 1990;51:1481)。このため、喉頭形成術(Laryngoplasty)の損傷を起こした喉頭片麻痺の症例や、重度な披裂軟骨炎の罹患馬においては、披裂軟骨亜全摘出術よりも、披裂軟骨部分摘出術のほうが優れた治療効果を示す、という結論付けがなされています。
この研究では、いずれの実験馬にも、咳嗽(Coughing)や嚥下障害(Dysphagia)などの術後合併症(Post-operative complication)は認められませんでした。しかし、実際の臨床症例において、披裂軟骨異常(Arytenoid chondropathies)を伴う喉頭&喉頭周辺の前駆病態(Pre-existing laryngeal and peri-laryngeal pathology)が存在していたり、既に喉頭形成術の損傷を呈していた場合には、重篤な合併症を続発する危険性が高まりやすい、という考察がなされています。
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