馬の文献:喉頭片麻痺(Tetens et al. 1996)
文献 - 2020年07月04日 (土)
「馬の喉頭片麻痺の治療のための両側性声嚢声帯切除術の併用ありなしでの人工喉頭形成術の治療効果」
Tetens J, Derksen FJ, Stick JA, Lloyd JW, Robinson NE. Efficacy of prosthetic laryngoplasty with and without bilateral ventriculocordectomy as treatments for laryngeal hemiplegia in horses. Am J Vet Res. 1996; 57(11): 1668-1673.
この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、十五頭の健常馬を用いて、実験前と、左側喉頭神経切除術(Left recurrent laryngeal neurectomy)による喉頭片麻痺の誘導後、そして、両側性声嚢声帯切除術(Bilateral ventriculocordectomy)の併用ありなしでの人工喉頭形成術(Prosthetic laryngoplasty)の実施から、60日後および180日後における、上部気道機能(Upper airway function)の評価、および内視鏡検査(Endoscopy)が行われました。
結果としては、喉頭片麻痺の誘導後に生じた吸気量制限(Inspiratory flow limitation)は、喉頭形成術(声嚢声帯切除術の併用の有無に関わらず)のあとには、実験前と同程度まで回復していましたが、声嚢声帯切除術を併用した場合としなかった場合では、上部気道機能に有意差(Significant differences)は見られませんでした。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、喉頭形成術によって充分な吸気量の回復が期待できることが示唆されましたが、声嚢声帯切除術を併用することで、上部気道機能が更に改善するというデータは示されませんでした。また、この研究には、声嚢声帯切除術ありで喉頭形成術なしの治療郡は含まれていませんが、他の文献では、声嚢声帯切除術のみでは上部気道機能の回復作用は期待できない、という知見も報告されています(Shappell et al. AJVR. 1988;49:1760)。
この研究では、声嚢声帯切除術なしでの喉頭形成術が行われた馬では、五頭中の四頭において、両側の声嚢が運動時に空気で膨満(Filling of both ventricles with air during exercise)している所見が認められました。このように膨満して気道内に突出(Protrusion into the airway)した声嚢は、高速運動中の喘鳴音(Roaring sound)を引き起こす場合も考えられ、喉頭形成術の実施の際に声嚢声帯切除術を併用することで、術後の呼吸器雑音(Respiratory noise)を減退する効能が期待できる(=上部気道機能に直接的には関連しない?)、という推測も成り立つのかもしれません。
この研究では、術後の内視鏡検査において、喉頭形成術を受けた左側の披裂軟骨(Left arytenoid cartilage)は、安静時よりも遠軸側へ外転(Abducted beyond the intermediate position)していたものの、咽頭壁(Pharyngeal wall)には接触しておらず、喉頭形成術による過剰矯正(Over-collection)は起こしていなかった事が示唆されました。他の文献では、馬の喉頭形成術で重要なのは、最大限の披裂軟骨外転(Maximal arytenoids abduction)を達成する事ではなく、動的圧潰を予防(Prevention of dynamic collapse)する事である、という提唱もなされています(Derksen et al. AJVR. 1986;47:16)。
この研究では、喉頭片麻痺の誘導後に偽手術(Sham surgery)が行われた馬(=対照郡の馬)において、術後の180日間で上部気道機能が緩やかな回復傾向(統計的な有意差は無し)が認められました。この理由については、この研究の考察の中では明確には結論付けられていませんが、もともと健常な実験馬を用いた試験法であるため、研究期間中に喉頭神経の再生(Regeneration)が起こったり、馬自身が無意識に呼吸の仕方を変えるという順応(Accommodation)を示した、などの可能性が考えられるのかもしれません。
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この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、十五頭の健常馬を用いて、実験前と、左側喉頭神経切除術(Left recurrent laryngeal neurectomy)による喉頭片麻痺の誘導後、そして、両側性声嚢声帯切除術(Bilateral ventriculocordectomy)の併用ありなしでの人工喉頭形成術(Prosthetic laryngoplasty)の実施から、60日後および180日後における、上部気道機能(Upper airway function)の評価、および内視鏡検査(Endoscopy)が行われました。
結果としては、喉頭片麻痺の誘導後に生じた吸気量制限(Inspiratory flow limitation)は、喉頭形成術(声嚢声帯切除術の併用の有無に関わらず)のあとには、実験前と同程度まで回復していましたが、声嚢声帯切除術を併用した場合としなかった場合では、上部気道機能に有意差(Significant differences)は見られませんでした。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、喉頭形成術によって充分な吸気量の回復が期待できることが示唆されましたが、声嚢声帯切除術を併用することで、上部気道機能が更に改善するというデータは示されませんでした。また、この研究には、声嚢声帯切除術ありで喉頭形成術なしの治療郡は含まれていませんが、他の文献では、声嚢声帯切除術のみでは上部気道機能の回復作用は期待できない、という知見も報告されています(Shappell et al. AJVR. 1988;49:1760)。
この研究では、声嚢声帯切除術なしでの喉頭形成術が行われた馬では、五頭中の四頭において、両側の声嚢が運動時に空気で膨満(Filling of both ventricles with air during exercise)している所見が認められました。このように膨満して気道内に突出(Protrusion into the airway)した声嚢は、高速運動中の喘鳴音(Roaring sound)を引き起こす場合も考えられ、喉頭形成術の実施の際に声嚢声帯切除術を併用することで、術後の呼吸器雑音(Respiratory noise)を減退する効能が期待できる(=上部気道機能に直接的には関連しない?)、という推測も成り立つのかもしれません。
この研究では、術後の内視鏡検査において、喉頭形成術を受けた左側の披裂軟骨(Left arytenoid cartilage)は、安静時よりも遠軸側へ外転(Abducted beyond the intermediate position)していたものの、咽頭壁(Pharyngeal wall)には接触しておらず、喉頭形成術による過剰矯正(Over-collection)は起こしていなかった事が示唆されました。他の文献では、馬の喉頭形成術で重要なのは、最大限の披裂軟骨外転(Maximal arytenoids abduction)を達成する事ではなく、動的圧潰を予防(Prevention of dynamic collapse)する事である、という提唱もなされています(Derksen et al. AJVR. 1986;47:16)。
この研究では、喉頭片麻痺の誘導後に偽手術(Sham surgery)が行われた馬(=対照郡の馬)において、術後の180日間で上部気道機能が緩やかな回復傾向(統計的な有意差は無し)が認められました。この理由については、この研究の考察の中では明確には結論付けられていませんが、もともと健常な実験馬を用いた試験法であるため、研究期間中に喉頭神経の再生(Regeneration)が起こったり、馬自身が無意識に呼吸の仕方を変えるという順応(Accommodation)を示した、などの可能性が考えられるのかもしれません。
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