新型コロナは無症状者からは感染しない?
日常 - 2020年07月10日 (金)

新型コロナウイルスは、無症状の感染者からは拡大しないのでしょうか?
世界保健機関(WHO)の発表によれば、新型コロナの無症状の感染者が、この病気を周囲に拡大させてしまうことは「非常に稀(Very Rare)である」と述べられています。世界保健機関のヴァンケルホーフ博士によれば、新型コロナ感染の接触追跡を実施した各国の知見を解析したところ、PCR検査で新型コロナ感染が確認された人においても、その方が無症状であった場合には、周囲の人々に二次感染を起こすことは「非常に稀」である、ことが報告されているそうです。
これは、科学的に考えれば至極もっともなことです。何故なら、仮に新型コロナウイルスに曝露された人でも、体内の免疫システムが作動して、発熱などの症状を示さないほど容易にウイルス増殖が抑え込まれてしまえば、体外に排出するウイルスは殆ど存在しなくなりますので、その人が感染源になる確率は「非常に稀」というレベルになるのではないでしょうか。つまり、症状が出ている人だけ外出自粛にしてしまえば、無症状の人たちのあいだで社会的距離政策を取ることは、理論的に無意味であるようにも思えます。
しかし、世界保健機関は、もうひとつの問題点を指摘しています。それは、本当に無症状である人々と、症状が現れる前日に無意識のうちに病気を広める可能性がある人々とを、明確に区別するのは難しいことです。つまり、新型コロナを免疫が抑え込んで、最後まで症状を決して示さない人たちは、おそらく感染源になる可能性は低いと思われますが、その一方で、免疫がウイルスを抑え込めず、発症に至ってしまう人たちでは、症状発現の一日前であっても、体内でのウイルス増殖は進んでいますので、飛沫などを通して周囲に感染を拡大させてしまう可能性は除外できない、という事のようです。

ここで言う、無症状の段階での感染率がどれ位なのかは諸説あります。最近の論文では、新型コロナの感染者の発症日と、その方から感染した周囲の患者の発症日を比較した結果、新型コロナ感染の12.6%は、最初の感染者の発症より前に起きていた可能性がある、という知見が示されています。また、他の論文では、新型コロナの既知の感染者との濃厚接触者を追跡調査したときのデータを解析したところ、臨床的に無症状の段階であっても、ウイルスの検出量は発症者並みに多かったという知見も報告されています。
一方で、無症状の段階での感染力は、症状が出ている段階に比べれば、感染拡大のリスクがかなり低いことも間違いないそうです。現段階での報告を見る限り、最も高い推定値でも約2%に過ぎないとの事です。つまり、症状発現の前に濃厚接触しても、98%は感染を伝搬しない事になりますので、やはり、無症状の感染者から新型コロナが拡大することは稀である、と結論付けられそうです。そう考えると、新型コロナの対策として最も重要なのは、毎朝検温して、新型コロナの症状が少しでも疑われる人は外出自粛をしてもらう事なのかもしれません。
そもそも、「感染」とはどのような状態を指す用語なのでしょうか。英語の文献では、ヒトの体内に、どんなに僅かでも病原体が存在する状態を感染と呼んでしまうと、曖昧さを生じてしまうことから、そのような状態は感染ではなく「定着」(Colonization)と呼び、臨床症状が現れた状態になって初めて「感染」(Infection)と呼ぶという定義が提唱されています。私たちの体には、呼気等を通して常に多量の病原体が侵入していますが、それが体の防御能力のキャパを越えて増殖してしまうと、臨床症状が出始めて、そこから感染と呼べる段階に入っていくのだそうです。

こう考えると、PCR検査の結果を根拠にして「感染者数」を出していることさえ、本当にそれで良いのか?と考えさせられます。つまり、鼻腔スワブを用いたPCR検査の陽性反応は、鼻粘膜にウイルスが存在していたことを示していますので、厳密に言えば、定着なのか感染なのかは区別できないとも解釈できます。逆に言えば、発熱などの臨床症状を示している患者の鼻粘膜にウイルスが存在しているようになって、初めてそれを感染と呼ぶべきなのかもしれません。実際のところ、インフルエンザやエイズウイルスの診断でも、PCR検査は行われず、血中の抗体を検出することで診断が下されることが一般的です。
いずれにしても、新型コロナにおいて、無症状の“感染”者から感染拡大が起こる確率は、症状を示している感染者よりも低いですので、どこまでのリスクを許容するかの共通認識を社会全体で確立させるのが大切だと思います。たとえば、ライノウイルス、アデノウイルス、旧型コロナウイルスなど、他のウイルス感染(いわゆる通常の風邪のウイルス)では、見た目が健常な人たちをPCR検査して、不顕性感染者を探し出すようなことはしません(これらのウイルス感染でも、ワクチンや治療薬が無いにも関わらず)。つまり、ウイルス感染まで至っていないウイルス定着のリスクは、社会的に許容できると見なされているという事です。
新型コロナはどこまで許容するべきなのか、について考えさせられます。
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