馬の文献:喉頭片麻痺(Dixon et al. 2003b)
文献 - 2020年07月11日 (土)
「200頭の混血高齢馬郡における喉頭形成術および声嚢声帯切除術の長期的調査。パート2:手術の価値に対する馬主の評価」
Dixon RM, McGorum BC, Railton DI, Hawe C, Tremaine WH, Dacre K, McCann J. Long-term survey of laryngoplasty and ventriculocordectomy in an older, mixed-breed population of 200 horses. Part 2: Owners' assessment of the value of surgery. Equine Vet J. 2003; 35(4): 397-401.
この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、1986~1998年にかけて、喉頭形成術(Laryngoplasty)および声嚢声帯切除術(Ventriculocordectomy)による治療が行われた、200頭の混血高齢馬郡(Older and mixed-breed population)の馬主に対する、術後の治療効果および満足度(Satisfaction)に関する聞き取り調査(Survey)が行われました。
この研究では、術後の内視鏡検査によって、披裂軟骨の外転が以下のように点数化されました。
グレード1:過剰外転(Excessive abduction)。披裂軟骨が最大限まで外転し(披裂軟骨の折れ曲がり角度が80~90度)、小角突起(Corniculate process)が正中線(Midline)を超えて対側へ引っ張られている。
グレード2:披裂軟骨の外転は最大限以下で、披裂軟骨の折れ曲がり角度が50~80度。
グレード3:披裂軟骨の外転は中程度で、披裂軟骨の折れ曲がり角度が45度前後。
グレード4:披裂軟骨の外転は少なく、安静時の位置より僅かに引っ張れた位置。
グレード5:探知可能な披裂軟骨の外転は無し。
結果としては、200頭の患馬の馬主のうち、喉頭形成術および声嚢声帯切除術に、実施するだけの価値があった(Worthwhile)と回答したのは86%に上りましたが、このような手術への満足率は、障害飛越馬(Show jumping horses)の馬主では100%であったのに対して、長距離競走馬(Long distance racehorses)の馬主では71%にとどまっていました。また、200頭の患馬のうち、術後に競技&競走能力が向上(Improvement in performance)したのは75%であった事が示され、このような運動復帰後における競技&競走能力の向上率は、競走馬では67%、スポーツ乗用馬や愛玩馬などの非競走馬では70%であった事が報告されています。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、喉頭形成術および声嚢声帯切除術を介しての外科的療法によって、良好な治療効果と、馬主の満足度が達成できることが示唆されました。一般的に、馬の喉頭片麻痺に対する喉頭形成術は、最大レベル以下の運動(Submaximal levels of exercise)をする症例において、治療効果がより高いことが示されており(Kidd et al. Vet Rec. 2002;150:481)、今回の研究においても、競走馬よりも非競走馬のほうが、喉頭形成術の治療効果が高い傾向が認められました。
この研究では、200頭の患馬のうち、91%が完全な使役に復帰(Returned to full work)に復帰しましたが、この復帰率は、グレード2の披裂軟骨外転の馬(術後の六週後の時点)では95%に上ったのに対して、グレード3では91%、グレード4では88%、グレード5では25%にとどまっていました。また、200頭の患馬のうち、術後に喘鳴音が消失したのは73%、喘鳴音が減退したのは21%であった事が示され、この喘鳴音の改善度合いと、術後六週目における披裂軟骨外転のグレードとの間には、有意な正の相関(Positive correlation)が認められました。そして、このような運動復帰後における喘鳴音の消失率は、競走馬では60%にとどまったのに対して、スポーツ乗用馬や愛玩馬などの非競走馬では75%にのぼっていました。
一般的に、馬の喉頭片麻痺に対する外科的療法では、何を持って手術の“成功”と見なすかに関しては論議(Controversy)があり、呼吸器雑音(Respiratory noise)の消失を治療の最優先目的(Primary purpose)とする症例報告がある反面(Marks et al. EVJ. 1970;2:159)、喘鳴音よりも運動不耐性(Exercise intolerance)の改善を、治療効果の第一指標(Sole criteria)するべきである、という提唱もなされています(Hawkins et al. Vet Surg. 1997;26:484)。また、呼吸器雑音の有無や変化を判断する際には、馬主や調教師、騎手の経験によって、その評価に大きな差が生まれる事が知られています(Goulden et al. NZ Vet J. 1982;30:1)。一般的に、喉頭形成術から数週間のあいだには、インプラントの緩みによる披裂軟骨外転の減退が起こることから、手術直後よりも六週間目前後における内視鏡検査(Endoscopy)の所見によって、より正確な予後判定(Prognostication)が可能になる事を再確認するデータが示されたと言えるかもしれません。
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この研究では、術後の内視鏡検査によって、披裂軟骨の外転が以下のように点数化されました。
グレード1:過剰外転(Excessive abduction)。披裂軟骨が最大限まで外転し(披裂軟骨の折れ曲がり角度が80~90度)、小角突起(Corniculate process)が正中線(Midline)を超えて対側へ引っ張られている。
グレード2:披裂軟骨の外転は最大限以下で、披裂軟骨の折れ曲がり角度が50~80度。
グレード3:披裂軟骨の外転は中程度で、披裂軟骨の折れ曲がり角度が45度前後。
グレード4:披裂軟骨の外転は少なく、安静時の位置より僅かに引っ張れた位置。
グレード5:探知可能な披裂軟骨の外転は無し。
結果としては、200頭の患馬の馬主のうち、喉頭形成術および声嚢声帯切除術に、実施するだけの価値があった(Worthwhile)と回答したのは86%に上りましたが、このような手術への満足率は、障害飛越馬(Show jumping horses)の馬主では100%であったのに対して、長距離競走馬(Long distance racehorses)の馬主では71%にとどまっていました。また、200頭の患馬のうち、術後に競技&競走能力が向上(Improvement in performance)したのは75%であった事が示され、このような運動復帰後における競技&競走能力の向上率は、競走馬では67%、スポーツ乗用馬や愛玩馬などの非競走馬では70%であった事が報告されています。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、喉頭形成術および声嚢声帯切除術を介しての外科的療法によって、良好な治療効果と、馬主の満足度が達成できることが示唆されました。一般的に、馬の喉頭片麻痺に対する喉頭形成術は、最大レベル以下の運動(Submaximal levels of exercise)をする症例において、治療効果がより高いことが示されており(Kidd et al. Vet Rec. 2002;150:481)、今回の研究においても、競走馬よりも非競走馬のほうが、喉頭形成術の治療効果が高い傾向が認められました。
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一般的に、馬の喉頭片麻痺に対する外科的療法では、何を持って手術の“成功”と見なすかに関しては論議(Controversy)があり、呼吸器雑音(Respiratory noise)の消失を治療の最優先目的(Primary purpose)とする症例報告がある反面(Marks et al. EVJ. 1970;2:159)、喘鳴音よりも運動不耐性(Exercise intolerance)の改善を、治療効果の第一指標(Sole criteria)するべきである、という提唱もなされています(Hawkins et al. Vet Surg. 1997;26:484)。また、呼吸器雑音の有無や変化を判断する際には、馬主や調教師、騎手の経験によって、その評価に大きな差が生まれる事が知られています(Goulden et al. NZ Vet J. 1982;30:1)。一般的に、喉頭形成術から数週間のあいだには、インプラントの緩みによる披裂軟骨外転の減退が起こることから、手術直後よりも六週間目前後における内視鏡検査(Endoscopy)の所見によって、より正確な予後判定(Prognostication)が可能になる事を再確認するデータが示されたと言えるかもしれません。
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