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馬の病気:肩甲骨骨折

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肩甲骨骨折(Scapula fracture)について。

肩甲骨の骨折は、関節窩上結節(Supraglenoid tubercle)において最も多く見られますが、肩甲骨の頚部や体部(Scapular neck/body)に起こる事もあります。蹴傷や転倒などの外傷性に発症することが一般的ですが、肩甲上神経麻痺(Suprascapular nerve paralysis)(いわゆるSweeny)に起因する棘上筋(Supraspinatus muscle)および棘下筋(Infraspinatus muscle)の萎縮(Atrophy)に続発して起こる病態や、Sweenyの治療のため肩甲骨縁を切除した部位から医原性骨折(Iatrogenic fracture)を起こす場合もあります。

肩甲骨骨折の症状としては、急性発現性(Acute onset)の重度跛行(Severe lameness)と、患部の腫脹(Swelling)や圧痛(Pain on palpation)を呈しますが、多くの症例において疼痛症状は48~72時間で減退することが知られています。関節窩上結節の骨折では、二頭筋腱(Biceps muscle tendon)、上腕関節窩靭帯(Glenohumeral ligaments)、烏口上腕筋腱(Coracobrachialis muscle tendon)などの緊張によって骨折片の裂離(Fragment separation)と頭腹側変位(Cranioventral displacement)を起こすため、捻髪音(Crepitation)が聴取されることはあまりありません。病状が慢性に経過した場合(三週間以上)には、肩部筋肉の萎縮(Shoulder muscle atrophy)を示すこともあります。

肩甲骨骨折の確定診断(Definitive diagnosis)はレントゲン検査によって下されますが、骨折部位によっては全身麻酔下(Under general anesthesia)での撮影を要する事もあります。不完全骨折(Incomplete fracture)の症例において、骨折線が明瞭でない場合には、核医学検査(Nuclear scintigraphy)や1~2週間後の再レントゲン撮影が必要とされる事もあります。また、的確な予後判定(Prognostication)のため、発症後一週間以上経った後において、筋電図検査(Electromyography)を介して橈骨神経損傷(Radial nerve damage)や肩甲上神経損傷(Suprascapular nerve damage)の評価を行うことが推奨されています。

関節窩上結節の骨折の治療では、馬房休養(Stall rest)を介しての保存性療法(Conservative therapy)によって、繁殖馬(Breeding horse)やコンパニオン・アニマル(“Posture-soundness”)としての飼養が可能なまでの治癒が期待できる事が示唆されています。保存性療法では、肩関節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を併発して、慢性に軽度跛行(Chronic mild lameness)を示すことが多いため、騎乗用での使役は困難であることが報告されています。重篤な粉砕骨折(Marked comminuted fracture)を呈した症例では、骨折片の外科的除去(Surgical removal of fragments)が行われる場合もあり、二頭筋腱の肩甲骨への再縫合(Biceps tendon reattachment)によって肩関節の可動性の維持が施されます。また、関節窩上結節の三分の一以上に達する骨折を起こした症例において、騎乗使役への復帰が望まれる場合には、螺子固定術(Lag screw fixation)と周回ワイヤー固定術(Cerclage wire fixation)による骨折片の外科的整復と関節面再構築(Joint surface reconstruction)が試みられます。この際には、二頭筋腱の部分または完全切除術(Partial/Complete tenotomy of biceps muscle)の併用によって、固定具破損(Implant failure)の危険を減少できることが示唆されていますが、術後に肩関節の不安定性(Shoulder joint instability)を生じる危険もあるため、実施には賛否両論(Controversy)があります。

肩甲骨の頚部および体部の骨折の治療では、無変位性骨折(Non-displaced fracture)または最小限の変位性骨折(Minimally displaced fracture)を呈する症例では、保存性療法による骨治癒が期待できることが報告されています。骨折片の重篤な変位と不負重性跛行(Non-weight-bearing lameness)を呈する症例では、螺子固定術やプレート固定術による整復も試みられていますが、粉砕骨折を起こした症例では予後不良を示すことが多いため(特に肩甲骨頚部の粉砕骨折において)、安楽死(Euthanasia)が選択されることもあります。

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