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馬の文献:喉頭片麻痺(Brown et al. 2003)

「声嚢声帯切除術は馬の喉頭片麻痺における呼吸器雑音を減少させる」
Brown JA, Derksen FJ, Stick JA, Hartmann WM, Robinson NE. Ventriculocordectomy reduces respiratory noise in horses with laryngeal hemiplegia. Equine Vet J. 2003; 35(6): 570-574.

この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、六頭の健常馬を用いて、実験前と、左側喉頭神経切除術(Left recurrent laryngeal neurectomy)による喉頭片麻痺の誘導後、そして、両側性声嚢声帯切除術(Bilateral ventriculocordectomy)の実施から、30日後、90日後、および120日後における、吸気時上部気道圧(Inspiratory trans-upper airway pressure)、吸気音量(Inspiratory sound level)、吸気音強度(Inspiratory sound intensity)の解析が行われました。

結果としては、吸気時上部気道圧、吸気音量、および吸気音強度は、喉頭片麻痺の誘導後には有意に増加していましたが、声嚢声帯切除術の90日後および120日後では、喉頭片麻痺の誘導後に比べて、有意に減少しており、特に吸気音強度は、実験前の基底値(Baseline value)まで回復していました。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、声嚢声帯切除術によって良好な喘鳴音の減退効果が期待できることが示唆されました。今後の研究では、喉頭形成術(Laryngoplasty)と併用された場合の、声嚢声帯切除術による呼吸器雑音(Respiratory noise)の改善効果を、客観的評価(Objective assessment)する必要があると考えられました。

この研究における声嚢声帯切除術では、通常の喉頭切開術(Laryngotomy)によるアプローチ後、バーを用いての声嚢摘出、4mmの声帯組織を切除してから、声帯の軸側切端(Axial free edge of the vocal fold)と声嚢の遠軸側切端(Abaxial free edge of the saccule)とを、単純連続パターン(Simple continuous pattern)で縫合結合する術式が応用されました。このうち、遺残する声帯と声嚢を縫合する手法は、必ずしも常に実施される声嚢声帯切除術の術式ではないため、今後の臨床試験(Clinical trial)によって、縫合なしの術式と同じまたはより高い治療効果が誘導されるのか否かを、詳細に評価する必要があると考察されています。

一般的に、馬の喉頭片麻痺に対する声嚢声帯切除術および声嚢切除術では、喘鳴音(Roaring sound)の改善効果があることが報告されていますが、過去の文献は、主観的評価(Subjective evaluation)のみが行われているのに対して(Spiers et al. Aust Vet J. 1983;60:294, Russell et al. JAVMA. 1994;204:1235, Hawkins et al. Vet Surg. 1997;26:484)、今回の研究では、術前および術後における馬の呼吸器雑音を、音響解析によって定量的評価(Quantitative analysis)する試みがなされています。そして、声嚢声帯切除術から90日後および120日後では、人間の耳には喘鳴音が聞こえなかったものの、この時点での吸気音量は、実験前よりは有意に高い値を示しており、音響解析技術を応用することで、より感度(Sensitivity)の高い治療効果の評価が可能であったことが示唆されました。

この研究では、声嚢声帯切除術から30日後の時点では、呼吸器雑音には有意な変化が起きておらず、術後に効能が示されるまでには90日前後を要することが示唆され、この要因としては、声帯残遺物(Remnant of the vocal fold)と喉頭外側壁(Lateral laryngeal wall)とのあいだの瘢痕形成(Scar formation)が生じるのに、最低でも30日以上かかる事が挙げられています。また、一般的な馬の創傷治癒(Wound healing)の過程では、充分な成熟コラーゲン線維および束(Mature collagen fibers and bundles)が生成されるまでには60日を要し、その後も数ヶ月にわたって瘢痕組織の再構築(Remodeling)が生じることが知られています(Silver et al. EVJ. 1982;14:7)。

この研究では、声嚢声帯切除術から90日後の時点においても、吸気時上部気道圧は実験前の値までは回復していませんでした。そして、このような声嚢声帯切除術を介しての上部気道圧の改善効果は、最大強度以下の運動(Submaximal level of exercise)をする乗用馬においては充分であるものの、より高速運動を要する競走馬においては不十分であることが示唆されています。このため、競走馬に対する上部気道機能(Upper airway function)の回復のためには、声嚢声帯切除術のみでは適切な効能は期待できず、必ず喉頭形成術の併用が必要とされる、という考察がなされています。

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