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馬の文献:喉頭片麻痺(Kraus et al. 2003)

「104頭の重種馬に対する喉頭形成術と声嚢切除術および声嚢声帯切除術(1992~2000年)」
Kraus BM, Parente EJ, Tulleners EP. Laryngoplasty with ventriculectomy or ventriculocordectomy in 104 draft horses (1992-2000). Vet Surg. 2003; 32(6): 530-538.

この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、1992~2000年にかけて、喉頭形成術(Laryngoplasty)に声嚢切除術(Ventriculectomy)または声嚢声帯切除術(Ventriculocordectomy)を併用する治療が実施された104頭の重種馬(Draft horses)における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。この研究では、三段階の競技能力スコア(Performance score):グレード1(競技できない)、グレード2(競技できるが意図したレベル以下)、グレード3(意図したレベルでの競技ができる)を用いることで、術前と術後の能力評価が行われました。

結果としては、経過追跡(Follow-up)ができた79頭の患馬において、術前には全頭の競技能力スコアがグレード1であったのに対して、術後にはグレード3が72%(57/79頭)、グレード2が20%(16/79頭)、グレード3が8%(6/79頭)となっており、外科的療法によって競技能力の改善が認められた馬は92%、呼吸器雑音(Respiratory noise)が消失した馬は72%に上っていました。このため、喉頭片麻痺を発症した重種馬に対しては、喉頭形成術に声嚢切除術または声嚢声帯切除術を併用する外科的療法によって、良好~素晴らしい予後(Good to excellent prognosis)が示され、競技能力の向上および喘鳴音(Roaring sound)の消失を達成できる馬の割合が、比較的に高いことが示唆されました。

この研究では、術前の内視鏡検査(Endoscopy)において、披裂軟骨(Arytenoid cartilage)の完全麻痺(Paralysis)が見られた馬(グレード4の喉頭片麻痺)は83%に上っており、これはサラブレッド症例郡に占めるグレード4の割合よりも(Hawkins et al. Vet Surg. 1997;26:484, Dixon et al. EVJ. 2001;33:452)、顕著に高い傾向にありました。また、治療成功を示した症例の割合は、今回の研究では92%、他の重種馬の症例報告でも82%に上っており(Bohanon et al. Vet Surg. 1990;19:456)、やはりサラブレッド症例郡における治療成功率(Success rate)よりも、顕著に高い傾向が見られました。これらのデータは、最大以下強度での運動(Submaximal exercise)する重種馬においては、高速運動を要するサラブレッド競走馬に比べて、不全麻痺(Paresis)でも競技を継続できる場合が多く、また、治療後における上部気道機能の完全回復(Full recovery of upper airway function)の必要性が低く、外科手技の許容範囲(Margin of error)も比較的に広いことを示唆するものであると考えられます。

この研究では、手術直後の内視鏡検査において、“七割以上”の披裂軟骨の外転(Abduction)が認められた症例のほうが、術後の競技能力スコアが良い傾向にありました。過去の文献では、喉頭形成術によって披裂軟骨の過剰矯正(Over-correction)が施されると、咳嗽(Coughing)、誤嚥性肺炎(Aspiration pneumonia)、嚥下障害(Dysphagia)などを呈して、予後が悪化しやすいことが報告されており(Ducharme et al. Comp Cont Educ Pract Vet. 1991;13:472)、この研究の考察でも、“七割~九割”の披裂軟骨外転を実施することで適当である、という提唱がなされています。一方で、他の文献では、喉頭形成術後の披裂軟骨の外転度合いと、その後の競走能力は有意には相関しない(=咳をする頻度は増えても、走るのが遅くなるわけではない)という、相反する結果(Conflicting results)も示されており(Russell et al. JAVMA. 1994;204:1235)、披裂軟骨をどの程度まで外側へ引っ張れば良い治療成績につながるのかに関しては、なお論議(Controversy)があると言えそうです。

この研究では、喉頭形成術の破損や緩み(Failure/Loosening)によって、再手術を要した10頭の症例のうち、二度目の手術のあとに良好な予後(競技能力スコアが3)を示したのは八割(8/10頭)に上っており、重種馬の喉頭片麻痺においては、喉頭形成術のやり直しによって、充分な上部気道機能の回復が期待されることが示唆されました。他の文献では、非競走馬(Non-racehorses)の症例郡において、喉頭形成術の反復によって、64%の治療成功率が示されたことが報告されています(Tulleners et al. Vet Surg. 1994;23:417)。

この研究では、術前の喉頭片麻痺の重篤度(Pre-operative severity)と、術後の競走能力スコアのあいだには、有意な相関(Significant correlation)は認められず、重度の麻痺を呈した症例においても、喉頭形成術に声嚢切除術&声嚢声帯切除術を併用する療法によって、十分な治療効果が達成できることが示唆されました。また、両者のあいだには負の相関も見られず、完全麻痺(Paralysis)のほうが喉頭形成術の破損が起きにくい(=術前の病態が悪いほど予後は良い傾向にある)という、他の文献の知見(Ducharme et al. Comp Cont Educ Pract Vet. 1991;13:472)を裏付けるデータも示されませんでした。

この研究では、喉頭形成術のみが行われた症例に比べて、声嚢切除術または声嚢声帯切除術が併用された症例のほうが、術後の競走能力スコアや、呼吸器雑音の消失率が、やや高めになる傾向(Tendency)が認められましたが、統計的な有意差は認められず、症例のサンプル数が不十分であった可能性が示唆されています(データ解析のパワー値は記述されていない)。一方、声嚢切除術または声嚢声帯切除術のみが行われた七頭の馬では、いずれも充分な競技能力の回復が見られず、再手術での喉頭形成術によって、七割以上(5/7頭)が良好な治療成績(競技能力スコアが3)を残した事が報告されています。

この研究では、麻酔後合併症(Post-anesthetic complications)としては、覚醒遅延(Prolonged recovery)が4%、麻酔後筋症&神経症(Post-anesthetic myopathy/neuropathy)が7%の馬に見られました。これは、体重の重い重種馬の手術において、充分なクッションやパッドを施すなど、筋肉や神経への過剰圧迫(Excessive compression)を和らげる処置の重要性を、再確認させるデータであると言えるのかもしれません。一方、術後に呼吸困難(Difficult postoperative breathing)を起こす割合は、重種馬では19%に上り(Bohanon et al. Vet Surg.1990;19:456)、サラブレッド競走馬の0.4%(Hawkins et al. Vet Surg. 1997;26:484)よりも顕著に高いという報告もありますが、今回の研究では、呼吸困難が見られた症例はありませんでした。

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