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馬の文献:喉頭片麻痺(Brown et al. 2004)

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「喉頭片麻痺の罹患馬における呼吸器雑音減退への喉頭形成術の効果」
Brown JA, Derksen FJ, Stick JA, Hartmann WM, Robinson NE. Effect of laryngoplasty on respiratory noise reduction in horses with laryngeal hemiplegia. Equine Vet J. 2004; 36(5): 420-425.

この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、六頭のスタンダードブレッドを用いて、実験前と、左側喉頭神経切除術(Left recurrent laryngeal neurectomy)による喉頭片麻痺の誘導後、そして、喉頭形成術(Laryngoplasty)の実施から、30日後、90日後、および120日後における、吸気時上部気道圧(Inspiratory trans-upper airway pressure)、吸気音量(Inspiratory sound level)、吸気音強度(Inspiratory sound intensity)の解析が行われました。

結果としては、吸気時上部気道圧、吸気音量、および吸気音強度は、喉頭片麻痺の誘導後には有意に増加していましたが、声嚢声帯切除術の30日後では、喉頭片麻痺の誘導後に比べて、有意に減少しており、特に吸気音強度は、実験前の基底値(Baseline value)まで回復していました。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、喉頭形成術によって呼吸器雑音の減退(Respiratory noise reduction)が期待できるものの、その効能は両側性声嚢声帯切除術(Bilateral ventriculocordectomy)ほどは高くない事が示唆されました。一方、同著者の過去の研究結果と比較した場合、喉頭形成術を介しての呼吸器雑音の減退は、声嚢声帯切除術(術後の90~120日)よりも喉頭形成術(術後の30日)のほうが迅速である事が示されました。

一般的に、馬の喉頭片麻痺に対しては、喉頭形成術によって上部気道機能(Upper airway function)を健常状態まで回復可能であることが知られており(Shappell et al. AJVR. 1988;49:1760, Williams et al. Vet Surg. 1990;19:142, Tetens et al. AJVR. 1996;57:1668)、今回の研究でも、喉頭形成術の30日後において、上部気道圧が基底値まで回復していたことが示されました。そして、喉頭片麻痺に罹患した競走馬は、喉頭形成術によってレース復帰できる割合が高いことが、多くの文献によって示されており(Spiers et al. Aust Vet J. 1983;60:294, Hawkins et al. Vet Surg. 1997;26:484, Strand et al. JAVMA. 2000;217:1689)、馬の喉頭片麻痺に対する重要な治療選択肢(Treatment of choice)であると提唱されています。しかし、呼吸器雑音に対しては、喉頭形成術によって雑音量が下げられるものの、完全に消失(Eliminate the noise)させることは出来ず、声嚢切除術(Ventriculectomy)および声嚢声帯切除術を併用する術式が推奨される、というこれまでの知見を再確認させるデータが示されたと言えます。

この研究では、吸気音量と吸気音強度は、吸気時上部気道圧と有意な正の相関(Significant positive correlation)を示していましたが、その相関度合いはそれほど強くない(決定係数:0.26~0.40)ことが報告されています。つまり、上部気道機能の回復を予測(Prediction)するためには、呼吸器雑音の減退度合いは不十分な指標(Insufficient parameter)にしか過ぎない事が示唆されました。そしてこのデータは、喉頭形成術を受けた競走馬の中には、喘鳴音(Roaring sound)が残ったままでもレース復帰と良好な競走能力を示す症例もある(=呼吸器雑音の消失の如何に関わらず、早く走れるようになる)、という過去の知見を裏付けるものである、という考察がなされています。

一般的に、喉頭片麻痺の罹患馬に対する、喉頭形成術の治療効果は、披裂軟骨外転の度合いよりも、披裂軟骨の安定性(Stability)に影響を受ける、という知見が示されており(Derksen et al. AJVR. 1986;47:16)、また、喉頭形成術後の競走能力は、披裂軟骨の外転グレードとは相関していなかった、という報告もなされています(Russell et al. JAVMA. 1994;204:1235)。そして、今回の研究でも、披裂軟骨の外転グレード(Grade of arytenoids cartilage abduction)は、吸気時上部気道圧とは相関しておらず、つまり、上部気道機能の回復度合いは、必ずしも披裂軟骨の外転度合いに比例するものではないという、過去の文献と合致する結果が示されました。

この研究では、披裂軟骨の外転グレードは、吸気音強度と有意かつ強い相関(決定係数:0.76)を示しており、つまり、披裂軟骨の外転度合いが大きいほど、より呼吸器雑音が大きいという、一見して矛盾するデータが認められました。しかし、他の文献では、披裂軟骨の外転グレード別に見た、過剰な呼吸器雑音(Excessive respiratory noise)が示された馬の割合は、グレード3では43%、4では52%、5では67%となっており(Russell et al. JAVMA. 1994;204:1235)、披裂軟骨の外転が少ないほど、呼吸器雑音も少なくなり易い、という傾向が見られました。このため、喉頭形成術を介して、披裂軟骨を充分に外転させた後には、声嚢切除術および声嚢声帯切除術を併用しなければ、喘鳴音そのものは改善しないケースもありうるという知見を、重ねて示唆するデータが示されたと言えるかもしれません。

一般的に、最大以下強度の運動(Submaximal level of exercise)のみを要する障害飛越馬(Show jumper)や馬場馬(Dressage horses)においては、競技能力の向上のために、必ずしも上部気道機能の完全な回復は要しない場合が多く、何が最も適した喉頭片麻痺の外科的療法であるかに関しては論議(Controversy)があります。そして、喉頭形成術に比べて、声嚢切除術および声嚢声帯切除術では、嚥下障害(Dysphagia)、誤嚥性肺炎(Aspiration pneumonia)、慢性咳嗽(Chronic coughing)、インプラント損失(Prosthetic failure)等の、術後合併症(Post-operative complications)の危険性が低いことも考慮すると、非競走馬の喉頭片麻痺において、呼吸器雑音の減退および消失が最優先の治療目的(Primary objective)である場合には、喉頭形成術よりも声嚢切除術または声嚢声帯切除術を選択するべきである、という結論付けがなされています。

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