馬の文献:喉頭片麻痺(Barnes et al. 2004)
文献 - 2020年07月17日 (金)
「27頭のサラブレッド競走馬における粘膜閉鎖なしの披裂軟骨部分切除術後の競走能力」
Barnes AJ, Slone DE, Lynch TM. Performance after partial arytenoidectomy without mucosal closure in 27 Thoroughbred racehorses. Vet Surg. 2004; 33(4): 398-403.
この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、1992~2002年にかけて、安静時の内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭片麻痺(三頭は披裂軟骨肉芽組織を併発していた)の診断が下され、粘膜閉鎖(Mucosal closure)なしの披裂軟骨部分切除術(Partial arytenoidectomy)が応用された27頭のサラブレッド競走馬(Thoroughbred racehorses)における、医療記録(Medical records)および競走能力(Racing performance)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、治療前にはまだレースデビューしていなかった馬郡では、61%が術後にレース出走および賞金獲得を果たしましたが、これらの馬の全頭が、全米平均レベル以下(At a level lower than the national average)の競走能力にとどまりました。一方、治療前に既にレース出走していた馬郡では、78%が術後にレース復帰および賞金獲得を果たしましたが、競走能力指数(Performance index)の向上を示した馬は14%に過ぎませんでした。このため、喉頭片麻痺を起こしたサラブレッド競走馬に対しては、粘膜閉鎖なしの披裂軟骨部分切除術によって、“そこそこ”の予後(Fair prognosis)が期待され、実用的な選択肢(Practical alternative)と見なすことが出来る、という結論付けがなされています。
一般的に、馬に対する披裂軟骨切除術は、喉頭片麻痺のほかにも、披裂軟骨障害(Arytenoid chondropathy)や失敗した喉頭形成術(Failed laryngoplasty)への治療法として応用されています。古典的には、小角突起(Corniculate process)および筋突起(Muscular process)を残す披裂軟骨亜全切除術(Subtotal arytenoidectomy)の術式が実施されていましたが、この手法では上部気道流動(Upper airway flow)の回復や上昇した上部気道圧(Increased upper airway pressure)の減退が達成できず(Belknap et al. AJVR. 1990;51:1481, Williams et al. Vet Surg. 1990;19:136)、また、残存する小角突起による動的圧潰(Dynamic collapse)を生じることから(Stick et al. JAVMA. 1989;195:619, Williams et al. Vet Surg. 1990;19:142)、改良型の術式である披裂軟骨部分切除術を実施するべきである、という提唱がなされています。
一般的に、披裂軟骨の部分切除術では、粘膜閉鎖を行うのは外科的難易度が高く、血腫形成(Hematoma formation)、内側部肥厚(Medial thickening)、線維性増殖(Fibroplasia)、縫合部離開(Suture dehiscence)などの術後合併症(Post-operative complication)を生じる危険性があります(Tulleners et al. JAVMA. 1988;192:670)。また、粘膜閉鎖した馬の75%が肉芽組織形成(Granulation tissue formation)を生じて、術創治癒(Surgical wound healing)に要した期間は、粘膜閉鎖なしの馬と有意差が無かったことが報告されています(Tulleners et al. Vet Surg. 1988;17:252)。このため、馬に対する披裂軟骨部分切除術では、粘膜閉鎖によって治療効果が上がるという根拠は示されておらず、粘膜閉鎖することなく術創の二次性治癒(Secondary healing)を待つという術式が推奨されています。
一般的に、馬に対する披裂軟骨切除術では、咳嗽(Coughing)、嚥下障害(Dysphagia)、誤嚥性肺炎(Aspiration pneumonia)などの合併症を生じる可能性が指摘されていますが(Speirs et al. Vet Surg. 1986;15:316)、今回の研究と過去の文献を比較した場合、粘膜閉鎖なしの披裂軟骨部分切除術を介して、術後合併症の危険性が高まるという傾向は示されませんでした。一方、術創治癒に要する期間は、粘膜縫合された場合のほうが、粘膜縫合なしの場合に比べて、八週間ほど短くなるという知見も示されており(Tulleners et al. JAVMA. 1988;192:670)、手術から迅速にレース復帰を促すという目的で、粘膜閉鎖ありの披裂軟骨部分切除術が選択される場合もある、という考察がなされています。
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結果としては、治療前にはまだレースデビューしていなかった馬郡では、61%が術後にレース出走および賞金獲得を果たしましたが、これらの馬の全頭が、全米平均レベル以下(At a level lower than the national average)の競走能力にとどまりました。一方、治療前に既にレース出走していた馬郡では、78%が術後にレース復帰および賞金獲得を果たしましたが、競走能力指数(Performance index)の向上を示した馬は14%に過ぎませんでした。このため、喉頭片麻痺を起こしたサラブレッド競走馬に対しては、粘膜閉鎖なしの披裂軟骨部分切除術によって、“そこそこ”の予後(Fair prognosis)が期待され、実用的な選択肢(Practical alternative)と見なすことが出来る、という結論付けがなされています。
一般的に、馬に対する披裂軟骨切除術は、喉頭片麻痺のほかにも、披裂軟骨障害(Arytenoid chondropathy)や失敗した喉頭形成術(Failed laryngoplasty)への治療法として応用されています。古典的には、小角突起(Corniculate process)および筋突起(Muscular process)を残す披裂軟骨亜全切除術(Subtotal arytenoidectomy)の術式が実施されていましたが、この手法では上部気道流動(Upper airway flow)の回復や上昇した上部気道圧(Increased upper airway pressure)の減退が達成できず(Belknap et al. AJVR. 1990;51:1481, Williams et al. Vet Surg. 1990;19:136)、また、残存する小角突起による動的圧潰(Dynamic collapse)を生じることから(Stick et al. JAVMA. 1989;195:619, Williams et al. Vet Surg. 1990;19:142)、改良型の術式である披裂軟骨部分切除術を実施するべきである、という提唱がなされています。
一般的に、披裂軟骨の部分切除術では、粘膜閉鎖を行うのは外科的難易度が高く、血腫形成(Hematoma formation)、内側部肥厚(Medial thickening)、線維性増殖(Fibroplasia)、縫合部離開(Suture dehiscence)などの術後合併症(Post-operative complication)を生じる危険性があります(Tulleners et al. JAVMA. 1988;192:670)。また、粘膜閉鎖した馬の75%が肉芽組織形成(Granulation tissue formation)を生じて、術創治癒(Surgical wound healing)に要した期間は、粘膜閉鎖なしの馬と有意差が無かったことが報告されています(Tulleners et al. Vet Surg. 1988;17:252)。このため、馬に対する披裂軟骨部分切除術では、粘膜閉鎖によって治療効果が上がるという根拠は示されておらず、粘膜閉鎖することなく術創の二次性治癒(Secondary healing)を待つという術式が推奨されています。
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