馬の文献:喉頭片麻痺(Scherzer et al. 2005)
文献 - 2020年07月18日 (土)
「犬の前十字靭帯整復システムを用いての馬の喉頭形成術」
Scherzer S, Hainisch EK. Evaluation of a canine cranial cruciate ligament repair system for use in equine laryngoplasty. Vet Surg. 2005; 34(6): 548-553.
この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、五頭の健常馬から採取した喉頭組織に対して、犬の前十字靭帯整復システム(Canine cranial cruciate ligament repair system)を用いての喉頭形成術が試みられ、その後、七頭の喉頭片麻痺の罹患馬に対して、同システムを用いての喉頭形成術が実施されました。
結果としては、健常馬から採取した喉頭組織に対しては、犬の前十字靭帯整復システムによって、適切な披裂軟骨の外転(Abduction of arytenoid cartilage)が達成され、また、七頭の臨床症例に対しては、同システムによる喉頭形成術の後、四頭において披裂軟骨外転の緩み(僅かの緊張の損失:Slight loss of tension)が認められ、一頭において軟骨損傷(Cartilage failure)に起因する完全な損失(Complete loss of tension)が見られた事が報告されています。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、犬の前十字靭帯整復システムを使用することで、良好な喉頭形成術が行えることが示唆され、術式の選択肢として検討されるべきである、という提唱がなされています。
一般的に、馬の喉頭形成術が失敗する際には(糸で結ぶ術式の場合)、披裂軟骨の不適切な外転(Inadequate abduction)や過剰外転(Excessive abduction)に起因する合併症(咳嗽や誤嚥性肺炎など)を生じることが知られていますが、この不適切な外転が起こる時には、術中に糸を結ぶ際に緩みが生じたり、術後に糸が軟骨組織を裂いてしまうケースが多いと考えられています。しかし、馬の喉頭形成術では、術後の数週間のあいだに、披裂軟骨の外転度が減少する場合が多いことから、術中には適切な度合い(グレード4)よりもやや強めの外転を施すべきであると推奨されています。
今回の研究で試験された、犬の前十字靭帯整復システムは、歯止めの付いたテンションデバイス(Tensioning device with the ratchet mechanism)を使いながら、ナイロン縫合糸(Nylon suture)を圧着固定具(Crimping clamps)で保持する仕組みになっており、結び目を作る作業が必要ないので、術中に糸の緩みを生じる危険性が殆ど無く、また、術後にインプラントの緊張が緩んでしまう可能性も低いと推測されています。そして、ナイロン縫合糸の連結部に圧着固定具を掛けた後には、術者の指ではなくテンションデバイスを用いることから、披裂軟骨外転の調整(Adjustment)が行い易く、さらに、使用される縫合針の形状から、輪状軟骨(Cricoid cartilage)に糸を通過させる時にも、気道内に誤って及ぶ危険性が少ない、という利点が挙げられています。
今回の研究で試験された、犬の前十字靭帯整復システムで使用される糸は、通常の喉頭形成術に応用される糸よりやや太いか同程度の太さがあり、馬の喉頭形成術に転用するのに適している、という考察がなされています。また、馬の喉頭形成術が不成功に終わる場合には、糸が筋結節(Muscular process)の部位の軟骨を裂いてしまったり、結び目が緩む場合が殆どで、糸そのものが切れる可能性は殆どないことが知られており、より強度の高いインプラントを使うことの合理性(Rationale)および必要性(Necessity)は定かではありません。
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この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、五頭の健常馬から採取した喉頭組織に対して、犬の前十字靭帯整復システム(Canine cranial cruciate ligament repair system)を用いての喉頭形成術が試みられ、その後、七頭の喉頭片麻痺の罹患馬に対して、同システムを用いての喉頭形成術が実施されました。
結果としては、健常馬から採取した喉頭組織に対しては、犬の前十字靭帯整復システムによって、適切な披裂軟骨の外転(Abduction of arytenoid cartilage)が達成され、また、七頭の臨床症例に対しては、同システムによる喉頭形成術の後、四頭において披裂軟骨外転の緩み(僅かの緊張の損失:Slight loss of tension)が認められ、一頭において軟骨損傷(Cartilage failure)に起因する完全な損失(Complete loss of tension)が見られた事が報告されています。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、犬の前十字靭帯整復システムを使用することで、良好な喉頭形成術が行えることが示唆され、術式の選択肢として検討されるべきである、という提唱がなされています。
一般的に、馬の喉頭形成術が失敗する際には(糸で結ぶ術式の場合)、披裂軟骨の不適切な外転(Inadequate abduction)や過剰外転(Excessive abduction)に起因する合併症(咳嗽や誤嚥性肺炎など)を生じることが知られていますが、この不適切な外転が起こる時には、術中に糸を結ぶ際に緩みが生じたり、術後に糸が軟骨組織を裂いてしまうケースが多いと考えられています。しかし、馬の喉頭形成術では、術後の数週間のあいだに、披裂軟骨の外転度が減少する場合が多いことから、術中には適切な度合い(グレード4)よりもやや強めの外転を施すべきであると推奨されています。
今回の研究で試験された、犬の前十字靭帯整復システムは、歯止めの付いたテンションデバイス(Tensioning device with the ratchet mechanism)を使いながら、ナイロン縫合糸(Nylon suture)を圧着固定具(Crimping clamps)で保持する仕組みになっており、結び目を作る作業が必要ないので、術中に糸の緩みを生じる危険性が殆ど無く、また、術後にインプラントの緊張が緩んでしまう可能性も低いと推測されています。そして、ナイロン縫合糸の連結部に圧着固定具を掛けた後には、術者の指ではなくテンションデバイスを用いることから、披裂軟骨外転の調整(Adjustment)が行い易く、さらに、使用される縫合針の形状から、輪状軟骨(Cricoid cartilage)に糸を通過させる時にも、気道内に誤って及ぶ危険性が少ない、という利点が挙げられています。
今回の研究で試験された、犬の前十字靭帯整復システムで使用される糸は、通常の喉頭形成術に応用される糸よりやや太いか同程度の太さがあり、馬の喉頭形成術に転用するのに適している、という考察がなされています。また、馬の喉頭形成術が不成功に終わる場合には、糸が筋結節(Muscular process)の部位の軟骨を裂いてしまったり、結び目が緩む場合が殆どで、糸そのものが切れる可能性は殆どないことが知られており、より強度の高いインプラントを使うことの合理性(Rationale)および必要性(Necessity)は定かではありません。
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