馬の文献:喉頭片麻痺(Robinson et al. 2006)
文献 - 2020年07月20日 (月)
「馬の喉頭片麻痺に対するレーザー補助による片側性声嚢声帯切除術の効果」
Robinson P, Derksen FJ, Stick JA, Sullins KE, DeTolve PG, Robinson NE. Effects of unilateral laser-assisted ventriculocordectomy in horses with laryngeal hemiplegia. Equine Vet J. 2006; 38(6): 491-496.
この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、六頭のスタンダードブレッドを用いて、実験前と、左側喉頭神経切除術(Left recurrent laryngeal neurectomy)による喉頭片麻痺の誘導後、そして、レーザー補助による片側性声嚢声帯切除術(Unilateral laser-assisted ventriculocordectomy)の実施から、60日後、90日後、および120日後における、上部気道内視鏡検査(Upper airway endoscopy)、および、吸気時上部気道圧(Inspiratory trans-upper airway pressure)、吸気音量(Inspiratory sound level)、吸気音強度(Inspiratory sound intensity)の解析が行われました。
この研究での、レーザー補助による片側性声嚢声帯切除術は、起立位手術(Standing surgery)で実施され、枠場(Stocks)の中でDetomidineの持続性点滴(Continuous infusion)によって鎮静(Sedation)した馬に対して、内視鏡の生検孔(Biopsy channel)を介しての、Mepivicaineの声帯&声嚢への局所塗布(Topical application)が行われました。そして、内視鏡内を通した気管食道鉗子(Bronchoesophageal forceps)で声帯を保持しながら、内視鏡内を通したチューブを介して、ダイオードレーザーによって声帯の背側&腹側&尾側端(Dorsal, ventral, and caudal margins of the vocal fold)が切除されました。次に、胃カテーテル内を通した経鼻バー(Transnasal burr)を用いて声嚢を反転させてから(上写真)、ダイオードレーザーによってこの声嚢を切除しました。
結果としては、吸気時上部気道圧、吸気音量、および吸気音強度は、喉頭片麻痺の誘導後には有意に増加していましたが、片側性声嚢声帯切除術の60日後では、喉頭片麻痺の誘導後に比べて、有意に減少しており、特に吸気音強度および吸気音量は、実験前の基底値(Baseline value)まで回復していました。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、レーザー補助による片側性声嚢声帯切除術を介して、呼吸器雑音の減退(Respiratory noise reduction)が期待できるものの、その効能は両側性声嚢声帯切除術(Bilateral ventriculocordectomy)ほどは高くない事が示唆されました。そして、呼吸器雑音の消失(Elimination)および上部気道機能の完全回復(Complete restoration)のためには、左右両方の声嚢および声帯をレーザー切除する必要がある、という考察がなされています。
一般的に、馬の喉頭片麻痺に対しては、声嚢声帯切除術によって、呼吸器雑音の減退および上部気道機能(Upper airway function)の向上が期待できることが示されています(Brown et al. EVJ. 2003;35:570)。しかし、これには全身麻酔(General anesthesia)と喉頭切開術(Laryngotomy)を要することから、今回の研究で応用された手法によって、全身麻酔なしの起立位手術を介して、声嚢および声帯を切除できる術式が有用であると考えられています。一方、他の文献では、起立位でのレーザー補助による声帯切除術(Vocal cordectomy)によって、呼吸器雑音の減退は達成できないことが示されており(Brown et al. Vet Surg. 2005;34:247)、喘鳴音(Roaring sound)の改善のためには、声帯だけでなく、やはり声嚢を取り除くことが重要であると考察されています。
この研究では、レーザー補助による片側性声嚢声帯切除術によって、60日後には吸気音量が有意に減少したものの、90日後および120日後では、再び吸気音量が増加するという、予測外の結果(Unexpected result)を示していたことが報告されています。この要因としては、手術直後に収縮(Shrinkage)していた声嚢&声帯周囲組織が、90~120日後において線維増殖(Fibroplasia)や血管結合組織形成(Fibrovascular scar formation)を生じて、喉頭変形(Changes in laryngeal conformation)や気道乱流(Airflow turbulence)を続発し、呼吸器雑音の増加につながった可能性がある、という考察がなされています。
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この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、六頭のスタンダードブレッドを用いて、実験前と、左側喉頭神経切除術(Left recurrent laryngeal neurectomy)による喉頭片麻痺の誘導後、そして、レーザー補助による片側性声嚢声帯切除術(Unilateral laser-assisted ventriculocordectomy)の実施から、60日後、90日後、および120日後における、上部気道内視鏡検査(Upper airway endoscopy)、および、吸気時上部気道圧(Inspiratory trans-upper airway pressure)、吸気音量(Inspiratory sound level)、吸気音強度(Inspiratory sound intensity)の解析が行われました。
この研究での、レーザー補助による片側性声嚢声帯切除術は、起立位手術(Standing surgery)で実施され、枠場(Stocks)の中でDetomidineの持続性点滴(Continuous infusion)によって鎮静(Sedation)した馬に対して、内視鏡の生検孔(Biopsy channel)を介しての、Mepivicaineの声帯&声嚢への局所塗布(Topical application)が行われました。そして、内視鏡内を通した気管食道鉗子(Bronchoesophageal forceps)で声帯を保持しながら、内視鏡内を通したチューブを介して、ダイオードレーザーによって声帯の背側&腹側&尾側端(Dorsal, ventral, and caudal margins of the vocal fold)が切除されました。次に、胃カテーテル内を通した経鼻バー(Transnasal burr)を用いて声嚢を反転させてから(上写真)、ダイオードレーザーによってこの声嚢を切除しました。
結果としては、吸気時上部気道圧、吸気音量、および吸気音強度は、喉頭片麻痺の誘導後には有意に増加していましたが、片側性声嚢声帯切除術の60日後では、喉頭片麻痺の誘導後に比べて、有意に減少しており、特に吸気音強度および吸気音量は、実験前の基底値(Baseline value)まで回復していました。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、レーザー補助による片側性声嚢声帯切除術を介して、呼吸器雑音の減退(Respiratory noise reduction)が期待できるものの、その効能は両側性声嚢声帯切除術(Bilateral ventriculocordectomy)ほどは高くない事が示唆されました。そして、呼吸器雑音の消失(Elimination)および上部気道機能の完全回復(Complete restoration)のためには、左右両方の声嚢および声帯をレーザー切除する必要がある、という考察がなされています。
一般的に、馬の喉頭片麻痺に対しては、声嚢声帯切除術によって、呼吸器雑音の減退および上部気道機能(Upper airway function)の向上が期待できることが示されています(Brown et al. EVJ. 2003;35:570)。しかし、これには全身麻酔(General anesthesia)と喉頭切開術(Laryngotomy)を要することから、今回の研究で応用された手法によって、全身麻酔なしの起立位手術を介して、声嚢および声帯を切除できる術式が有用であると考えられています。一方、他の文献では、起立位でのレーザー補助による声帯切除術(Vocal cordectomy)によって、呼吸器雑音の減退は達成できないことが示されており(Brown et al. Vet Surg. 2005;34:247)、喘鳴音(Roaring sound)の改善のためには、声帯だけでなく、やはり声嚢を取り除くことが重要であると考察されています。
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