馬の文献:喉頭片麻痺(Radcliffe et al. 2006)
文献 - 2020年07月21日 (火)
「運動時の馬の喉頭片麻痺に対する喉頭形成術と披裂軟骨部分切除術変法による治療の比較」
Radcliffe CH, Woodie JB, Hackett RP, Ainsworth DM, Erb HN, Mitchell LM, Soderholm LV, Ducharme NG. A comparison of laryngoplasty and modified partial arytenoidectomy as treatments for laryngeal hemiplegia in exercising horses. Vet Surg. 2006; 35(7): 643-652.
この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、六頭のスタンダードブレッドを用いて、実験前と、左側喉頭神経切除術(Left recurrent laryngeal neurectomy)による喉頭片麻痺の誘導後、そして、喉頭形成術(Unilateral laser-assisted ventriculocordectomy)と声帯切除術(Vocal cordectomy)の後、および、披裂軟骨部分切除術変法(Modified partial arytenoidectomy)の後における、上部気道内視鏡検査(Upper airway endoscopy)、動脈血ガス(Arterial blood gases)の解析、気管&咽頭圧(Tracheal/Pharyngeal pressure)と気管&咽頭気流(Tracheal/Pharyngeal airflow)の測定、そして、気管気管支吸引(Tracheobronchial aspirates)による気道汚染(Airway contamination)の評価が行われました。
この研究で実施された披裂軟骨部分切除術変法では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での背臥位(Dorsal recumbency)において、喉頭切開術(Laryngotomy)によるアプローチ後、披裂軟骨体部(Body of arytenoid cartilage)の背側&尾側&腹側縁(Dorsal, caudal, and ventral margins)をC字型に切開し、披裂軟骨体部を遠軸側の筋付着部(Abaxial muscle attachments: ventricularis, vocalis, and cricoarytenoideus lateralis muscles)から剥離しました。次に、披裂軟骨と小角突起(Corniculate process)を鋭利に切離してから、小角突起を披裂喉頭蓋膜(Aryepiglottic membrane)から剥離することで、筋突起(Muscular process)を除く披裂軟骨の切除が行われました。そして、披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)を尾側に引っ張って欠損部に縫合&固定した後、輪状甲状膜(Cricothyroid membrane)も縫合閉鎖され、残りの皮膚切開創は空けたまま二次性治癒(Secondary healing)を持つ術式が選択されました。
結果としては、最大以下強度の運動(最大心拍数の80%に及ぶ運動強度)においては、喉頭形成術と声帯切除術によって、殆どの測定項目が基底値(Baseline value)まで回復しており、披裂軟骨部分切除術変法の場合でも、重炭酸塩濃度(Bicarbonate concentration)を除く全ての測定項目が基底値まで回復していました。一方、最大強度の運動(最大心拍数の100%に及ぶ運動強度)においては、喉頭形成術と声帯切除術によって、動脈血pHと二酸化炭素分圧を除く全ての測定項目が基底値まで回復しており、披裂軟骨部分切除術変法の場合でも、毎分換気量(Minute ventilation)と重炭酸塩濃度を除く全ての測定項目が基底値まで回復していました。また、二つの手術の違いによって、気道汚染の度合いには有意差は認められませんでした。
このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、喉頭形成術と声帯切除術の併用、および披裂軟骨部分切除術変法のあいだで、上部気道機能(Upper airway function)の回復に対しては、類似の治療効果が示されましたが、最大運動強度では基底値までの回復は期待しにくい事が示唆されました。しかし、この研究の限界点(Limitations)としては、喉頭片麻痺の誘導後、喉頭形成術と声帯切除術の併用が先に行われ、披裂軟骨部分切除術変法がその後に実施されている事が上げられ、真の意味での披裂軟骨部分切除術変法の治療効果を評価するには、必ずしも適切な実験デザインではなく、実際の臨床症例への応用および治療成績の評価を要する、という考察がなされています。
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この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、六頭のスタンダードブレッドを用いて、実験前と、左側喉頭神経切除術(Left recurrent laryngeal neurectomy)による喉頭片麻痺の誘導後、そして、喉頭形成術(Unilateral laser-assisted ventriculocordectomy)と声帯切除術(Vocal cordectomy)の後、および、披裂軟骨部分切除術変法(Modified partial arytenoidectomy)の後における、上部気道内視鏡検査(Upper airway endoscopy)、動脈血ガス(Arterial blood gases)の解析、気管&咽頭圧(Tracheal/Pharyngeal pressure)と気管&咽頭気流(Tracheal/Pharyngeal airflow)の測定、そして、気管気管支吸引(Tracheobronchial aspirates)による気道汚染(Airway contamination)の評価が行われました。
この研究で実施された披裂軟骨部分切除術変法では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での背臥位(Dorsal recumbency)において、喉頭切開術(Laryngotomy)によるアプローチ後、披裂軟骨体部(Body of arytenoid cartilage)の背側&尾側&腹側縁(Dorsal, caudal, and ventral margins)をC字型に切開し、披裂軟骨体部を遠軸側の筋付着部(Abaxial muscle attachments: ventricularis, vocalis, and cricoarytenoideus lateralis muscles)から剥離しました。次に、披裂軟骨と小角突起(Corniculate process)を鋭利に切離してから、小角突起を披裂喉頭蓋膜(Aryepiglottic membrane)から剥離することで、筋突起(Muscular process)を除く披裂軟骨の切除が行われました。そして、披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)を尾側に引っ張って欠損部に縫合&固定した後、輪状甲状膜(Cricothyroid membrane)も縫合閉鎖され、残りの皮膚切開創は空けたまま二次性治癒(Secondary healing)を持つ術式が選択されました。
結果としては、最大以下強度の運動(最大心拍数の80%に及ぶ運動強度)においては、喉頭形成術と声帯切除術によって、殆どの測定項目が基底値(Baseline value)まで回復しており、披裂軟骨部分切除術変法の場合でも、重炭酸塩濃度(Bicarbonate concentration)を除く全ての測定項目が基底値まで回復していました。一方、最大強度の運動(最大心拍数の100%に及ぶ運動強度)においては、喉頭形成術と声帯切除術によって、動脈血pHと二酸化炭素分圧を除く全ての測定項目が基底値まで回復しており、披裂軟骨部分切除術変法の場合でも、毎分換気量(Minute ventilation)と重炭酸塩濃度を除く全ての測定項目が基底値まで回復していました。また、二つの手術の違いによって、気道汚染の度合いには有意差は認められませんでした。
このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、喉頭形成術と声帯切除術の併用、および披裂軟骨部分切除術変法のあいだで、上部気道機能(Upper airway function)の回復に対しては、類似の治療効果が示されましたが、最大運動強度では基底値までの回復は期待しにくい事が示唆されました。しかし、この研究の限界点(Limitations)としては、喉頭片麻痺の誘導後、喉頭形成術と声帯切除術の併用が先に行われ、披裂軟骨部分切除術変法がその後に実施されている事が上げられ、真の意味での披裂軟骨部分切除術変法の治療効果を評価するには、必ずしも適切な実験デザインではなく、実際の臨床症例への応用および治療成績の評価を要する、という考察がなされています。
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