馬の文献:喉頭片麻痺(Taylor et al. 2006)
文献 - 2020年07月22日 (水)
「反回喉頭神経障害に対する単独治療としての声嚢声帯切除術:92頭の馬の長期結果」
Taylor SE, Barakzai SZ, Dixon P. Ventriculocordectomy as the sole treatment for recurrent laryngeal neuropathy: long-term results from ninety-two horses. Vet Surg. 2006; 35(7): 653-657.
この研究論文では、馬の反回喉頭神経障害(Recurrent laryngeal neuropathy)に有用な外科的療法を検討するため、1985~2005年にかけて、安静時の上部気道内視鏡検査(Upper airway endoscopy)によって反回喉頭神経障害の診断が下され、単独治療(Sole treatment)としての声嚢声帯切除術(Ventriculocordectomy)が応用された92頭の馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、92頭の患馬のうち、声嚢声帯切除術の後、93%の症例が完全な使役に復帰(Returned to full work)しており、86%の馬主が手術する価値があったと見なしていた(Considered the surgery worthwhile)ことが報告されています。また、競走馬症例を取ってみると、術前と術後で競走能力指数(Racing performance index)が有意に改善していたことが示されました。この研究では、術前の内視鏡検査(Pre-operative endoscopy)における病態グレードの中央値は、軽度の非対称性(Mild asymmetry:Havemeyer grade III.1)であった事から、重篤度の軽い馬の反回喉頭神経障害に対しては、声嚢声帯切除術の単独治療によって、良好な競走能力の回復(Restoration of racing performance)が期待でき、治療の選択肢として検討されるべきである、という考察がなされています。
一般的に、馬の反回喉頭神経障害に対する声嚢声帯切除術では、喉頭形成術(Laryngoplasty)に比べて、上部気道機能(Upper airway function)の回復効果は及ばないものの、呼吸器雑音(Respiratory noise)の改善が主目的である場合(=最大強度以下の運動をする馬)には、声嚢声帯切除術によって充分な治療効果が期待できる事が示唆されています(Brown et al. EVJ. 2003;35:570)。また、低グレードの反回喉頭神経障害において、声帯が腹側声門裂(Ventral rima glottidis)の気流障害(Airflow obstruction)の原因になっている場合には、声嚢声帯切除術によって良好な上部気道機能の回復が誘導できると考えられています。一方、反回喉頭神経障害の症例では、その15%において病態の進行(Progression)が認められる事から(Dixon et al. EVJ. 2002;34:29)、初診時のグレードが低いという事だけで、喉頭形成術を避ける治療方針に関しては賛否両論(Controversy)があります。
この研究では、術後に咳嗽(Coughing)を示した症例は二割程度で、喉頭形成術の後に四割以上の馬が咳嗽を示したという知見に比べて(Dixon et al. EVJ. 2003;35:389)、その発現率が顕著に低い傾向にありました。これは、声嚢声帯切除術では、術後にも披裂軟骨の内転(Adduction of arytenoid cartilage)が妨げられない事に起因すると考えられており、これによって、誤嚥性肺炎(Aspiration pneumonia)や嚥下障害(Dysphagia)などの、重篤な術後合併症(Severe post-operative complications)の危険性が少なくなると考察されています。また、声嚢声帯切除術では、喉頭形成術のように高価なインプラントを用いないため、手術費が比較的に安価に抑えられる、という利点も指摘されています。
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この研究論文では、馬の反回喉頭神経障害(Recurrent laryngeal neuropathy)に有用な外科的療法を検討するため、1985~2005年にかけて、安静時の上部気道内視鏡検査(Upper airway endoscopy)によって反回喉頭神経障害の診断が下され、単独治療(Sole treatment)としての声嚢声帯切除術(Ventriculocordectomy)が応用された92頭の馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、92頭の患馬のうち、声嚢声帯切除術の後、93%の症例が完全な使役に復帰(Returned to full work)しており、86%の馬主が手術する価値があったと見なしていた(Considered the surgery worthwhile)ことが報告されています。また、競走馬症例を取ってみると、術前と術後で競走能力指数(Racing performance index)が有意に改善していたことが示されました。この研究では、術前の内視鏡検査(Pre-operative endoscopy)における病態グレードの中央値は、軽度の非対称性(Mild asymmetry:Havemeyer grade III.1)であった事から、重篤度の軽い馬の反回喉頭神経障害に対しては、声嚢声帯切除術の単独治療によって、良好な競走能力の回復(Restoration of racing performance)が期待でき、治療の選択肢として検討されるべきである、という考察がなされています。
一般的に、馬の反回喉頭神経障害に対する声嚢声帯切除術では、喉頭形成術(Laryngoplasty)に比べて、上部気道機能(Upper airway function)の回復効果は及ばないものの、呼吸器雑音(Respiratory noise)の改善が主目的である場合(=最大強度以下の運動をする馬)には、声嚢声帯切除術によって充分な治療効果が期待できる事が示唆されています(Brown et al. EVJ. 2003;35:570)。また、低グレードの反回喉頭神経障害において、声帯が腹側声門裂(Ventral rima glottidis)の気流障害(Airflow obstruction)の原因になっている場合には、声嚢声帯切除術によって良好な上部気道機能の回復が誘導できると考えられています。一方、反回喉頭神経障害の症例では、その15%において病態の進行(Progression)が認められる事から(Dixon et al. EVJ. 2002;34:29)、初診時のグレードが低いという事だけで、喉頭形成術を避ける治療方針に関しては賛否両論(Controversy)があります。
この研究では、術後に咳嗽(Coughing)を示した症例は二割程度で、喉頭形成術の後に四割以上の馬が咳嗽を示したという知見に比べて(Dixon et al. EVJ. 2003;35:389)、その発現率が顕著に低い傾向にありました。これは、声嚢声帯切除術では、術後にも披裂軟骨の内転(Adduction of arytenoid cartilage)が妨げられない事に起因すると考えられており、これによって、誤嚥性肺炎(Aspiration pneumonia)や嚥下障害(Dysphagia)などの、重篤な術後合併症(Severe post-operative complications)の危険性が少なくなると考察されています。また、声嚢声帯切除術では、喉頭形成術のように高価なインプラントを用いないため、手術費が比較的に安価に抑えられる、という利点も指摘されています。
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