馬の文献:喉頭片麻痺(Henderson et al. 2007)
文献 - 2020年07月24日 (金)

「内視鏡を介してのレーザー補助的声嚢声帯切除術による馬の左側喉頭片麻痺の治療:1999~2005年の22症例」
Henderson CE, Sullins KE, Brown JA. Transendoscopic, laser-assisted ventriculocordectomy for treatment of left laryngeal hemiplegia in horses: 22 cases (1999-2005). J Am Vet Med Assoc. 2007; 231(12): 1868-1872.
この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、1999~2005年にかけて、内視鏡を介してのレーザー補助的声嚢声帯切除術(Transendoscopic, laser-assisted ventriculocordectomy)による、左側喉頭片麻痺の治療が行われた22頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、22頭の患馬のうち、声嚢声帯切除術のあとに、意図した使役に復帰(Returned to intended use)した馬は91%で、過剰な気道雑音の消失(Elimination of excessive airway noise)が達成された馬は82%、術前に認められた運動不耐性(Exercise intolerance)が改善された馬は80%であったことが報告されています。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対しては、内視鏡を介してのレーザー補助的声嚢声帯切除術によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)および喘鳴音(Roaring sound)の消失が達成され、良好な予後および競技&競走復帰を果たす馬の割合が高いことが示唆されました。しかし、レースに復帰した四頭のサラブレッド競走馬では、そのうち一頭が、一年後に喉頭形成術(Laryngoplasty)のための再手術を要したことが報告されています。
一般的に、馬の喉頭片麻痺に対する声嚢声帯切除術では、上部気道機能の向上、および呼吸器雑音の減退効果が期待できますが(Brown et al. EVJ. 2003;35:570)、この術式では、全身麻酔(General anesthesia)と喉頭切開術(Laryngotomy)を要することから、内視鏡を介してのレーザー補助的声嚢声帯切除術によって、全身麻酔なしの起立位手術を介して、声嚢&声帯を切除する術式が有用であると考えられています。通常の喉頭切開術では、一週間程度の入院期間を要することが一般的ですが、喉頭切開術なしでの手術では、入院無しの来院治療(Out-patient treatment)として処置できるため安価である上、術創の洗浄や管理が必要ないという利点があり、早期の運動&競走復帰が達成できることが知られています。
この研究では、術前の内視鏡検査(Endoscopy)において、披裂軟骨(Arytenoid cartilage)の不全麻痺(Paresis:グレード3)が見られたのは11頭、完全麻痺(Paralysis:グレード4)が見られたのは10頭であったことが示されました(残りの一頭はグレード2)。しかし、この病態の差(不全麻痺 v.s. 完全麻痺)による治療成績の違いは認められなかった事から、今回の研究で声嚢声帯切除術が奏功しなかった症例においては、病態の進行(Disease progression)が起こったために治療不成功に終わった、という理由付けは否定されています。そして、これらの症例では、術部の瘢痕形成が不十分(Insufficient scar formation)で、披裂軟骨圧潰(Arytenoid collapse)を防げなかった事が、治療失敗の要因であると考察されており、この場合には、再手術によって喉頭形成術を施すことが推奨されています。
一般的に、レーザーを用いた馬の声嚢声帯切除術では、術部の出血や腫脹は少ないものの、術後に粘液嚢腫(Mucocele formation)、肉芽腫形成(Granulation tissue formation)、膿瘍(Abscess)などを続発する危険性がある事が知られており(レーザー焼烙によって軟部組織が縮んで、漿液排出が妨げられるため?)、その発症率は5~14%であることが報告されています(Bristol et al. J Clin Laser Med Surg. 1995;13:377, Hawkins et al. Vet Surg. 1997;26:48)。しかし、このような合併症は、充分な休養と抗炎症剤の局所塗布(Topical application of anti-inflammatory agents)によって予防できる、という考察がなされています。一方、レーザー照射の方向を誤り、同側または対側の軟骨組織に医原性損傷(Iatrogenic damage)を生じた場合には、披裂軟骨炎(Arytenoid chondoritis)や披裂軟骨壊死(Necrosis)を続発する可能性もある、という警鐘が鳴らされています(Hawkins et al. AJVR. 2001;62:531)。
この研究では、声嚢を反転させるための器具として、32%の症例には回頭把握鉗子(Rotating-head grasping forceps)が用いられ、残りの68%の症例には専用の経鼻孔声嚢切除バー(Transnasal sacculectomy burr)が用いられました。この器具の差異による治療効果の有意な違いは認められませんでしたが、客観的な知見(Subjective observation)としては、バーを使用した場合のほうが、声嚢組織の反転が容易であったことが報告されています。
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