馬の文献:喉頭片麻痺(Parente et al. 2008)
文献 - 2020年07月25日 (土)
「76頭のサラブレッド競走馬における一次性粘膜閉鎖による披裂軟骨部分切除術の長期的評価(1992~2006年)」
Parente EJ, Tulleners EP, Southwood LL. Long-term study of partial arytenoidectomy with primary mucosal closure in 76 Thoroughbred racehorses (1992-2006). Equine Vet J. 2008; 40(3): 214-218.
この研究論文では、馬の上部気道疾患(Upper airway disorders)に有用な外科的療法を検討するため、1992~2006年にかけて、一次性粘膜閉鎖による披裂軟骨部分切除術(Partial arytenoidectomy with primary mucosal closure)による、披裂軟骨障害(Arytenoid chondropathy)または失敗した喉頭形成術(Failed laryngoplasty)の治療が行われた76頭の患馬(披裂軟骨障害が54頭、失敗した喉頭形成術が22頭)における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。
結果としては、経過追跡(Follow-up)ができた73頭の患馬のうち、披裂軟骨部分切除術のあとに、レースに復帰した馬は82%で、五回以上のレース出走を果たした馬は63%であったことが報告されています。また、レース毎の平均獲得賞金(Average earnings per start)は、術前と術後で有意差が無かったことが示されました。他の文献では、粘膜閉鎖なしでの披裂軟骨部分切除術では、レースに復帰した馬は78%で、三回以上のレース出走を果たした馬は55%であったことが報告されており(Barnes et al. Vet Surg. 2004;33:398)、今回の研究のほうが(=粘膜縫合した方が)、やや優れた治療成績が認められました。
このため、喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplasia)の治療のための喉頭形成術が失敗したり、披裂軟骨炎(Arytenoid chondritis)などの披裂軟骨障害を罹患したサラブレッド競走馬に対しては、一次性粘膜閉鎖による披裂軟骨部分切除術によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)および呼吸器雑音(Roaring sound)の消失が達成され、レース復帰および競走能力の維持(Maintenance of racing performance)を果たす馬の割合が高いことが示唆されました。また、二つの症例郡(披裂軟骨障害 v.s. 失敗した喉頭形成術)のあいだで治療成績に有意差は無く、いずれの病態に対しても披裂軟骨部分切除術によって、十分な効能が示されると考えられました。
一般的に、馬に対する披裂軟骨切除術は、小角突起(Corniculate process)と筋突起(Muscular process)を残存させる披裂軟骨亜全切除術(Subtotal arytenoidectomy)に比べて、披裂軟骨部分切除術のほうが、上部気道圧(Increased upper airway pressure)の減退効果や、上部気道流動(Upper airway flow)の回復効果が優れていることが示されています(Belknap et al. AJVR. 1990;51:1481, Williams et al. Vet Surg. 1990;19:136)。
一般的に、披裂軟骨部分切除術の実施に際しては、粘膜閉鎖した場合のほうが、術部の治癒が倍近く迅速になるものの(十六週間 v.s. 八週間)(Tulleners et al. JAVMA. 1988;192:670)、一方で、両術式のあいだで周囲組織治癒(Surrounding tissue healing)の期間に、統計的な有意差は無かったという文献もあります(Tulleners et al. Vet Surg. 1988;17:252)。一方で、粘膜閉鎖が併用された今回の研究では、17%の症例において過剰な肉芽組織形成(Excessive granulation tissue formation)が認められたという知見が示されており、粘膜縫合を行うことの合理性(Rationale)に関しては賛否両論(Controversy)があるようです。
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この研究論文では、馬の上部気道疾患(Upper airway disorders)に有用な外科的療法を検討するため、1992~2006年にかけて、一次性粘膜閉鎖による披裂軟骨部分切除術(Partial arytenoidectomy with primary mucosal closure)による、披裂軟骨障害(Arytenoid chondropathy)または失敗した喉頭形成術(Failed laryngoplasty)の治療が行われた76頭の患馬(披裂軟骨障害が54頭、失敗した喉頭形成術が22頭)における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。
結果としては、経過追跡(Follow-up)ができた73頭の患馬のうち、披裂軟骨部分切除術のあとに、レースに復帰した馬は82%で、五回以上のレース出走を果たした馬は63%であったことが報告されています。また、レース毎の平均獲得賞金(Average earnings per start)は、術前と術後で有意差が無かったことが示されました。他の文献では、粘膜閉鎖なしでの披裂軟骨部分切除術では、レースに復帰した馬は78%で、三回以上のレース出走を果たした馬は55%であったことが報告されており(Barnes et al. Vet Surg. 2004;33:398)、今回の研究のほうが(=粘膜縫合した方が)、やや優れた治療成績が認められました。
このため、喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplasia)の治療のための喉頭形成術が失敗したり、披裂軟骨炎(Arytenoid chondritis)などの披裂軟骨障害を罹患したサラブレッド競走馬に対しては、一次性粘膜閉鎖による披裂軟骨部分切除術によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)および呼吸器雑音(Roaring sound)の消失が達成され、レース復帰および競走能力の維持(Maintenance of racing performance)を果たす馬の割合が高いことが示唆されました。また、二つの症例郡(披裂軟骨障害 v.s. 失敗した喉頭形成術)のあいだで治療成績に有意差は無く、いずれの病態に対しても披裂軟骨部分切除術によって、十分な効能が示されると考えられました。
一般的に、馬に対する披裂軟骨切除術は、小角突起(Corniculate process)と筋突起(Muscular process)を残存させる披裂軟骨亜全切除術(Subtotal arytenoidectomy)に比べて、披裂軟骨部分切除術のほうが、上部気道圧(Increased upper airway pressure)の減退効果や、上部気道流動(Upper airway flow)の回復効果が優れていることが示されています(Belknap et al. AJVR. 1990;51:1481, Williams et al. Vet Surg. 1990;19:136)。
一般的に、披裂軟骨部分切除術の実施に際しては、粘膜閉鎖した場合のほうが、術部の治癒が倍近く迅速になるものの(十六週間 v.s. 八週間)(Tulleners et al. JAVMA. 1988;192:670)、一方で、両術式のあいだで周囲組織治癒(Surrounding tissue healing)の期間に、統計的な有意差は無かったという文献もあります(Tulleners et al. Vet Surg. 1988;17:252)。一方で、粘膜閉鎖が併用された今回の研究では、17%の症例において過剰な肉芽組織形成(Excessive granulation tissue formation)が認められたという知見が示されており、粘膜縫合を行うことの合理性(Rationale)に関しては賛否両論(Controversy)があるようです。
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