馬の文献:喉頭片麻痺(Fjordbakk et al. 2008)
文献 - 2020年07月26日 (日)
「ハーネスレース競走馬における頚部屈曲時の両側性動的喉頭圧潰に対する外科的および保存性療法」
Fjordbakk CT, Strand E, Hanche-Olsen S. Surgical and conservative management of bilateral dynamic laryngeal collapse associated with poll flexion in harness race horses. Vet Surg. 2008; 37(6): 501-507.
この研究論文では、1998~2006年において、頚部屈曲時(Poll flexion)の両側性動的喉頭圧潰(Bilateral dynamic laryngeal collapse)を呈した、26頭のハーネスレース競走馬(Harness race horses)に対する、両側性声嚢声帯切除術(Bilateral ventriculocordectomy)による外科的療法(Surgical management)(16/26頭)、および、馬具や管理法の変更(Tack and management changes)による保存性療法(Surgical and conservative management)(10/26頭)の治療成績が評価されています。
結果としては、26頭の患馬のうち、術後にレース復帰を果たしたのは、外科的療法が応用された馬では63%(10/16頭)、保存性療法が応用された馬では50%(5/10頭)で、両郡のあいだに競走復帰率の有意差はありませんでした。また、競走タイム、着順、獲得賞金、出走回数などを見ても、両群のあいだに有意差は無く、それぞれの郡における術前と術後のあいだの有意差も認められませんでした。そして、外科的療法が応用された16頭のうち、術後に内視鏡での再検査を受けた六頭では、声帯裂腹側部(Ventral area of the rima glottidis)における組織圧潰は消失していたものの、動的喉頭圧潰の発現そのものや、呼吸器雑音(Respiratory noise)には顕著な変化は見られませんでした。このため、ハーネスレース競走馬における両側性動的喉頭圧潰に対しては、両側性の声嚢声帯切除術を介しての外科的療法によって、競走能力(Racing performance)や喘鳴音(Roaring sound)への明確な治療効果は認められませんでした。
一般的に、馬における動的喉頭圧潰という病気は、片側性披裂軟骨圧潰(Unilateral arytenoid cartilage collapse)に同側声帯圧潰(Ipsilateral vocal fold collapse)を併発した病態を指し、殆どが片側性に起こり、初期の反回喉頭神経障害(Recurrent laryngeal neuropathy)において生じると仮説されており、背側輪状披裂筋(Cricoarytenoideus dorsalis muscle)と輪状甲状筋(Cricothyroideus muscle)の両方が罹患することで発症すると考えられています。一方、今回の研究で検証された両側性動的喉頭圧潰は、ハーネスレース馬に好発し、披裂喉頭蓋襞軸性偏位(Axial deviation of aryepiglottic folds)や喉頭蓋縁背内側偏位(Dorsomedial deviation of the epiglottic margins)などを併発することが知られています。そして、運動中の内視鏡検査では、声帯圧潰が披裂軟骨圧潰よりも僅かに先に起こる事から、頚部屈曲時の吸気性陰圧の減少(Decreased negative inspiratory pressures)に起因して、二次的に披裂軟骨圧潰を起こすという病因論(Etiology)が仮説されています。
この研究では、保存性療法が試みられた数頭の症例において、良好な治療効果が認められたという馬主や調教師の証言がありました。このため、馬具の改良(Tack modification)によって過剰な頚部屈曲を防ぐことで、十分な治療成績が収められる可能性が示唆されており、今後の研究課題として検討されるべきであると考察されています。
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この研究論文では、1998~2006年において、頚部屈曲時(Poll flexion)の両側性動的喉頭圧潰(Bilateral dynamic laryngeal collapse)を呈した、26頭のハーネスレース競走馬(Harness race horses)に対する、両側性声嚢声帯切除術(Bilateral ventriculocordectomy)による外科的療法(Surgical management)(16/26頭)、および、馬具や管理法の変更(Tack and management changes)による保存性療法(Surgical and conservative management)(10/26頭)の治療成績が評価されています。
結果としては、26頭の患馬のうち、術後にレース復帰を果たしたのは、外科的療法が応用された馬では63%(10/16頭)、保存性療法が応用された馬では50%(5/10頭)で、両郡のあいだに競走復帰率の有意差はありませんでした。また、競走タイム、着順、獲得賞金、出走回数などを見ても、両群のあいだに有意差は無く、それぞれの郡における術前と術後のあいだの有意差も認められませんでした。そして、外科的療法が応用された16頭のうち、術後に内視鏡での再検査を受けた六頭では、声帯裂腹側部(Ventral area of the rima glottidis)における組織圧潰は消失していたものの、動的喉頭圧潰の発現そのものや、呼吸器雑音(Respiratory noise)には顕著な変化は見られませんでした。このため、ハーネスレース競走馬における両側性動的喉頭圧潰に対しては、両側性の声嚢声帯切除術を介しての外科的療法によって、競走能力(Racing performance)や喘鳴音(Roaring sound)への明確な治療効果は認められませんでした。
一般的に、馬における動的喉頭圧潰という病気は、片側性披裂軟骨圧潰(Unilateral arytenoid cartilage collapse)に同側声帯圧潰(Ipsilateral vocal fold collapse)を併発した病態を指し、殆どが片側性に起こり、初期の反回喉頭神経障害(Recurrent laryngeal neuropathy)において生じると仮説されており、背側輪状披裂筋(Cricoarytenoideus dorsalis muscle)と輪状甲状筋(Cricothyroideus muscle)の両方が罹患することで発症すると考えられています。一方、今回の研究で検証された両側性動的喉頭圧潰は、ハーネスレース馬に好発し、披裂喉頭蓋襞軸性偏位(Axial deviation of aryepiglottic folds)や喉頭蓋縁背内側偏位(Dorsomedial deviation of the epiglottic margins)などを併発することが知られています。そして、運動中の内視鏡検査では、声帯圧潰が披裂軟骨圧潰よりも僅かに先に起こる事から、頚部屈曲時の吸気性陰圧の減少(Decreased negative inspiratory pressures)に起因して、二次的に披裂軟骨圧潰を起こすという病因論(Etiology)が仮説されています。
この研究では、保存性療法が試みられた数頭の症例において、良好な治療効果が認められたという馬主や調教師の証言がありました。このため、馬具の改良(Tack modification)によって過剰な頚部屈曲を防ぐことで、十分な治療成績が収められる可能性が示唆されており、今後の研究課題として検討されるべきであると考察されています。
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