馬の文献:喉頭片麻痺(Kelly et al. 2008)
文献 - 2020年07月28日 (火)
「馬の披裂軟骨筋突起に対する直径の大きいポリエステル装具による六種類の縫合法の生体力学的比較」
Kelly JR, Carmalt J, Hendrick S, Wilson DG, Shoemaker R. Biomechanical comparison of six suture configurations using a large diameter polyester prosthesis in the muscular process of the equine arytenoid cartilage. Vet Surg. 2008; 37(6): 580-587.
この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)の治療のための喉頭形成術(Laryngoplasty)における、有用な術式を検討するため、121頭の馬から採取した喉頭組織を用いて、披裂軟骨の筋突起(Muscular process of the equine arytenoid cartilage)に対する、ポリエステル装具(Polyester prosthesis: “Ethibond”)による六種類の縫合法の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。この研究で試験された縫合法には、(A)筋突起椎(Spine of muscular process)より背側への一本の装具、(B)筋突起椎より腹側への一本の装具、(C)筋突起椎そのものへの一本の装具、(D)筋突起椎そのものへの一本の十字型装具、(E)筋突起椎とその背側への二本の装具、(F)筋突起椎の背側および腹側への二本の装具、という六種類が含まれました。
結果としては、装具破損負荷(Construct failure force)および輪状披裂軟骨関節破損負荷(Cricoarytenoid joint failure force)は、一本の装具(A、B、C)よりも二本の装具(D、E、F)が用いられた場合のほうが、有意に高かったことが示されました。また、四種類の縫合法(A、B、C、F)では、検体の半分以上が筋突起の破損を起こしていたのに対して、残りの二種類の縫合法(D、E)では、披裂軟骨部のクランプまたは輪状軟骨の損傷が起こっていた事が報告されています。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対する喉頭形成術では、筋突起椎への一本の十字型装具の装着(縫合法D)、または筋突起椎とその背側への二本の装具の装着(縫合法E)によって、筋突起および輪状軟骨の破損の危険性を抑えながら、披裂軟骨の外転(Abduction)を達成できることが示唆されました。
一般的に、馬の喉頭形成術における、披裂軟骨の筋突起へのインプラント装着では、背側輪状披裂筋(Cricoarytenoideus dorsalis muscle)から筋突起に対して、自然な状態で掛かっている緊張を、出来るだけ正確に模擬(Simulation)されるよう、装具を設置する角度&深さを調節することで、筋突起への不自然な負荷を防ぐことができ、筋突起が破損しにくくなると考えられています(Schumacher et al. EVJ. 2000;32:43)。そして、そのためには、装具の前方部では、筋突起椎(もしくは筋突起の軸側に当たる背側位)にインプラントを通過させ、装具の後方部では、インプラントの走行が輪状披裂軟骨関節の動きに平行になるように、輪状軟骨(Cricoid cartilage)と披裂軟骨のあいだの最も背側部(Most dorsal position possible between the cricoid and arytenoid cartilages)に当たる位置に装具を設置させる必要がある、という提唱がなされています(Parente et al. Proc ACVS. 2005:121)。
一般的に、馬の喉頭形成術では、筋突起に二本のインプラントを設置すると、穴が二つ開けられた軟骨が弱体化して、筋突起の破損の危険が高まると仮説されていますが、今回の研究では、装具の数を一本から二本に増やすことで、筋突起の強度が減少するというデータは認められませんでした。しかし、今回この研究での生体力学的比較は、単一回負荷(Single-cycle loading)によって試験されているのに対して、実際の喉頭形成術においては、インプラントへの周期性負荷(Cyclic loading)による装具および軟骨への微細損傷の蓄積(Accumulation of micro-damage)によって、術部の損失に至ると考えられています。このため、今後の研究では、周期性負荷試験を介して、より詳細な装具強度の検討および縫合法の比較を行う必要がある、という考察がなされています。
この研究では、ポリエステルそのものが切れてしまう事で喉頭形成術の破損に至ったのは、121検体のうちたった一つだけで、この際の負荷は、生理学的な力(Physiologic force)よりも顕著に高かった事が示されました。このため、実際の症例に対する喉頭形成術では、インプラントの破損が原因で手術失敗となる可能性は殆ど無いと考えられ、正確かつ適切なインプラント装着によって、筋突起の破損を最小限にする試みが重要であると考察されています。
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この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)の治療のための喉頭形成術(Laryngoplasty)における、有用な術式を検討するため、121頭の馬から採取した喉頭組織を用いて、披裂軟骨の筋突起(Muscular process of the equine arytenoid cartilage)に対する、ポリエステル装具(Polyester prosthesis: “Ethibond”)による六種類の縫合法の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。この研究で試験された縫合法には、(A)筋突起椎(Spine of muscular process)より背側への一本の装具、(B)筋突起椎より腹側への一本の装具、(C)筋突起椎そのものへの一本の装具、(D)筋突起椎そのものへの一本の十字型装具、(E)筋突起椎とその背側への二本の装具、(F)筋突起椎の背側および腹側への二本の装具、という六種類が含まれました。
結果としては、装具破損負荷(Construct failure force)および輪状披裂軟骨関節破損負荷(Cricoarytenoid joint failure force)は、一本の装具(A、B、C)よりも二本の装具(D、E、F)が用いられた場合のほうが、有意に高かったことが示されました。また、四種類の縫合法(A、B、C、F)では、検体の半分以上が筋突起の破損を起こしていたのに対して、残りの二種類の縫合法(D、E)では、披裂軟骨部のクランプまたは輪状軟骨の損傷が起こっていた事が報告されています。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対する喉頭形成術では、筋突起椎への一本の十字型装具の装着(縫合法D)、または筋突起椎とその背側への二本の装具の装着(縫合法E)によって、筋突起および輪状軟骨の破損の危険性を抑えながら、披裂軟骨の外転(Abduction)を達成できることが示唆されました。
一般的に、馬の喉頭形成術における、披裂軟骨の筋突起へのインプラント装着では、背側輪状披裂筋(Cricoarytenoideus dorsalis muscle)から筋突起に対して、自然な状態で掛かっている緊張を、出来るだけ正確に模擬(Simulation)されるよう、装具を設置する角度&深さを調節することで、筋突起への不自然な負荷を防ぐことができ、筋突起が破損しにくくなると考えられています(Schumacher et al. EVJ. 2000;32:43)。そして、そのためには、装具の前方部では、筋突起椎(もしくは筋突起の軸側に当たる背側位)にインプラントを通過させ、装具の後方部では、インプラントの走行が輪状披裂軟骨関節の動きに平行になるように、輪状軟骨(Cricoid cartilage)と披裂軟骨のあいだの最も背側部(Most dorsal position possible between the cricoid and arytenoid cartilages)に当たる位置に装具を設置させる必要がある、という提唱がなされています(Parente et al. Proc ACVS. 2005:121)。
一般的に、馬の喉頭形成術では、筋突起に二本のインプラントを設置すると、穴が二つ開けられた軟骨が弱体化して、筋突起の破損の危険が高まると仮説されていますが、今回の研究では、装具の数を一本から二本に増やすことで、筋突起の強度が減少するというデータは認められませんでした。しかし、今回この研究での生体力学的比較は、単一回負荷(Single-cycle loading)によって試験されているのに対して、実際の喉頭形成術においては、インプラントへの周期性負荷(Cyclic loading)による装具および軟骨への微細損傷の蓄積(Accumulation of micro-damage)によって、術部の損失に至ると考えられています。このため、今後の研究では、周期性負荷試験を介して、より詳細な装具強度の検討および縫合法の比較を行う必要がある、という考察がなされています。
この研究では、ポリエステルそのものが切れてしまう事で喉頭形成術の破損に至ったのは、121検体のうちたった一つだけで、この際の負荷は、生理学的な力(Physiologic force)よりも顕著に高かった事が示されました。このため、実際の症例に対する喉頭形成術では、インプラントの破損が原因で手術失敗となる可能性は殆ど無いと考えられ、正確かつ適切なインプラント装着によって、筋突起の破損を最小限にする試みが重要であると考察されています。
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