馬の文献:喉頭片麻痺(Cramp et al. 2009)
文献 - 2020年07月30日 (木)
「喉頭外転に及ぼす力の方向と度合いの影響:神経筋接合根部移植の手技への関連」
Cramp P, Derksen FJ, Stick JA, de Feijter-Rupp H, Elvin NG, Hauptman J, Robinson NE. Effect of magnitude and direction of force on laryngeal abduction: implications for the nerve-muscle pedicle graft technique. Equine Vet J. 2009; 41(4): 328-333.
この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)の治療のための、背側輪状披裂筋(Criocoarytenoideus dorsalis)の神経筋接合根部移植(Nerve-muscle pedicle graft)における適切な手技を検討するため、五頭の健常馬から採取した喉頭組織を用いて、披裂軟骨(Arytenoid cartilage)の筋突起(Muscular process)に対して複数の方向および強さで緊張力(Tensile force)を掛けて、声門裂拡張(Rima glottidis dilation)の指標となる左右角度指数(Right to left angle quotient)の解析が行われました。
結果としては、披裂軟骨筋突起への緊張力の増加に伴って、左右角度指数が進行性に上昇(Progressively increase)しており、披裂軟骨の外転を示す指標であると見なされ、また、同じ緊張力(7.84~11.76ニュートン)が掛けられた際には、牽引角度が0~30度の場合のほうが、角度が40~70度の場合よりも、左右角度指数が有意に上昇していました。そして、この0~30度の角度は、背側輪状披裂筋の外側区画(Lateral component)からの牽引の方向と合致していました。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対する神経筋接合根部移植においては、背側輪状披裂筋の内側よりも外側区画を再神経支配(Re-innervation)することで、より効果的に披裂軟骨外転が達成できることが示唆されました。
一般的に、馬の背側輪状披裂筋における二つの区画は、堅固な結合組織で分離(Separation by firm connective tissue)されているため、内側区画に移植された神経筋接合根部が、外側区画まで神経支配する可能性は低いと考えられています(Cheetham et al. EVJ. 2008;40:70)。また、正常な披裂軟骨外転の際には、披裂軟骨は外側および背側への牽引(Lateral and dorsal tractions)だけでなく、尾側への動きもある事から、背側輪状披裂筋の内側および外側区画は、異なった機能を担っている可能性が指摘されており、完全な上部気道機能の回復(Full recovery of upper airway function)のためには、両方の区画への神経植え込み(Neurotization)を要すると考察されています。
この研究で示された、披裂軟骨筋突起に対する理想的な牽引角度(0~30度)は、喉頭形成術(Laryngoplasty)の実施の際にも重要であると考えられます。通常の喉頭形成術において、筋突起に通した装具を、輪状軟骨後部(Posterior aspect of cricoid cartilage)に設置する時には、その尾側縁(Caudal border)から頭側へ2~3cmで、輪状軟骨椎(Spine of cricoid cartilage)から外側へ1cmの位置に通すことが推奨されています。この結果、筋突起に対する牽引角度は20~40度のなる事が知られており、この箇所よりも更に外側に装具を設置すると、尾側縁の湾曲した部分から装具が滑り落ちて、インプラントの緩みおよび手術失敗につながるという知見が示されています。しかし、甲状軟骨後部(Posterior aspect of the thyroid cartilage)へと装具が滑り落ちないよう施術できるのであれば、可能な限り外側箇所への装具設置を試みることで、それほど強い牽引力を与えなくても、最善の角度で緊張を掛けること(Applying a tension in an optimal angle)が可能になり、より良好な披裂軟骨外転を誘導できるという考察がなされています。
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結果としては、披裂軟骨筋突起への緊張力の増加に伴って、左右角度指数が進行性に上昇(Progressively increase)しており、披裂軟骨の外転を示す指標であると見なされ、また、同じ緊張力(7.84~11.76ニュートン)が掛けられた際には、牽引角度が0~30度の場合のほうが、角度が40~70度の場合よりも、左右角度指数が有意に上昇していました。そして、この0~30度の角度は、背側輪状披裂筋の外側区画(Lateral component)からの牽引の方向と合致していました。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対する神経筋接合根部移植においては、背側輪状披裂筋の内側よりも外側区画を再神経支配(Re-innervation)することで、より効果的に披裂軟骨外転が達成できることが示唆されました。
一般的に、馬の背側輪状披裂筋における二つの区画は、堅固な結合組織で分離(Separation by firm connective tissue)されているため、内側区画に移植された神経筋接合根部が、外側区画まで神経支配する可能性は低いと考えられています(Cheetham et al. EVJ. 2008;40:70)。また、正常な披裂軟骨外転の際には、披裂軟骨は外側および背側への牽引(Lateral and dorsal tractions)だけでなく、尾側への動きもある事から、背側輪状披裂筋の内側および外側区画は、異なった機能を担っている可能性が指摘されており、完全な上部気道機能の回復(Full recovery of upper airway function)のためには、両方の区画への神経植え込み(Neurotization)を要すると考察されています。
この研究で示された、披裂軟骨筋突起に対する理想的な牽引角度(0~30度)は、喉頭形成術(Laryngoplasty)の実施の際にも重要であると考えられます。通常の喉頭形成術において、筋突起に通した装具を、輪状軟骨後部(Posterior aspect of cricoid cartilage)に設置する時には、その尾側縁(Caudal border)から頭側へ2~3cmで、輪状軟骨椎(Spine of cricoid cartilage)から外側へ1cmの位置に通すことが推奨されています。この結果、筋突起に対する牽引角度は20~40度のなる事が知られており、この箇所よりも更に外側に装具を設置すると、尾側縁の湾曲した部分から装具が滑り落ちて、インプラントの緩みおよび手術失敗につながるという知見が示されています。しかし、甲状軟骨後部(Posterior aspect of the thyroid cartilage)へと装具が滑り落ちないよう施術できるのであれば、可能な限り外側箇所への装具設置を試みることで、それほど強い牽引力を与えなくても、最善の角度で緊張を掛けること(Applying a tension in an optimal angle)が可能になり、より良好な披裂軟骨外転を誘導できるという考察がなされています。
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