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馬の病気:脛骨骨折

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脛骨骨折(Tibia fracture)について。

脛骨の近位骨端骨折(Proximal physeal fracture)は子馬に好発し、他の馬に蹴られたり、後肢を踏まれる事によって発症します。一般的にSalter-Harrisタイプ2の病態を呈し、骨折線は内側に起始し、骨幹端骨片(Metaphyseal fragment)は外側に見られます。症状としては、重度の跛行(Severe lameness)と患部の腫脹(Swelling)を示し、レントゲン検査(Radiography)による確定診断(Definitive diagnosis)と骨折立体配置(Fracture configuration)の把握が行われます。子馬における近位脛骨の骨端骨折では、副木装着(Splinting)などによる応急処置(First aid)では充分な骨折部安定化(Fracture stabilization)が達成できない事が多いため、輸送や診断前における外固定(External coaptation)の実施は必ずしも推奨されていません。治療では内固定術(Internal fixation)による骨折部整復が必要で、交差ピン固定術(Cross-pin fixation)、螺子固定術(Lag screw fixation)、内側面へのプレート固定術(Medial plate fixation)等の術式が応用されています。整復完了後には、麻酔覚醒事故(Anesthesia recovery incidents)を防ぐため適切な起立補助を実施することが重要で、また、後肢の全肢ギプス(Full limb cast)はむしろインプラントへの負荷を増加させるため、使用禁忌(Contraindication)とされています。術後には継続的なレントゲン検査による患部のモニタリングが行われ、骨幹端部の骨折線(Metaphyseal fracture line)における骨癒合が確認されれば、骨端部の骨折線(Physeal fracture line)の治癒が起きていると判断して、ピンやプレートなどの固定具除去(Implant removal)を行えることが提唱されています(一般に骨端部治癒の方が骨幹端部治癒よりも早いため)。しかし、治療期間中に膝関節部での内反症(Valgus deformity)が認められた症例では、骨折治癒後も内側面にインプラントを残しておく事で、プレートが経成長板架橋形成(Transphyseal bridging)の役目を果たして、凸側面(Convex aspect)(この場合は膝関節内側面)における骨成長減速(Bone growth retardation)を誘導する事ができ、肢軸の矯正(Limb axis realignment)が完了したと判断された時点で、プレートを除去する指針が示されています。

脛骨稜の骨折(Tibial crest fracture)は、障害飛越馬において下腿部前面を固定障害物にぶつけることで発症することが一般的で、重度~不負重性跛行(Marked to non-weight-bearing lameness)を呈し、関節性骨折(Articular fracture)の場合には大腿脛骨関節の膨満(Femorotibial joint effusion)が見られることもあります。診断はレントゲン検査によって下されますが、子馬~若馬においては骨折線と成長版(Growth plate)を見分けるため、対側肢(Contralateral limb)のレントゲン像との比較を要する場合もあります(近位脛骨の成長板は36~42ヶ月齢で閉鎖するため)。脛骨稜の非変位性骨折(Non-displaced fracture)の治療としては、馬房休養(Stall rest)を介しての保存性療法(Conservative therapy)による治癒が期待できることが知られています。しかし、膝蓋靭帯(Patellar ligaments)の牽引力によって骨折片変位や癒合不全(Nonunion)を併発する危険もあるため、継続的レントゲン検査によって骨折部のモニタリングを行うことが重要です。脛骨稜の変位性骨折(Displaced fracture)では、内固定法による骨折部整復と関節面の再構築(Joint surface reconstruction)が必要で、骨折片の螺子固定術に併せて、骨折部より遠位の皮質骨面におけるプレート設置によって、テンション・バンド原理(Tension-band principle)を作用させる術式が用いられています。また、骨折片が小さく螺子挿入が困難である症例では、骨片の外科的摘出が行われる場合もあります。

脛骨の骨幹骨折(Diaphyseal fracture)は、競走馬における致死的損傷(Catastrophic injury)として発症することが多いですが、子馬においても蹴傷などの外傷性に起こる場合もあります。症状としては、不負重性跛行と重篤な下腿部不安定性(Crural instability)を示し、レントゲン検査による確定診断と骨折立体配置の把握が行われます。成馬における脛骨骨幹骨折は、多くの場合に粉砕骨折(Comminuted fracture)の病態を示し、開放骨折(Open fracture)や重度の変位性骨折を起こす事が多いため、安楽死(Euthanasia)が選択されることが多々あります。一方、子馬における脛骨骨幹骨折は、斜位または螺旋状の立体配置(Oblique/Spiral configuration)を示し、粉砕骨折を起こす確率は低いことが知られています。子馬の症例や、外科治療が選択された成馬の症例では、プレート固定による骨折整復が実施されます。脛骨の張力面(Tension surface)は頭側皮質骨面(Cranial cortex)であるため、一枚目のプレートは脛骨頭側面に設置され(脛骨遠位部では頭外側面へ接触するようにねじれるようにプレートを曲げます)、二枚目のプレートは骨折形態に応じて外側または内側骨面(Lateral/Medial cortex)に設置されます。この際には、二枚のプレートが同じ高さで終了しないように長さを調節することが大切で、また、脛骨表面は隆起が多いため、PMMAを用いてのプレート接着(Plate luting)を行うことで、プレートを皮質骨面に確実にコンタクトさせる手法が推奨されています。麻酔覚醒時には適切な起立補助を要し、また、ギプス装着は禁忌とされています。

脛骨の不完全骨折(Incomplete fracture)および疲労骨折(Stress fracture)は、競走馬に好発し、急性発現性(Acute onset)に重度跛行を呈します。患部腫脹は一般に顕著ではありませんが、触診による圧痛(Pain on palpation)や後肢屈曲試験(Hindlimb flexion test)による強陽性を示す場合もあります。羅患部位が近位肢であるため、診断麻酔(Diagnostic anesthesia)による疼痛箇所の特定(Pain localization)は難しく、レントゲン検査によって骨折線が不明瞭である症例も多いことが示唆されています。そのため、脛骨の不完全骨折が疑われる症例では、核医学検査(Nuclear scintigraphy)によって放射医薬性取込(Radiopharmaceutical uptake)の増加を確認したり、1~2週間後に再レントゲン撮影を行うことが推奨されています。脛骨の不完全骨折の治療としては、馬房休養による保存性療法が行われ、頭上に渡したワイヤーに無口を接続することで患馬の寝起きを制限する手法(Head-tied confinement on overhead wire)が用いられる場合もあります。治療中には、継続的なレントゲン検査によるモニタリングが重要で、骨折線の伸展(Fracture line extension)や骨折片変位などの病態悪化が認められた症例では、プレート固定術によって完全骨折の予防が試みられる場合もあります。

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