馬の文献:喉頭片麻痺(Perkins et al. 2011)
文献 - 2020年08月08日 (土)
「声嚢声帯切除術を喉頭形成術より前に行うことによる馬の披裂軟骨外転への影響の生体外的評価」
Perkins JD, Meighan H, Windley Z, Troester S, Piercy R, Schumacher J. In vitro effect of ventriculocordectomy before laryngoplasty on abduction of the equine arytenoid cartilage. Vet Surg. 2011; 40(3): 305-310.
この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に対する外科的療法に有用な術式を評価するため、13頭の健常馬から採取した喉頭組織を用いて、まず右側の披裂軟骨(Arytenoid cartilage)を喉頭形成術(Laryngoplasty)によって最大外転(Maximal abduction)させた後(=健常馬の正常な右側喉頭筋の作用を再現するため)、左側の披裂軟骨も喉頭形成術によって最大外転させ、その際の最大牽引力(Maximum force)を測定してから、喉頭形成術を取り除き、左側の声嚢声帯切除術(Ventriculocordectomy)を施してから、再び左側に喉頭形成術を行い、前述の最大牽引力時またはその過程における、左右角度商(Left:right angle quotients)および声門横断面積比(Glottic cross-sectional area ratios)の解析が行われました。
結果としては、喉頭形成術だけが行われた場合に比べて、声嚢声帯切除術してから喉頭形成術が行われた場合のほうが、左右角度商および声門横断面積比が、有意に高い値を示しました。また、後者の術式のほうが、左右角度商および声門横断面積比が0.8となる段階での牽引力が、それぞれ12%および45%も低くて済むことが報告されています。これは、披裂軟骨の内側支持機能(Medial supporting function)を担っている声帯(Vocal cord)が無くなることで、披裂軟骨を外転させるのに必要な牽引力が、少なくて済んだためと考えられます。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対する外科的療法においては、喉頭形成術の前に声嚢声帯切除術を行うことで、より良好な披裂軟骨の外転が達成でき、また、それに要する牽引力が低いため、披裂軟骨の筋突起(Muscular process of arytenoid cartilage)に対する損傷度合いや、軟骨の亀裂を生じる危険性を抑制できることが示唆されました。
一般的に、馬の喉頭片麻痺に対する外科的療法では、滅菌手術(Sterile surgery)を要する喉頭形成術を先に行い、麻酔下の馬を無菌室(Clean room)の外に出した後、非滅菌手術(Non-sterile surgery)である喉頭切開術(Laryngotomy)および声嚢声帯切除術を行う、という順番での術式が選択されることが通例的です(Brown et al. EVJ. 2003;35:570)。しかし、今回の研究では、声嚢声帯切除術→喉頭形成術という順番で手術をしたほうが、より効率的に披裂軟骨の外転を誘導できる、という提唱がなされています。しかし、今回の生体外実験においては、喉頭形成術→声嚢声帯切除術という治療郡は含まれていないため、「手術の順番を変えることで治療効果が上がる」という結論付けをするには、必ずしも適切な研究デザインではありませんでした。
この研究では、適切な喉頭形成術を行う時の牽引力を算出するため、左右角度商および声門横断面積比が0.8(つまり80%の披裂軟骨外転)となる段階を、“適切な披裂軟骨外転”と定義しています。他の文献では、適切な喉頭形成術の度合いとして、88%の最大外転(Rakesh et al. EVJ. 2008;40:629)、80~90%の最大外転(Adreani et al. Equine Respiratory Medicine and Surgery, 1st Eds. 2007:497)、などの定義づけがなされています。
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この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に対する外科的療法に有用な術式を評価するため、13頭の健常馬から採取した喉頭組織を用いて、まず右側の披裂軟骨(Arytenoid cartilage)を喉頭形成術(Laryngoplasty)によって最大外転(Maximal abduction)させた後(=健常馬の正常な右側喉頭筋の作用を再現するため)、左側の披裂軟骨も喉頭形成術によって最大外転させ、その際の最大牽引力(Maximum force)を測定してから、喉頭形成術を取り除き、左側の声嚢声帯切除術(Ventriculocordectomy)を施してから、再び左側に喉頭形成術を行い、前述の最大牽引力時またはその過程における、左右角度商(Left:right angle quotients)および声門横断面積比(Glottic cross-sectional area ratios)の解析が行われました。
結果としては、喉頭形成術だけが行われた場合に比べて、声嚢声帯切除術してから喉頭形成術が行われた場合のほうが、左右角度商および声門横断面積比が、有意に高い値を示しました。また、後者の術式のほうが、左右角度商および声門横断面積比が0.8となる段階での牽引力が、それぞれ12%および45%も低くて済むことが報告されています。これは、披裂軟骨の内側支持機能(Medial supporting function)を担っている声帯(Vocal cord)が無くなることで、披裂軟骨を外転させるのに必要な牽引力が、少なくて済んだためと考えられます。このため、喉頭片麻痺の罹患馬に対する外科的療法においては、喉頭形成術の前に声嚢声帯切除術を行うことで、より良好な披裂軟骨の外転が達成でき、また、それに要する牽引力が低いため、披裂軟骨の筋突起(Muscular process of arytenoid cartilage)に対する損傷度合いや、軟骨の亀裂を生じる危険性を抑制できることが示唆されました。
一般的に、馬の喉頭片麻痺に対する外科的療法では、滅菌手術(Sterile surgery)を要する喉頭形成術を先に行い、麻酔下の馬を無菌室(Clean room)の外に出した後、非滅菌手術(Non-sterile surgery)である喉頭切開術(Laryngotomy)および声嚢声帯切除術を行う、という順番での術式が選択されることが通例的です(Brown et al. EVJ. 2003;35:570)。しかし、今回の研究では、声嚢声帯切除術→喉頭形成術という順番で手術をしたほうが、より効率的に披裂軟骨の外転を誘導できる、という提唱がなされています。しかし、今回の生体外実験においては、喉頭形成術→声嚢声帯切除術という治療郡は含まれていないため、「手術の順番を変えることで治療効果が上がる」という結論付けをするには、必ずしも適切な研究デザインではありませんでした。
この研究では、適切な喉頭形成術を行う時の牽引力を算出するため、左右角度商および声門横断面積比が0.8(つまり80%の披裂軟骨外転)となる段階を、“適切な披裂軟骨外転”と定義しています。他の文献では、適切な喉頭形成術の度合いとして、88%の最大外転(Rakesh et al. EVJ. 2008;40:629)、80~90%の最大外転(Adreani et al. Equine Respiratory Medicine and Surgery, 1st Eds. 2007:497)、などの定義づけがなされています。
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