馬の文献:喉頭片麻痺(Bischofberger et al. 2013)
文献 - 2020年08月12日 (水)
「喉頭形成術の術後に声門裂最大領域を得るためのインプラントの最適な緊張、位置、および数」
Bischofberger AS, Wereszka MM, Hadidane I, Perkins NR, Jeffcott LB, Dart AJ. Optimal tension, position, and number of prostheses required for maximum rima glottidis area after laryngoplasty. Vet Surg. 2013; 42(3): 280-285.
この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、22個の馬の屍体喉頭(Cadaveric equine larynges)に対する喉頭形成術(Laryngoplasty)において、声門裂の最大領域(Maximum rima glottidis area)を得るためのインプラントの最適な緊張、位置、および数(Optimal tension, position, and number of prostheses)が評価されました。
この研究では、試験された三本のインプラントのうち最初の二本は、外側(輪状軟骨の正中から1cmの位置)および背側(輪状軟骨の正中の位置)に設置されており、これらは、背側輪状披裂筋(Cricoid arytenoid dorsalis muscle)の外側神経筋区画の走行(Orientation of the lateral neuromuscular compartment)に一致しており、最も一般的なインプラントの設置箇所とされています(Ahern et al. Vet Surg. 2010;39:1)。また、三本目のインプラントは頭側(輪状軟骨の中央堤)に設置されており、これは、背側輪状披裂筋の内側神経筋区画の走行(Orientation of the medial neuromuscular compartment)に一致しており、最も一般的な代替的・付加的な設置箇所(Alternative or additional location)として提唱されています(Perkins et al. AJVR. 2010;71:1003, Cramp et al. EVJ. 2009;41:328)。
結果としては、声門裂の横断面積(Cross-sectional area)は、インプラントの緊張度合いが上昇するに連れて増加することが分かり(20ニュートンが最大)、15ニュートンの緊張を掛けた状態では、二本または三本のインプラントを設置した場合のほうが、一本だけの場合に比較して、有意に大きな声門裂の横断面積が達成されたことが報告されています(三箇所のどのインプラントと比較しても)。他の文献では、喉頭形成術におけるインプラントの牽引角度としては、0~30度の場合において、70度の場合に比べて、有意に優れた披裂軟骨外転(Arytenoid cartilage abduction)が達成できるという知見が示されています(Cramp et al. EVJ. 2009;41:328)。そして、これらのインプラントの緊張度としては、14.7ニュートンまたは15.2ニュートンの牽引力において、最大の披裂軟骨外転が達成できることが報告されています(Perkins et al. AJVR. 2010;71:1003, Cramp et al. EVJ. 2009;41:328)。
一般的に、馬の喉頭形成術では、ポリブチラート被覆されたNo.5のポリエステルの編み糸(5 braided polyester coated with polybutilate)などの非吸収性縫合糸(Non-absorbable suture)を、一本または二本用いて、それらを丸針(Taper needle)にて設置する術式が推奨されています(Ahern et al. Vet Surg. 2010;39:1)。このようなインプラントにおいては、嚥下や発声における生理学的な負荷(Physiologic loads during swallowing or vocalization)である25ニュートンが掛かっても、一本のインプラント破損にも至らないことが示唆されています(Rossignol et al. Vet Surg. 2006;35:49)。また、反復的な負荷試験においても、生理学的な負荷が一万回作用した場合にも、インプラント破損には至らないことが報告されています(Ahern et al. Vet Surg. 2010;39:1)。
この研究では、インプラントが二本使われる場合には、外側+背側に設置されることで声門裂の最大横断面積が達成されており、他の二種類の組み合わせパターン(外側+頭側、または、背側+頭側)よりも優れていたことが報告されています。このため、外側+背側の二箇所にインプラントが設置された場合に比べて、三本のインプラントを三箇所(外側+背側+頭側)に設置することの利点は低い(少なくとも15ニュートンに緊張度においては)という考察がなされています。しかし、他の文献では、これらの三箇所のインプラントは、それぞれ異なった機序で作用していると考えられており(Cheetham et al. EVJ. 2008;40:70, Cramp et al. EVJ. 2009;41:328)、これらを組み合わせる際の相乗効果(Synergistic effect)については、更なる検証を要すると考察されています。また今回の研究では、声門裂の総面積(Total area)のみが評価対象となっており、披裂軟骨がどの程度の背側・外側・尾側への変位または回転(Dorsal, lateral, or caudal displacement or rotation)を生じているのかに関しては評価されていませんでした。
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この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に有用な外科的療法を検討するため、22個の馬の屍体喉頭(Cadaveric equine larynges)に対する喉頭形成術(Laryngoplasty)において、声門裂の最大領域(Maximum rima glottidis area)を得るためのインプラントの最適な緊張、位置、および数(Optimal tension, position, and number of prostheses)が評価されました。
この研究では、試験された三本のインプラントのうち最初の二本は、外側(輪状軟骨の正中から1cmの位置)および背側(輪状軟骨の正中の位置)に設置されており、これらは、背側輪状披裂筋(Cricoid arytenoid dorsalis muscle)の外側神経筋区画の走行(Orientation of the lateral neuromuscular compartment)に一致しており、最も一般的なインプラントの設置箇所とされています(Ahern et al. Vet Surg. 2010;39:1)。また、三本目のインプラントは頭側(輪状軟骨の中央堤)に設置されており、これは、背側輪状披裂筋の内側神経筋区画の走行(Orientation of the medial neuromuscular compartment)に一致しており、最も一般的な代替的・付加的な設置箇所(Alternative or additional location)として提唱されています(Perkins et al. AJVR. 2010;71:1003, Cramp et al. EVJ. 2009;41:328)。
結果としては、声門裂の横断面積(Cross-sectional area)は、インプラントの緊張度合いが上昇するに連れて増加することが分かり(20ニュートンが最大)、15ニュートンの緊張を掛けた状態では、二本または三本のインプラントを設置した場合のほうが、一本だけの場合に比較して、有意に大きな声門裂の横断面積が達成されたことが報告されています(三箇所のどのインプラントと比較しても)。他の文献では、喉頭形成術におけるインプラントの牽引角度としては、0~30度の場合において、70度の場合に比べて、有意に優れた披裂軟骨外転(Arytenoid cartilage abduction)が達成できるという知見が示されています(Cramp et al. EVJ. 2009;41:328)。そして、これらのインプラントの緊張度としては、14.7ニュートンまたは15.2ニュートンの牽引力において、最大の披裂軟骨外転が達成できることが報告されています(Perkins et al. AJVR. 2010;71:1003, Cramp et al. EVJ. 2009;41:328)。
一般的に、馬の喉頭形成術では、ポリブチラート被覆されたNo.5のポリエステルの編み糸(5 braided polyester coated with polybutilate)などの非吸収性縫合糸(Non-absorbable suture)を、一本または二本用いて、それらを丸針(Taper needle)にて設置する術式が推奨されています(Ahern et al. Vet Surg. 2010;39:1)。このようなインプラントにおいては、嚥下や発声における生理学的な負荷(Physiologic loads during swallowing or vocalization)である25ニュートンが掛かっても、一本のインプラント破損にも至らないことが示唆されています(Rossignol et al. Vet Surg. 2006;35:49)。また、反復的な負荷試験においても、生理学的な負荷が一万回作用した場合にも、インプラント破損には至らないことが報告されています(Ahern et al. Vet Surg. 2010;39:1)。
この研究では、インプラントが二本使われる場合には、外側+背側に設置されることで声門裂の最大横断面積が達成されており、他の二種類の組み合わせパターン(外側+頭側、または、背側+頭側)よりも優れていたことが報告されています。このため、外側+背側の二箇所にインプラントが設置された場合に比べて、三本のインプラントを三箇所(外側+背側+頭側)に設置することの利点は低い(少なくとも15ニュートンに緊張度においては)という考察がなされています。しかし、他の文献では、これらの三箇所のインプラントは、それぞれ異なった機序で作用していると考えられており(Cheetham et al. EVJ. 2008;40:70, Cramp et al. EVJ. 2009;41:328)、これらを組み合わせる際の相乗効果(Synergistic effect)については、更なる検証を要すると考察されています。また今回の研究では、声門裂の総面積(Total area)のみが評価対象となっており、披裂軟骨がどの程度の背側・外側・尾側への変位または回転(Dorsal, lateral, or caudal displacement or rotation)を生じているのかに関しては評価されていませんでした。
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