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馬の文献:喉頭片麻痺(Rossignol et al. 2015)

「起立馬の喉頭形成術」
Rossignol F, Vitte A, Boening J, Maher M, Lechartier A, Brandenberger O, Martin-Flores M, Lang H, Walker W, Ducharme NG. Laryngoplasty in standing horses. Vet Surg. 2015; 44(3): 341-347.

この研究論文では、馬の喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)に対する有用な外科的療法を検討するため、2008~2014年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)にて反回神経病(Recurrent laryngeal neuropathy)の診断が下された71頭の馬に対して、起立位手術による喉頭形成術(Standing laryngoplasty)が実施されました。

この研究の術式では、鎮静(Sedation)と局所麻酔(Local anesthesia)が行われた症例馬の頭頚部を、完全に伸展させた姿勢(Fully extended position)で保定して、通常どおりに、舌顔面静脈(Linguofacial vein)の腹側から輪状軟骨の尾側部(Caudal aspect of the cricoid cartilage)に到達するアプローチ法が選択されました。輪状軟骨への刺入は、パッサー器具、またはDeschamps針、または逆角針を用いて行われ、輪状咽頭筋と甲状咽頭筋(Cricopharyngeus and thyropharyngeus muscles)を分離して披裂軟骨筋突起(Muscular process of the arytenoid cartilage)を露出させてから、筋突起への刺入は、Jamshidi骨髄針+Crochet-styleフック、または逆角針、またはメイヨー針を用いて行われました。インプラントの設置角度は、僅かに頭内側から尾外側の向きで(Slightly craniomedial to caudolateral direction)、輪状披裂関節に垂直方向(Parallel to the cricoarytenoid joint)とされました。インプラントは、一本(n=49)または二本(n=18)使用され、二本使う場合には、正中軸よりも10cmほど内側または外側にそれぞれ設置されました。そして、内視鏡で観察しながら、最適な披裂軟骨外転(Optimal degree of abduction of the arytenoid cartilage)(グレード2または3)が得られるまでインプラントへの緊張が加えられました。その後、通常どおりの三層縫合を施してから、ステントバンテージが塗布され手術は終了されました。

結果としては、起立位での喉頭形成術は、重篤な合併症(Serious complication)を伴うことなく、全症例で安全に実施され、手術準備時間は約30分で、手術時間は35~60分であったことが報告されています。手術直後の内視鏡検査では、過半数の症例(41/71頭)でグレード2の披裂軟骨外転が確認され、術後の六週間目に内視鏡検査が行われた症例(22/46頭)では、グレード3の外転が確認されました。長期的予後(Long-term prognosis)を見ると、96%の症例(68/71頭)において、呼吸器雑音の減退(Reduced respiratory noise)と運動耐性の向上(Improved exercise tolerance)が達成されました。このため、馬の喉頭片麻痺に対しては、起立位での喉頭形成術によって、全身麻酔下(Under general anesthesia)での施術と遜色の無い治療成績が期待され、治療費を安価に抑えたり、麻酔覚醒の危険を避けられるという利点がある、という考察がなされています。また、手術が奏功しなかった三頭のうち、一頭は術後一週間目に喉頭形成術の損失が確認され、もう一頭は術後一ヶ月目に喉頭形成術の損失が確認されて、再手術によって運動能力が回復し、最後の一頭は、運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)を発症して転用されたことが報告されています。

この研究では、起立位での喉頭形成術において、披裂軟骨筋突起への外側アプローチは容易であったものの、筋突起を触ることで発咳(Coughing)が見られたため、局所麻酔薬を染み込ませたガーゼ(Local anesthetic soaked gauze)を周囲組織に当てる手法が実施されました。また、深刻な術中出血(Intra-operative bleeding)を起こした症例は無く、起立位での施術に際して頭部を挙上させていることが、出血を軽減するのに奏功した可能性があると考察されています。

この研究では、輪状軟骨と筋突起にかけたインプラントに緊張を加える際に、内視鏡で披裂軟骨の外転度合いを確認しながら緊張度を加減する手法が用いられ、術後に過剰外転(Over-abduction)を起こした症例はありませんでした。一方、全身麻酔下での喉頭形成術では、術中の外転グレードが、手術直後の起立位での外転グレードと一致しない事象もあると指摘されており、この要因としては、気管チューブによって披裂軟骨が外側に押されていること、および、馬の頭部の位置によっては喉頭軟骨が捻れてしまうこと、等が挙げられています。つまり、適切なインプラントの緊張度(=披裂軟骨の外転度合い)を判断する点においては、起立位での喉頭形成術のほうが、麻酔下での手術よりも優れている、という考察が可能なのかもしれません。

この研究では、起立位での喉頭形成術を行った馬外科医の印象として、インプラントに緊張を加えるのに必要な力が、麻酔下での手術よりも少なかったという知見が示されており、この要因として、披裂軟骨の外転の判定が容易であったり、喉頭軟骨が通常の位置(馬が立っている状態)にあったことが挙げられています。また、馬の喉頭形成術において、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)の際の激しい呼吸や嚥下(Intense breathing and swallowing)が、インプラントが破損する原因のひとつであると仮定すると、これが起立位での施術の利点になりうるという考察もなされています。

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