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馬の文献:喉頭蓋捕捉(Honnas et al. 1988)

「喉頭蓋捕捉:起立位の馬における経鼻腔アプローチによる披裂喉頭蓋襞の軸性分割」
Honnas CM, Wheat JD. Epiglottic entrapment. A transnasal surgical approach to divide the aryepiglottic fold axially in the standing horse. Vet Surg. 1988; 17(5): 246-251.

この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、1980~1987年にかけて、上部気道内視鏡検査(Upper airway endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位手術(Standing surgery)での経鼻腔アプローチ(Transnasal surgical approach)による、披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)が行われた20頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

この研究の外科的療法では、起立位で鼻ネジ(Nose twitch)をかけ、内視鏡での観察下で喉頭蓋周囲への局所麻酔(Local anesthesia)の塗布を行い、これによって軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of the soft palate)が生じた場合には、鈍性フック(Blunt hook)を使って軟口蓋縁を前方に引っ張ることで、喉頭蓋を軟口蓋の上に戻しました。そして、鼻腔の腹側道(Ventral meatus)を通してステンレス鈎状柳葉刀(Stainless steel hooked bistoury)を咽頭部へと到達させて、この鈎の先端を捕捉されている披裂喉頭蓋襞組織に引っ掛けて、短く慎重な動作(Short and deliberate strokes)によって柳葉刀を吻側牽引(Rostral traction)することで、披裂喉頭蓋襞の軸性分割が施されました。

結果としては、20頭の患馬のうち、17頭の競走馬の症例では、術後に調教およびレースへの復帰(Returned to training and race)を果たした馬は88%に及んでいました。また、残りの三頭の非競走馬の症例では、一頭では症状の完治(Resolution of clinical signs)と運動復帰を示し、他の二頭は呼吸器症状(Respiratory signs)が残ったものの運動不耐性(Exercise intolerance)の完治と運動復帰を果たしたことが報告されています。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、起立位手術での披裂喉頭蓋襞の経鼻腔的な軸性分割によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が期待され、競走および運動に復帰できる馬の割合が高いことが示唆されました。

一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する古典的な治療では、喉頭切開術(Laryngotomy)または経口腔アプローチ(Transoral approach)によって、捕捉されている披裂喉頭蓋襞組織を切除する術式が報告されています(Speirs. J Eq Med Surg. 1977;1:267,Fretz. Can Vet J. 1977;18:352)。しかし、今回の研究で応用されたような、内視鏡を介しての経鼻腔的な分割手法では、入院を要せず来院症例(Outpatient basis)としての診療が可能で、手術時間が短く、手術費も安価で、全身麻酔(General anesthesia)も要しない、という利点が挙げられています。また、術後の休養期間(Post-operative resting period)を短縮できる(特に競走馬において重要)という大きな長所もあり、他の文献で行われている喉頭形成術を介しての治療法では、通常は四~六週間の休養を要するのに対して、今回の研究では、術後の平均休養期間は十八日間で、このうち七割の症例では、二週間以内の休養で調教および運動に復帰できた事が報告されています。

この研究では、喉頭蓋捕捉の臨床症状として、運動不耐性によるプアパフォーマンスを呈した馬が55%(11/20頭)と最も多く、次いで、運動不耐性に伴う呼吸器雑音(Respiratory noise)を呈した馬が三頭、呼吸器雑音のみを呈した馬が二頭、運動不耐性または呼吸器雑音に伴う咳嗽(Coughing)を呈した馬が二頭となっていました。また、術前の側方レントゲン検査(Lateral radiography)が行われた13頭の患馬のうち、喉頭蓋の長さ(Epiglottic length)が正常(8.5~9.1cm)であったのは九頭(69%)で、残りの四頭では喉頭蓋低形成(Epiglottic hypoplasia)(喉頭蓋の長さ:6.1~7.5cm)が認められました。他の文献では、喉頭蓋低形成に起因する喉頭蓋捕捉では、臨床症状の完治という意味では、予後が有意に悪化(Significantly poor prognosis)するという知見が示されています(Boles et al. JAVMA. 1978;172:338, Linford et al. AJVR. 1983;44:1660, Ordidge. Vet Rec. 1977;100:365)。

この研究では、20頭の患馬のうち17頭では、喉頭蓋捕捉に対する外科的療法のあと、術後の8~28日で、分割された披裂喉頭蓋襞の完全退縮(Complete retraction)が見られました。しかし、残りの三頭のうち、一頭では喉頭蓋捕捉が再発(Recurrence)し、二頭では分割された披裂喉頭蓋襞の断端組織が、喉頭蓋の尖端(Tip of epiglottis)に巻きつく所見が認められましたが、いずれも、二度目の分割手術によって完治していました。そして、このような合併症(Complications)は、軸性分割が完全に行われる前に鈎が外れてしまい、披裂喉頭蓋襞が部分的に残ってしまう事で生じると考えられました。

一般的に、馬における喉頭蓋下の披裂喉頭蓋襞は、アコーディオンのように伸び縮みすることで、嚥下の際に喉頭蓋を上方に反転できる余裕を持たせています(Reserve of tissue that can expand when the epiglottis is elevated during swallowing)。そして、馬の喉頭蓋捕捉における手術によって、この組織の炎症や瘢痕形成(Inflammation or scar formation)が生じると、喉頭蓋が前方に移動できる範囲が狭められて、軟口蓋背方変位の術後合併症を引き起こす危険性が高いことが知られています(Boles. Proc AAEP. 1975;21:29, Haynes.Proc AAEP. 1978;24:223, Cook. Proc AAEP. 1981;27:393)。このため、喉頭蓋を捕捉している披裂喉頭蓋襞の組織は、出来る限り軸性分割するだけにとどめ、広範囲にわたる組織切除は避けるべきである、という警鐘が鳴らされています。

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