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馬の文献:喉頭蓋捕捉(Tulleners. 1990)

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「馬の喉頭蓋捕捉の治療のための起立位手術による内視鏡を介してのネオジウムヤグレーザー的整復」
Tulleners EP. Transendoscopic contact neodymium:yttrium aluminum garnet laser correction of epiglottic entrapment in standing horses. J Am Vet Med Assoc. 1990; 196(12): 1971-1980.

この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、1986~1988年にかけて、上部気道内視鏡検査(Upper airway endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位手術(Standing surgery)での、内視鏡を介してのネオジウムヤグレーザー的整復(Transendoscopic contact neodymium:yttrium aluminum garnet laser correction)が行われた88頭の患馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。

この研究の外科的療法では、鎮静剤(Sedation)の投与後、起立位で鼻ネジ(Nose twitch)をかけ、内視鏡での観察下で喉頭蓋周囲への局所麻酔(Local anesthesia)の塗布を行ってから、内視鏡の生検チャンネル(Biopsy channel)を介して、レーザー導管を咽頭部へと進展させました。そして、喉頭蓋を捕捉している披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の組織のうち、喉頭蓋の尖端(Tip of epiglottis)に当たると思われる箇所から、上方へと垂直にレーザーで切開して、切り終わった時点で馬に数回ほど嚥下(Swallowing)をさせて、喉頭蓋捕捉が起こらない事が確認されました。

結果としては、88頭の患馬のうち、レーザー手術によって喉頭蓋捕捉の完全整復(Complete correction)が達成された馬は85頭(97%)に及び、これ以外の三頭では、重度の喉頭蓋低形成(Severe epiglottic hypoplasia)や慢性肥厚性捕捉膜(Chronic and thick entrapping membrane)のため、治療不成功という判断が下されました。そして、殆どの症例は、入院(Hospitalization)を要しない外来症例(Outpatient basis)として治療され、術後の七~十四日間の休養および抗炎症剤(Anti-inflammatory drugs)の投与で、運動に復帰できたことが報告されています。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、起立位での経内視鏡的なネオジウムヤグレーザー手術によって、罹患部が完全に整復され、早期に運動復帰できる馬の割合が非常に高いことが示唆されました。

一般的に、喉頭蓋捕捉の罹患馬への外科的療法では、喉頭切開術(Laryngotomy)を介して、捕捉されている披裂喉頭蓋襞の組織(Aryepiglottic fold tissue)を切除する手法が用いられますが、全身麻酔(General anesthesia)や長期入院を要するという欠点があります(Speirs. J Eq Med Surg. 1977;1:267,Fretz. Can Vet J. 1977;18:352)。一方で、内視鏡を介してのレーザー手術では、来院症例として治療でき、治療費が安く抑えられるという利点の他に、患馬に意識があるため、捕捉組織をレーザーで分割した後、実際に馬に嚥下運動をさせてみて、喉頭蓋が再捕捉しない事を確認できる、というメリットもあります。

この研究では、術後にレース復帰を果たした競走馬症例を見ると、術前に比べて競走能力の維持または向上(Maintenance/Improvement of racing performance)が達成された馬は、サラブレッド競走馬では90%、スタンダードブレッド競走馬では95%に上っていました。このため、競走馬の喉頭蓋捕捉に対しては、内視鏡を介しての起立位レーザー手術によって、十分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が見られ、競走能力の維持または向上を期待できることが示唆されました。

この研究では、術後に喉頭蓋捕捉の再発(Recurrence)を呈した馬は四頭(5%)で、このうち三頭では喉頭蓋低形成の併発が認められました。また、軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate)の術後合併症(Post-operative complication)が認められた馬は九頭(10%)で、これらの馬の全頭が喉頭蓋低形成を呈していました(この他に、術前から軟口蓋背方変位を起こしていたのが四頭)。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬の術前診断では、側方レントゲン像(Lateral radiographic view)などによって喉頭蓋低形成の評価を行って、適切な予後判定(Prognostication)に努める事が重要であると考えられました。

この研究で応用されたレーザー手術による喉頭蓋捕捉の整復では、鈎状柳葉刀(Hooked bistoury)によって軸性分割する術式に比べて、術創からの出血は少ないものの、術後に軽度~中程度の咽頭炎症(Mild to moderate pharyngeal inflammation)を続発することから、十分な抗炎症剤療法を併用することが重要である、という提唱がなされています。また、術後の二週間以内に観察される炎症反応は、かなりの個体差(Individual variability)があり、必ずしも長期的予後(Long-term prognosis)とは相関しないという知見が示された事から、経時的な内視鏡検査によって、術部の慎重なモニタリングをすることが重要である、という考察がなされています。

この研究では、レーザー的整復が難しかった場合として、喉頭蓋が薄く平坦で(Flat and thin epiglottis)、重度の喉頭蓋低形成を呈している病態が上げられています。このような症例では、喉頭蓋の弛緩性(Flaccidity)に起因して、喉頭蓋の尖端が捕捉されている組織内で折れ曲がり、全体が平たい箱状を成すため、適切な角度でレーザーを当てることが難しかった、という知見が示されています。そして、このようなケースでは、切り進めていくうちに尖端が横方向へ曲がってしまったり、軟骨組織が露出(Exposing cartilage tissue)してしまうという問題が生じ、また、切り終えた後でも、披裂喉頭蓋襞の断端が喉頭蓋に巻きついてしまう傾向にありました。このため、重度の喉頭蓋低形成が見られた症例に対しては、全身麻酔下での喉頭切開術を介して、より慎重かつ厳密に、捕捉されている軟部組織を切除するのが好ましいのかもしれません。

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