馬の文献:喉頭蓋捕捉(Tulleners. 1991)
文献 - 2020年08月24日 (月)
「ネオジウムヤグレーザーによって治療された競走馬の喉頭蓋捕捉における内視鏡検査およびレントゲン検査での喉頭蓋低形成所見と競走能力との相関」
Tulleners EP. Correlation of performance with endoscopic and radiographic assessment of epiglottic hypoplasia in racehorses with epiglottic entrapment corrected by use of contact neodymium:yttrium aluminum garnet laser. J Am Vet Med Assoc. 1991; 198(4): 621-626.
この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、1987~1988年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位での内視鏡を介したネオジウムヤグレーザー手術(Transendoscopic Nd:YAG laser surgery)による、披裂喉頭蓋襞の軸性分割(Axial division of aryepiglottic fold)が行われた79頭の患馬における、内視鏡検査およびレントゲン検査での喉頭蓋低形成所見(Endoscopic and radiographic assessment of epiglottic hypoplasia)と競走能力(Racing performance)との相関が評価されました。
結果としては、術前と術後に三レース以上の出走を果たした馬を見ると、サラブレッド競走馬では83%が獲得賞金の維持または向上を示し、スタンダードブレッド競走馬でも85%が獲得賞金の維持または向上を示しました。そして、術前のレントゲン検査における喉頭蓋の長さ(Epiglottic length)を見ると、症例郡の平均測定値(サラブレッド:7.28cm、スタンダードブレッド:7.21cm)に比べて、健常な対照馬の平均測定値(サラブレッド:8.56cm、スタンダードブレッド:8.74cm)のほうが、有意に低かった事が示されました。さらに、内視鏡下で喉頭蓋低形成であるという判断が下された症例馬の平均測定値(サラブレッド:6.64cm、スタンダードブレッド:6.93cm)は、喉頭蓋低形成ではないという判断が下された症例馬の平均測定値(サラブレッド:7.57cm、スタンダードブレッド:7.36cm)に比べて、有意に短かった事が報告されています。
この研究では、術前の内視鏡検査およびレントゲン検査における、喉頭蓋低形成の所見の有無、および、喉頭蓋の長さの測定値は、術後の競走能力および獲得賞金とは有意には相関していませんでした。しかし、サラブレッド競走馬に限って見ると、術前よりも術後のほうが獲得賞金額が増えた馬の割合は、喉頭蓋低形成が認められた場合には0%であったのに対して、喉頭蓋低形成が認められなかった場合には22%であった事が報告されています。このため、喉頭蓋低形成の有無や重篤度を確かめることで、ある程度の予後判定指標(Prognostic indicator)になりうる可能性が示唆されています。一方で、術後の競走能力の低下または向上においては、もともとの競走能力の高さも関与するため、内視鏡検査およびレントゲン検査での喉頭蓋低形成所見のみから、外科的療法の治療効果を推定するのは適当ではない、という警鐘が鳴らされています。
一般的に、喉頭蓋捕捉の罹患馬においては、喉頭蓋の低形成を併発していた場合には、術後に喉頭蓋を再発(Recurrence)したり、捕捉されている披裂喉頭蓋襞が外科的整復されてその伸縮性が減退された結果、軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate)の術後合併症(Post-operative complication)を続発する危険性が高いことが知られています。そして、喉頭蓋低形成の診断に際しては、内視鏡検査よりもレントゲン検査のほうが、喉頭蓋の長さや厚みをより正確に測ることができ、また、披裂軟骨の石灰化(Artenoid cartilage mineralization)の発見や(=披裂軟骨炎の初期症状の場合がある)、喉頭蓋の下方にある軟部組織の異常を確認できる、という利点があります。一方、内視鏡検査では、喉頭蓋の幅や色、潰瘍(Ulceration)の併発などを判定でき、喉頭蓋の形状や、軟口蓋(Soft palate)と喉頭蓋との機能的関係(Functional relationship)を評価できる、という利点が挙げられています。
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この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、1987~1988年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位での内視鏡を介したネオジウムヤグレーザー手術(Transendoscopic Nd:YAG laser surgery)による、披裂喉頭蓋襞の軸性分割(Axial division of aryepiglottic fold)が行われた79頭の患馬における、内視鏡検査およびレントゲン検査での喉頭蓋低形成所見(Endoscopic and radiographic assessment of epiglottic hypoplasia)と競走能力(Racing performance)との相関が評価されました。
結果としては、術前と術後に三レース以上の出走を果たした馬を見ると、サラブレッド競走馬では83%が獲得賞金の維持または向上を示し、スタンダードブレッド競走馬でも85%が獲得賞金の維持または向上を示しました。そして、術前のレントゲン検査における喉頭蓋の長さ(Epiglottic length)を見ると、症例郡の平均測定値(サラブレッド:7.28cm、スタンダードブレッド:7.21cm)に比べて、健常な対照馬の平均測定値(サラブレッド:8.56cm、スタンダードブレッド:8.74cm)のほうが、有意に低かった事が示されました。さらに、内視鏡下で喉頭蓋低形成であるという判断が下された症例馬の平均測定値(サラブレッド:6.64cm、スタンダードブレッド:6.93cm)は、喉頭蓋低形成ではないという判断が下された症例馬の平均測定値(サラブレッド:7.57cm、スタンダードブレッド:7.36cm)に比べて、有意に短かった事が報告されています。
この研究では、術前の内視鏡検査およびレントゲン検査における、喉頭蓋低形成の所見の有無、および、喉頭蓋の長さの測定値は、術後の競走能力および獲得賞金とは有意には相関していませんでした。しかし、サラブレッド競走馬に限って見ると、術前よりも術後のほうが獲得賞金額が増えた馬の割合は、喉頭蓋低形成が認められた場合には0%であったのに対して、喉頭蓋低形成が認められなかった場合には22%であった事が報告されています。このため、喉頭蓋低形成の有無や重篤度を確かめることで、ある程度の予後判定指標(Prognostic indicator)になりうる可能性が示唆されています。一方で、術後の競走能力の低下または向上においては、もともとの競走能力の高さも関与するため、内視鏡検査およびレントゲン検査での喉頭蓋低形成所見のみから、外科的療法の治療効果を推定するのは適当ではない、という警鐘が鳴らされています。
一般的に、喉頭蓋捕捉の罹患馬においては、喉頭蓋の低形成を併発していた場合には、術後に喉頭蓋を再発(Recurrence)したり、捕捉されている披裂喉頭蓋襞が外科的整復されてその伸縮性が減退された結果、軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate)の術後合併症(Post-operative complication)を続発する危険性が高いことが知られています。そして、喉頭蓋低形成の診断に際しては、内視鏡検査よりもレントゲン検査のほうが、喉頭蓋の長さや厚みをより正確に測ることができ、また、披裂軟骨の石灰化(Artenoid cartilage mineralization)の発見や(=披裂軟骨炎の初期症状の場合がある)、喉頭蓋の下方にある軟部組織の異常を確認できる、という利点があります。一方、内視鏡検査では、喉頭蓋の幅や色、潰瘍(Ulceration)の併発などを判定でき、喉頭蓋の形状や、軟口蓋(Soft palate)と喉頭蓋との機能的関係(Functional relationship)を評価できる、という利点が挙げられています。
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