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馬の文献:喉頭蓋捕捉(Ross et al. 1993)

「馬の喉頭蓋捕捉の治療のための内視鏡誘導による経口腔軸性分割」
Ross MW, Gentile DG, Evans LE. Transoral axial division, under endoscopic guidance, for correction of epiglottic entrapment in horses. J Am Vet Med Assoc. 1993; 203(3): 416-420.

この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位手術(Standing surgery)での内視鏡誘導(Endoscopic guidance)を介しての経口腔アプローチ(Transoral surgical approach)による、披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)が行われた20頭の患馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。

この研究の外科的療法では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での右側横臥位(Right lateral recumbency)において、開口器(Mouth speculum)を装着させてから舌を引き出し、手動で軟口蓋(Soft palate)を押し上げ喉頭蓋(Epiglottis)をその下方に移動させてから、口腔内に内視鏡を挿入しました。そして、内視鏡誘導によってステンレス鈎状柳葉刀(Stainless steel hooked bistoury)を捕捉されている披裂喉頭蓋襞組織に引っ掛けて、この組織の軸性分割が施されました。

結果としては、20頭の患馬のうち、術後に競走および運動への復帰(Returned to exercise or racing)を果たした馬は100%(20/20頭)で、喉頭蓋捕捉の再発(Recurrence)が見られた馬は10%(2/20頭)、および軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of the soft palate)が見られた馬は10%(2/20頭)であった事が示されました。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、起立位手術での披裂喉頭蓋襞の経口腔的な軸性分割によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が期待され、競走および運動に復帰できる馬の割合が高いことが示唆されました。

一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する古典的な治療では、喉頭切開術(Laryngotomy)によって、捕捉されている披裂喉頭蓋襞組織を切除する術式が報告されていますが(Speirs. J Eq Med Surg. 1977;1:267)、過剰な組織が切除されることで、術後に軟口蓋背方変位を続発する危険性が高いことが知られています。一方、起立位手術(Standing surgery)によって鈎状柳葉刀またはレーザーを用いて、披裂喉頭蓋襞を軸性分割する術式では(Honnas et al. Vet Surg. 1988;17:246, Tulleners. JAVMA. 1990;196:1971, Tate et al. Vet Surg. 1990;19:356)、組織を切除せず真ん中で切るだけなので、喉頭蓋下部の軟部組織の伸縮性が維持されて、術後に軟口蓋背方変位を起こしにくく、また、全身麻酔を要せず、入院期間や治療費が抑えられるという利点があります。

しかし、患馬の気質(Temperament)が難しく、充分な保定(Adequate restraint)を許容しない場合には、術中に術者や馬自身に危険が及ぶ可能性があるため、全身麻酔の使用を余儀無くされるケースも多々あります。そのような症例に対しては、今回の研究の術式のように、全身麻酔下において経口腔内視鏡で術部を確認しながら、鈎状柳葉刀を使って施術することで、喉頭切開術を介することなく披裂喉頭蓋襞を軸性分割でき、代替的手法(Alternative procedure)として有用な治療法になりうると考察されています。この際には、鈎状柳葉刀に一定の牽引を掛けながら分割することで、軟口蓋の医原性損傷(Iatrogenic damage)(=致死的な怪我になりうる)を予防することが重要であると提唱されています。

この研究では、オス馬よりも牝馬のほうが、サラブレッドよりもスタンダードブレッドのほうが、喉頭蓋捕捉の有病率(Prevalence)が高い傾向が認められましたが、このような性別および品種の違いが、なぜ喉頭蓋捕捉の発症素因(Predisposing factor)になりうるのかに関しては、この論文の考察内では、明確には結論付けられていませんでした。

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