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馬の文献:喉頭蓋捕捉(Greet. 1995)

「経鼻腔鉤状刀を用いた喉頭蓋捕捉の治療経験」
Greet TR. Experiences in treatment of epiglottal entrapment using a hook knife per nasum. Equine Vet J. 1995; 27(2): 122-126.

この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位手術(Standing surgery)での内視鏡誘導(Endoscopic guidance)を介して、経鼻腔鉤状刀(Hook knife per nasum)を用いた披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)、ネオジウムヤグレーザー焼烙(Nd:YAG laser ablation)を用いた軸性分割、または、喉頭形成術(Laryngotomy)を介した喉頭蓋下粘膜切除(Subepiglottal mucosal resection)が行われた38頭の患馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。

結果としては、経鼻腔鉤状刀を用いた治療が選択された29頭の症例のうち、喉頭蓋捕捉の“軽減”(Alleviation)が認められた馬は76%(22/29頭)で、また、経過追跡(Follow-up)ができた25頭のうち、喉頭蓋捕捉の再発(Recurrence)が認められた馬は12%(3/25頭)であったことが示されました。また、これらの症例のうち、レース復帰を果たした馬は14頭で、勝利した馬は四頭であったことが報告されています。対照的に、ネオジウムヤグレーザー焼烙を用いた軸性分割、および、喉頭形成術を介した喉頭蓋下粘膜切除が選択された症例のうち、“治療成功”を示した馬は、いずれも50%であった事が示されました。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、起立位手術での経鼻腔鉤状刀による披裂喉頭蓋襞の軸性分割によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が期待され、競走および運動に復帰できる馬の割合が、比較的に高いことが示唆されました。

この研究では、術前の内視鏡検査において、喉頭蓋低形成(Epiglottic hypoplasia)が認められた三頭では、いずれも治療後に喉頭蓋捕捉を再発しており、喉頭蓋の形態異状によって、術後合併症(Post-operative complications)の危険性が高まるという、過去の知見(Tulleners. JAVMA. 1990;196:1971)を再確認させるデータが示されたと言えます。また、披裂喉頭蓋襞が過剰に切除されてしまうと、術後に軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of the soft palate)を続発しやすくなるという知見もあり(Haynes. Pract LA Surg. 1984:444)、今回の研究でも、喉頭形成術を介しての喉頭蓋下粘膜切除術が応用された二頭において、間欠性(Intermittent)の軟口蓋背方変位の合併症が見られた事が報告されています。

この研究では、五頭の症例において一過性(Transient)の喉頭蓋捕捉が示され、これらの馬では、内視鏡下で何度か嚥下(Repeated deglutition)をさせる事で、数秒間にわたる喉頭蓋捕捉の発現が認められました。このような症例では、捕捉されている披裂喉頭蓋襞の組織に、鉤状刀を引っ掛けることが困難な場合が多く、適切な外科的治療が難しい病態であることが知られています。今回の研究における、一過性喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、鉤状刀で牽引した際にも、捕捉組織が喉頭蓋から抜け落ちるのみで、軸性分割できなかったため、喉頭形成術を介しての、喉頭蓋下粘膜の正中剥切(Axial strip of subepiglottic mucosa)が行われました。

一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する外科的療法では、喉頭形成術を伴わない起立位手術を応用することで、来院症例(Outpatient basis)としての治療が可能になり、治療費や術後の休養期間(Post-operative resting period)を減退できるという利点があります。しかし、患馬の気質(Temperament)が難しく、十分な保定(Restraint)を許容しないケースでは、術者や馬自身に危険が及ぶ可能性も指摘されており、今回の研究でも、術中に馬が飛び上がり、鉤状刀が鼻腔内に刺さってしまうという事故が報告されています。このため、起立位手術での軸性分割の実施に際しては、適切な鎮静剤(Sedation)の投与、および咽頭喉頭部への局所麻酔(Local anesthesia)の塗布を行うことが重要であり、手術の安全性が確証できない場合には、全身麻酔下(Under general anesthesia)での経口腔アプローチによる施術を躊躇するべきではない、という警鐘が鳴らされています。

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