馬の文献:喉頭蓋捕捉(Russell et al. 2007)
文献 - 2020年09月03日 (木)
「27頭の馬の喉頭蓋捕捉に対する野外治療」
Russell T, Wainscott M. Treatment in the field of 27 horses with epiglottic entrapment. Vet Rec. 2007; 161(6): 187-189.
この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、全身麻酔下(Under general anesthesia)での経口腔アプローチ(Transoral approach)を介して、鈎状柳葉刀(Hooked bistoury)を用いた披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)が行われた27頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、27頭の患馬のうち、レース復帰(Returned to racing)を果たした馬は96%(26/27頭)に及び、このうち、半数に当たる13頭では、競走能力の一つの指標とされるハンディキャップ比率(Increased handicap rating)の上昇を示しました。一方、レース復帰できなかった一頭は、持続性の軟口蓋背方変位(Parmanent dorsal displacement of the soft palate)の続発が確認されました。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、全身麻酔下での経口腔アプローチを介した披裂喉頭蓋襞の軸性分割によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が期待され、多くの馬が競走へ復帰して、競走能力の向上(Improvement in racing performance)を達成する馬の割合も、比較的に高いことが示唆されました。
一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する外科的治療では、起立位手術(Standing surgery)による鈎状柳葉刀またはレーザー焼烙(Laser ablation)を用いて、披裂喉頭蓋襞を軸性分割する術式が応用されています(Honnas et al. Vet Surg. 1988;17:246, Tulleners. JAVMA. 1990;196:1971, Tate et al. Vet Surg. 1990;19:356)。この手法では、喉頭切開術(Laryngotomy)が必要ないため、治療費が安価で、休養期間(Resting period)も短縮でき、また、捕捉されている披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)が切除されて、喉頭蓋下組織(Subepiglottic tissue)の伸縮性が妨げられる危険性が少ない(=軟口蓋背方変位を続発しやすい)、という利点が挙げられています。
一方で、起立位手術のための、充分な保定(Adequate restraint)を許容しないような、難しい気質(Temperament)の症例においては、術中に術者や患馬に危険が及ぶ可能性があるため、今回の研究の術式のように、全身麻酔下での経口腔的な術式が有用であると考察されています。同様の手術が応用された過去の文献では、内視鏡下(Under endoscopic view)で柳葉刀の操作を視認することが推奨されていますが、今回の研究では、野外手術(Field surgery)として、術者の手指の感覚のみで盲目的に分割(Blind division)する方法が試みられており、内視鏡を使わなくても、十分に安全な施術が可能であるという治療成績が示されました。しかし、術者の手のサイズが大きいと、十分な潤滑剤(Lubrication)を使用しないと、喉頭蓋まで指先を到達できない場合もあった事が報告されています。
この研究の試験された治療法では、全身麻酔を用いることで、術者の怪我防止につながるだけでなく、舌根部の筋緊張が少ないため、喉頭蓋下組織を十分に手前に引き寄せながら軸性分割できる、という潜在的長所(Potential advantage)も指摘されています。しかし、鼻腔側からではなく、口腔側から罹患部位を操作する際には、喉頭蓋の下方からアプローチする事から、捕捉されている軟部組織が喉頭蓋から抜け落ちて、十分な長さの軸性分割を達成できない危険性もあると提唱されています。このため、手術に使用する鈎状柳葉刀は、十分に鋭利な尖端を持ち、なおかつ、分割の最中に披裂喉頭蓋襞が滑り抜けてしまわないように、指先で堅固に喉頭蓋を保持することが重要である、という考察がなされています。
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この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、全身麻酔下(Under general anesthesia)での経口腔アプローチ(Transoral approach)を介して、鈎状柳葉刀(Hooked bistoury)を用いた披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)が行われた27頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、27頭の患馬のうち、レース復帰(Returned to racing)を果たした馬は96%(26/27頭)に及び、このうち、半数に当たる13頭では、競走能力の一つの指標とされるハンディキャップ比率(Increased handicap rating)の上昇を示しました。一方、レース復帰できなかった一頭は、持続性の軟口蓋背方変位(Parmanent dorsal displacement of the soft palate)の続発が確認されました。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、全身麻酔下での経口腔アプローチを介した披裂喉頭蓋襞の軸性分割によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が期待され、多くの馬が競走へ復帰して、競走能力の向上(Improvement in racing performance)を達成する馬の割合も、比較的に高いことが示唆されました。
一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する外科的治療では、起立位手術(Standing surgery)による鈎状柳葉刀またはレーザー焼烙(Laser ablation)を用いて、披裂喉頭蓋襞を軸性分割する術式が応用されています(Honnas et al. Vet Surg. 1988;17:246, Tulleners. JAVMA. 1990;196:1971, Tate et al. Vet Surg. 1990;19:356)。この手法では、喉頭切開術(Laryngotomy)が必要ないため、治療費が安価で、休養期間(Resting period)も短縮でき、また、捕捉されている披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)が切除されて、喉頭蓋下組織(Subepiglottic tissue)の伸縮性が妨げられる危険性が少ない(=軟口蓋背方変位を続発しやすい)、という利点が挙げられています。
一方で、起立位手術のための、充分な保定(Adequate restraint)を許容しないような、難しい気質(Temperament)の症例においては、術中に術者や患馬に危険が及ぶ可能性があるため、今回の研究の術式のように、全身麻酔下での経口腔的な術式が有用であると考察されています。同様の手術が応用された過去の文献では、内視鏡下(Under endoscopic view)で柳葉刀の操作を視認することが推奨されていますが、今回の研究では、野外手術(Field surgery)として、術者の手指の感覚のみで盲目的に分割(Blind division)する方法が試みられており、内視鏡を使わなくても、十分に安全な施術が可能であるという治療成績が示されました。しかし、術者の手のサイズが大きいと、十分な潤滑剤(Lubrication)を使用しないと、喉頭蓋まで指先を到達できない場合もあった事が報告されています。
この研究の試験された治療法では、全身麻酔を用いることで、術者の怪我防止につながるだけでなく、舌根部の筋緊張が少ないため、喉頭蓋下組織を十分に手前に引き寄せながら軸性分割できる、という潜在的長所(Potential advantage)も指摘されています。しかし、鼻腔側からではなく、口腔側から罹患部位を操作する際には、喉頭蓋の下方からアプローチする事から、捕捉されている軟部組織が喉頭蓋から抜け落ちて、十分な長さの軸性分割を達成できない危険性もあると提唱されています。このため、手術に使用する鈎状柳葉刀は、十分に鋭利な尖端を持ち、なおかつ、分割の最中に披裂喉頭蓋襞が滑り抜けてしまわないように、指先で堅固に喉頭蓋を保持することが重要である、という考察がなされています。
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