馬の文献:喉頭蓋捕捉(Perkins et al. 2007)
文献 - 2020年09月05日 (土)
「15頭の馬における起立位手術での内視鏡誘導による喉頭蓋捕捉の経口腔軸性分割」
Perkins JD, Hughes TK, Brain B. Endoscope-guided, transoral axial division of an entrapping epiglottic fold in fifteen standing horses. Vet Surg. 2007; 36(8): 800-803.
この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、2005~2006年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位手術(Standing surgery)での経口腔アプローチ(Transoral approach)を介して、内視鏡誘導(Endoscope-guidance)による鈎状柳葉刀(Hooked bistoury)を用いた、披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)が試みられた16頭の患馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。
結果としては、16頭の患馬のうち15頭に対して、起立位手術での内視鏡誘導による、喉頭蓋捕捉襞の経口腔軸性分割が、術中合併症(Intra-operative complications)を起こすことなく達成され、この15頭の全症例において、呼吸器雑音の完全な消失(Complete resolution of respiratory noise)と、意図した用途への運動復帰(Returned to intended use)が達成されました。残りの一頭では、極めて深い鎮静(Heavy sedation)にも関わらず、十分な保定(Adequate restraint)および経鼻腔的な内視鏡検査を許容しなかったため、全身麻酔下(Under general anesthesia)での軸性分割手術に切り替えられました。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、起立位手術での経口腔アプローチを介した、内視鏡誘導での披裂喉頭蓋襞の軸性分割によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が期待され、運動および競技復帰を果たす馬の割合が高いことが示唆されました。
一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する外科的治療では、起立位手術(Standing surgery)での経鼻腔アプローチ(Transnasal approach)、または、全身麻酔下での経口腔アプローチによって、鈎状柳葉刀またはレーザー焼烙(Laser ablation)を使用しながら、披裂喉頭蓋襞を軸性分割する術式が応用されています(Honnas et al. Vet Surg. 1988;17:246, Tulleners. JAVMA. 1990;196:1971, Tate et al. Vet Surg. 1990;19:356)。これらの手法では、喉頭切開術(Laryngotomy)が必要ないため休養期間(Resting period)が短縮でき、治療費を安価に抑えられるという利点が挙げられています。そして、今回の研究では、起立位手術であっても、適切な鎮静および保定が実施できるならば、開口器(Mouth speculum)で内視鏡を保護することで、視認しながら経口腔的に軸性分割する術式が、十分に応用可能であることが実証されました。
一般的に、起立位手術での経鼻腔アプローチによって、披裂喉頭蓋襞を軸性分割する場合には、捕捉されている組織を切っている最中に、馬が嚥下(Swallowing)したり暴れたりすると、柳葉刀によって軟口蓋を裂傷(Laceration)させる危険性があります。このような、軟口蓋に対する重度の医原性損傷(Severe iatrogenic damage)は、外科的な整復が難しく(致死的合併症になりうる)、プアパフォーマンスや誤嚥(Aspiration)を引き起こす場合もあります。また、鼻腔を通した内視鏡では、軟口蓋が背方変位した状態では、術部の視認が妨げられる可能性が高いことも知られています。これらの点を考慮して、起立位手術での経鼻腔アプローチは、馬の喉頭蓋捕捉の手術法としては禁忌(Contraindication)である、という提唱もなされています(Epstein. Eq Resp Med and Surg [1st eds]. 2007:459, Stick. Equine surgery [3rd eds]. 2006:566)。
この研究では、患馬に意識がある状態での経口腔アプローチであるため、繰り返し嚥下反射(Swallowing reflux)が起きると、罹患箇所の診断や施術が妨げられた事が報告されています。このため、この術式が応用される場合には、かなり多量の局所麻酔(Local anesthesia)を塗布することで、口腔咽頭部に粘膜感覚(Mucosal sensation of the oropharynx)を十分に取り除いて、頻繁な嚥下を抑制することが必須である、という考察がなされています。また、経口腔アプローチに際しては、口腔側で喉頭蓋を操作するために、手動で軟口蓋を押し上げて、喉頭蓋を軟口蓋の下部に変位させる必要があり、また、その後は、舌を引き出して手術助手が保持しておくことで(Rostral traction on the tongue)、喉頭蓋が軟口蓋の上に戻ってしまうのを防ぐことが重要である、と提唱されています。
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この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、2005~2006年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、起立位手術(Standing surgery)での経口腔アプローチ(Transoral approach)を介して、内視鏡誘導(Endoscope-guidance)による鈎状柳葉刀(Hooked bistoury)を用いた、披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)が試みられた16頭の患馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。
結果としては、16頭の患馬のうち15頭に対して、起立位手術での内視鏡誘導による、喉頭蓋捕捉襞の経口腔軸性分割が、術中合併症(Intra-operative complications)を起こすことなく達成され、この15頭の全症例において、呼吸器雑音の完全な消失(Complete resolution of respiratory noise)と、意図した用途への運動復帰(Returned to intended use)が達成されました。残りの一頭では、極めて深い鎮静(Heavy sedation)にも関わらず、十分な保定(Adequate restraint)および経鼻腔的な内視鏡検査を許容しなかったため、全身麻酔下(Under general anesthesia)での軸性分割手術に切り替えられました。このため、喉頭蓋捕捉の罹患馬に対しては、起立位手術での経口腔アプローチを介した、内視鏡誘導での披裂喉頭蓋襞の軸性分割によって、充分な上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)が期待され、運動および競技復帰を果たす馬の割合が高いことが示唆されました。
一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する外科的治療では、起立位手術(Standing surgery)での経鼻腔アプローチ(Transnasal approach)、または、全身麻酔下での経口腔アプローチによって、鈎状柳葉刀またはレーザー焼烙(Laser ablation)を使用しながら、披裂喉頭蓋襞を軸性分割する術式が応用されています(Honnas et al. Vet Surg. 1988;17:246, Tulleners. JAVMA. 1990;196:1971, Tate et al. Vet Surg. 1990;19:356)。これらの手法では、喉頭切開術(Laryngotomy)が必要ないため休養期間(Resting period)が短縮でき、治療費を安価に抑えられるという利点が挙げられています。そして、今回の研究では、起立位手術であっても、適切な鎮静および保定が実施できるならば、開口器(Mouth speculum)で内視鏡を保護することで、視認しながら経口腔的に軸性分割する術式が、十分に応用可能であることが実証されました。
一般的に、起立位手術での経鼻腔アプローチによって、披裂喉頭蓋襞を軸性分割する場合には、捕捉されている組織を切っている最中に、馬が嚥下(Swallowing)したり暴れたりすると、柳葉刀によって軟口蓋を裂傷(Laceration)させる危険性があります。このような、軟口蓋に対する重度の医原性損傷(Severe iatrogenic damage)は、外科的な整復が難しく(致死的合併症になりうる)、プアパフォーマンスや誤嚥(Aspiration)を引き起こす場合もあります。また、鼻腔を通した内視鏡では、軟口蓋が背方変位した状態では、術部の視認が妨げられる可能性が高いことも知られています。これらの点を考慮して、起立位手術での経鼻腔アプローチは、馬の喉頭蓋捕捉の手術法としては禁忌(Contraindication)である、という提唱もなされています(Epstein. Eq Resp Med and Surg [1st eds]. 2007:459, Stick. Equine surgery [3rd eds]. 2006:566)。
この研究では、患馬に意識がある状態での経口腔アプローチであるため、繰り返し嚥下反射(Swallowing reflux)が起きると、罹患箇所の診断や施術が妨げられた事が報告されています。このため、この術式が応用される場合には、かなり多量の局所麻酔(Local anesthesia)を塗布することで、口腔咽頭部に粘膜感覚(Mucosal sensation of the oropharynx)を十分に取り除いて、頻繁な嚥下を抑制することが必須である、という考察がなされています。また、経口腔アプローチに際しては、口腔側で喉頭蓋を操作するために、手動で軟口蓋を押し上げて、喉頭蓋を軟口蓋の下部に変位させる必要があり、また、その後は、舌を引き出して手術助手が保持しておくことで(Rostral traction on the tongue)、喉頭蓋が軟口蓋の上に戻ってしまうのを防ぐことが重要である、と提唱されています。
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