馬の文献:喉頭蓋捕捉(Lacourt et al. 2011)
文献 - 2020年09月06日 (日)
「遮蔽式の鉤状柳葉刀を使用した起立位手術での経口腔軸性分割による馬の喉頭蓋捕捉の治療」
Lacourt M, Marcoux M. Treatment of epiglottic entrapment by transnasal axial division in standing sedated horses using a shielded hook bistoury. Vet Surg. 2011; 40(3): 299-304.
この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、1996~2007年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下された八頭の馬に対して、起立位手術(Standing surgery)での経鼻腔アプローチ(Transnasal approach)および内視鏡誘導(Endoscope-guidance)を介して、遮蔽式の鉤状柳葉刀(Shielded hook bistoury)を使用した、披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)が行われました。
この研究で開発された遮蔽式の鉤状柳葉刀には、開閉式のカバーが付いており、捕捉されている組織を器具の尖端で掴む時以外は、このカバーで鋭利な刃先を覆う仕組みになっており、軸性分割のため捕捉されている組織を切っていく過程、および、器具を鼻腔へと到達させたり引き戻す過程において、周囲組織を傷付けない工夫がなされています。この結果、八頭の症例に対する手術では、術中合併症(Intra-operative complications)を起こすことなく、披裂喉頭蓋襞の軸性分割が達成された事が報告されています。
一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する外科的療法では、来院症例(Outpatient basis)としての治療が可能な、起立位手術による施術が有効であり、これには、経鼻腔および経口腔(Transoral)の二種類のアプローチが応用されています。このうち、経口腔アプローチでは、嚥下反射(Swallowing reflux)を起こし易く、捕捉組織から柳葉刀が抜け落ち易い(喉頭蓋の下方からアプローチしているため)という欠点があります。ただ、経口腔アプローチのほうが、より腹側部の披裂喉頭蓋襞まで分割線を伸展できる(=より長く切ることが出来る)、という長所も指摘されています(Ross et al. JAVMA. 1996;203:416)。
一方、経鼻腔アプローチでは、捕捉組織を切っている最中に、馬が嚥下したり暴れたりすると、柳葉刀によって軟口蓋(Soft palate)に裂傷(Laceration)を起こす危険があり(=致死的疾患になりうる)、その実施は禁忌(Contraindication)であるという提唱もなされています(Epstein. Eq Resp Med and Surg [1st eds]. 2007:459, Stick. Equine surgery [3rd eds]. 2006:566)。しかし、今回の研究で試験された遮蔽式の鉤状柳葉刀を用いて、軟口蓋を重度の医原性損傷(Severe iatrogenic damage)から保護できることが示されており、経鼻腔アプローチによる起立位手術を見直すことが出来る、という考察がなされています。
この研究では、経過追跡(Follow-up)のできた六頭のうち、治療成功と判断された馬は83%(5/6頭)で、レース復帰(Returned to race)を果たした馬は67%(4/6頭)でした。また、レース復帰できなかった一頭においては、軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of the soft palate)の術後合併症(Post-operative complications)が認められました。今回の研究では、サンプル数が不十分であったものの、これまでの外科的治療(通常型の鉤状柳葉刀やレーザー焼烙を用いた手法)と同程度の治療効果が期待できる、という考察がなされています。
この研究で開発および試験された遮蔽式の鉤状柳葉刀は、比較的に安価で製作でき、レーザー機器を導入するのに比べれば、設備投資費(Investment in equipment)を抑えられると考察されています。また、外科手技的にも、遮蔽式の鉤状柳葉刀の操作のほうが、レーザー手術に比べて、手術手技の体得が容易で、さらに、通常の鉤状柳葉刀に比較した場合にも、周囲の軟部組織を損傷する危険性が少ないため、捕捉組織を切る速さをそれほど気にする必要がない、という利点も挙げられています。
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この研究論文では、馬の喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)に対する有用な外科的療法を検討するため、1996~2007年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉頭蓋捕捉の確定診断(Definitive diagnosis)が下された八頭の馬に対して、起立位手術(Standing surgery)での経鼻腔アプローチ(Transnasal approach)および内視鏡誘導(Endoscope-guidance)を介して、遮蔽式の鉤状柳葉刀(Shielded hook bistoury)を使用した、披裂喉頭蓋襞(Aryepiglottic fold)の軸性分割(Axial division)が行われました。
この研究で開発された遮蔽式の鉤状柳葉刀には、開閉式のカバーが付いており、捕捉されている組織を器具の尖端で掴む時以外は、このカバーで鋭利な刃先を覆う仕組みになっており、軸性分割のため捕捉されている組織を切っていく過程、および、器具を鼻腔へと到達させたり引き戻す過程において、周囲組織を傷付けない工夫がなされています。この結果、八頭の症例に対する手術では、術中合併症(Intra-operative complications)を起こすことなく、披裂喉頭蓋襞の軸性分割が達成された事が報告されています。
一般的に、馬の喉頭蓋捕捉に対する外科的療法では、来院症例(Outpatient basis)としての治療が可能な、起立位手術による施術が有効であり、これには、経鼻腔および経口腔(Transoral)の二種類のアプローチが応用されています。このうち、経口腔アプローチでは、嚥下反射(Swallowing reflux)を起こし易く、捕捉組織から柳葉刀が抜け落ち易い(喉頭蓋の下方からアプローチしているため)という欠点があります。ただ、経口腔アプローチのほうが、より腹側部の披裂喉頭蓋襞まで分割線を伸展できる(=より長く切ることが出来る)、という長所も指摘されています(Ross et al. JAVMA. 1996;203:416)。
一方、経鼻腔アプローチでは、捕捉組織を切っている最中に、馬が嚥下したり暴れたりすると、柳葉刀によって軟口蓋(Soft palate)に裂傷(Laceration)を起こす危険があり(=致死的疾患になりうる)、その実施は禁忌(Contraindication)であるという提唱もなされています(Epstein. Eq Resp Med and Surg [1st eds]. 2007:459, Stick. Equine surgery [3rd eds]. 2006:566)。しかし、今回の研究で試験された遮蔽式の鉤状柳葉刀を用いて、軟口蓋を重度の医原性損傷(Severe iatrogenic damage)から保護できることが示されており、経鼻腔アプローチによる起立位手術を見直すことが出来る、という考察がなされています。
この研究では、経過追跡(Follow-up)のできた六頭のうち、治療成功と判断された馬は83%(5/6頭)で、レース復帰(Returned to race)を果たした馬は67%(4/6頭)でした。また、レース復帰できなかった一頭においては、軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of the soft palate)の術後合併症(Post-operative complications)が認められました。今回の研究では、サンプル数が不十分であったものの、これまでの外科的治療(通常型の鉤状柳葉刀やレーザー焼烙を用いた手法)と同程度の治療効果が期待できる、という考察がなされています。
この研究で開発および試験された遮蔽式の鉤状柳葉刀は、比較的に安価で製作でき、レーザー機器を導入するのに比べれば、設備投資費(Investment in equipment)を抑えられると考察されています。また、外科手技的にも、遮蔽式の鉤状柳葉刀の操作のほうが、レーザー手術に比べて、手術手技の体得が容易で、さらに、通常の鉤状柳葉刀に比較した場合にも、周囲の軟部組織を損傷する危険性が少ないため、捕捉組織を切る速さをそれほど気にする必要がない、という利点も挙げられています。
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