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馬の文献:喉嚢真菌症(Caron et al. 1987)

「喉嚢真菌症による鼻出血の予防のためのバルーンカテーテルによる動脈遮閉術:1982~1985年の13症例」
Caron JP, Fretz PB, Bailey JV, Barber SM, Hurtig MB. Balloon-tipped catheter arterial occlusion for prevention of hemorrhage caused by guttural pouch mycosis: 13 cases (1982-1985). J Am Vet Med Assoc. 1987; 191(3): 345-349.

この研究論文では、喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)に起因する鼻出血(Epistaxis)の有用な予防法を検討するため、1982~1985年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉嚢真菌症の診断が下され、バルーンカテーテル(Balloon-tipped catheter)による動脈遮閉術(arterial occlusion)が応用された13頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。この研究の術式では、13頭のうち全頭に対して内頚動脈(Internal carotid artery)が遮閉されたのに加えて、五頭では外頚動脈(External carotid artery)の遮閉、四頭では舌顔面動脈(Linguofacial artery)の遮閉、二頭では後頭動脈(Occipital artery)の遮閉が併せて実施されました。

結果としては、13頭の患馬の全てにおいて、致死的出血(Fatal hemorrhage)の予防が達成されました。また、内視鏡検査による長期経過追跡(Long-term follow-up)ができた八頭の全てにおいて、真菌病巣が完全に消失している所見が確認されました(早い馬では術後の五週間以内に)。また、切開創感染(Incisional infection)が三頭、カテーテル除去時の損傷が一頭において生じた他は、目立った術後合併症(Post-operative complication)は認められませんでした。このため、喉嚢真菌症の罹患馬に対しては、バルーンカテーテルによる複数個所の動脈遮閉法によって、充分な罹患部位の治癒が達成され、良好な予後が期待できることが示唆されました。

この研究では、それぞれの患馬の内視鏡所見に基づいて、真菌病巣(Fungal lesion)の発生部位を特定することで、必要であれば複数個所の動脈遮閉術が実施されました。このため、真菌感染が、喉嚢内の広範囲に及んでいる場合には、好発部位である内頚動脈以外の動脈に対しても、血流遮断を施すことが重要であると考察されています。また、遮閉箇所が増えることによって、術後に有害作用(Adverse effect)が生じるというデータは示されておらず、真菌の浸潤度合いが不明瞭な場合(喉嚢内に血餅があって、内視鏡視野が確保しにくかった場合など)には、疑わしい箇所の動脈も積極的に遮閉するべきである、という提唱がなされています。

この研究では、13頭の患馬のうち、四頭における六ヶ所のカテーテルの除去が行われましたが、このうち一頭は、この再手術の際にカテーテルの破損(Breakage)が二度にわたって起こりました。これらの四頭では、皮膚切開創の感染がカテーテルの残存に起因すると推測されたため、カテーテル除去が選択されましたが、一般的に言えば、合併症を伴わない症例(Uncomplicated cases)においては、カテーテルの外科的除去(Surgical removal)は必ずしも必要ではない、という考察がなされています。

この研究では、13頭の症例のうち一頭において、術後の一ヵ月後に上顎動脈(Maxillary artery)からの出血が続発しており、不注意に外頚動脈枝が遮閉(Inadvertent occlusion of external carotid artery branches)されていた可能性が示唆されました。これを検討するため、屍体頭部(Cadaver head)を用いて手術を再現したところ、半数の検体においては、上顎動脈へ挿入されたカテーテルが、翼管(Alar canal)を通って眼球(Orbit)のほうへ伸展しており、大脳動脈輪(Cerebral arterial circle)(=いわゆるウィリス動脈輪:Circle of Willis)からの血液逆流(Retrograde blood flow)は予防されていました(上顎動脈分岐部よりも心臓側にある動脈枝は、ウィリス動脈輪とは連絡していないため)。一方、残りの半数の検体では、カテーテルが外頚動脈の起始部(Origin)に挿入されず、浅部側頭動脈(Superficial temporal artery)に迷入してしまったため、そのまま伸展すると横行顔面動脈(Transverse facial artery)に達して、下顎垂直枝の尾側縁(Caudal edge of vertical ramus of mandible)の皮下に触知されていました。この場合には、ウィリス動脈輪からの血流は遮閉できないため、上述の一症例においても、これが原因で術後の出血に至った可能性があると考察されています。そして、このような微妙なカテーテル操作を正確に行うためには、蛍光透視装置(Fluoroscopy)による術中監視(Intra-operative monitoring)を要する、という提唱がなされています。

一般的に、馬の喉嚢真菌症に対しては、抗真菌剤(Antifungal agents)による治療は難しいことが知られています。その理由としては、例えばAmphotericin-Bを考えてみると、局所投与(Local administration)においては(内視鏡を介した薬剤塗布など)、真菌病巣の表面を壊死組織(Necrotic tissue)が覆っている場合が多いため、充分な抗真菌剤が病変中心まで作用できないと推測され、また、全身性投与(Systemic administration)においては、病巣部への薬剤到達の度合いは不明瞭で、治療費も高額になり、神経毒性(Neurotoxicity)や脈管刺激作用(Vascular irritant effect)による静脈炎(Phlebitis)の続発も問題になると考えられています。また、他のタイプの抗真菌剤(Natamycin, Thiabendazole, Ketoconazole, etc)も、喉嚢真菌症に対する治療効果は証明されておらず、病態悪化した場合の致死率(Mortality rate)の高さを考えると(三割以上の馬が重篤な鼻出血で斃死する)、積極的な外科的療法を選択することが強く推奨されると考察されています。

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