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馬の文献:喉嚢真菌症(Freeman et al. 1989)

「馬の喉嚢真菌症における出血予防のための外頚動脈および上顎動脈の遮閉術」
Freeman DE, Ross MW, Donawick WJ, Hamir AN. Occlusion of the external carotid and maxillary arteries in the horse to prevent hemorrhage from guttural pouch mycosis. Vet Surg. 1989; 18(1): 39-47.

この研究論文では、喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)に起因する鼻出血(Epistaxis)の有用な予防法を検討するため、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉嚢真菌症の診断が下され、バルーンカテーテル(Balloon-tipped catheter)による外頚動脈(External carotid artery)および上顎動脈(Maxillary artery)の遮閉術(Occlusion)が行われた九頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

この研究では、三種類の異なった術式が応用されています。まず、三頭の患馬では、喉嚢の床側(Floor of guttural pouch)から外頚動脈へと盲目的に進展(Blindly advanced)させたバルーンカテーテルによって、遮閉術が施されました。また、他の一頭では、浅部側頭動脈(Superficial temporal artery)へと挿入したバルーンカテーテルによって一時的に遮閉することで、喉嚢の床側から挿入したバルーンカテーテルが、容易に外頚動脈へと進展できる手法を介して、遮閉術が施されました。そして、他の五頭では、一つ目のバルーンカテーテルによって、外頚動脈を近位側から遮閉した後、口蓋主動脈(Major palatine artery)から挿入した二つ目のバルーンカテーテルによって、上顎動脈の遮閉術が施されました。

結果としては、九頭の患馬のうち八頭においては、致死的な出血(Fatal hemorrhage)の続発が完全に予防されましたが、残りの一頭においては、術後の11日目に重篤な鼻出血(Profuse epistaxis)を呈して安楽死(Euthanasia)となりました。この一頭では、一本のバルーンカテーテルのみを外頚動脈へと進展させて、動脈遮閉する術式が応用されていました。このため、喉嚢真菌症の罹患馬において、外頚動脈および上顎動脈への真菌病巣の波及(Spreading of fungal lesion)が見られた場合には、必ず二本のバルーンカテーテルを用いて、病巣部位の両側を動脈遮閉することで、血液逆流(Retrograde blood circulation)による出血の予防に努めることが重要であると考察されています。

この研究では、三つ目の術式を応用することで、尾側翼孔よりも吻側にある流入路からの逆流(Retrograde flow from channels rostral to the caudal alar foramen)を完全に予防できるものの、下部歯槽動脈(Inferior alveolar artery)からの血液逆流は起こりうると推測されています。しかし、上顎動脈における血栓の範囲および成熟度(Extent and maturity of thrombosis in the maxillary artery)を検討した結果、下部歯槽動脈からの血液流入によって、血栓形成(Thrombus formation)が妨げられる可能性は非常に低い、という考察がなされています。また、この三つ目の術式では、皮膚から浅い箇所にある動脈を介してカテーテルを挿入するため、深部組織の切開(Dissection of deep tissue)を要しないという長所が挙げられていますが、口蓋主動脈の周辺部における術後細菌感染(Post-operative bacterial infection)を併発する危険性がある、という短所も指摘されています。

一般的に、外頚動脈の遮閉術では、盲目(Blindness)の合併症を呈する危険性が高いことが知られており(Smith and Barber. Can Vet J. 1984;25:239)、この研究で試みられた手術法のうち、特に三つ目の術式では、上顎動脈から外眼球動脈(External ophthalmic artery)への血流を遮断するため、眼組織への主要な血液供給路(Major blood supply)が阻害される事が指摘されています。しかし、この後には、大脳動脈環(Cerebral arterial circle)、内眼球動脈(Internal ophthalmic artery)、内篩骨動脈(Internal ethmoidal artery)、吻側連絡動脈(Rostral communicating artery)などからの側副血行路(Collateral blood flow)が形成されると考えられています(Nanda. Anatomy of Domestic Animals, 5th eds. 1975:578)。一方で、術前には馬主に対して盲目を起こす危険性を説明して、治療同意を取っておくべきである、という提唱もなされています。

一般的に、喉嚢真菌症の罹患馬における内視鏡検査では、喉嚢内の血液貯留(Blood accumulation)や血餅によって、罹患している動脈の正確な箇所が確定しにくい場合も多いことが知られています。この場合には、術後に脈管造影検査(Angiogram)を行うことも可能ですが、高価な検査費や全身麻酔(General anesthesia)を要することから、実際の馬の症例に対しては、あまり現実的ではありません。このため、真菌病巣の拡散度合いが不明瞭な症例においては、外頚動脈、内頚動脈、上顎動脈の全てを、アグレッシブに動脈遮閉することが推奨されています(出血の可能性のある動脈を残しておくほうが、危険性は大きいため)。

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