馬の文献:喉嚢真菌症(Freeman et al. 1993)
文献 - 2020年10月03日 (土)
「内頚動脈の分枝異常が原因でバルーンカテーテルによる動脈遮閉が阻害された馬の一症例」
Freeman DE, Staller GS, Maxson AD, Sweeney CR. Unusual internal carotid artery branching that prevented arterial occlusion with a balloon-tipped catheter in a horse. Vet Surg. 1993; 22(6): 531-534.
この研究論文では、喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)に起因する鼻出血(Epistaxis)の予防のための、バルーンカテーテル(Balloon-tipped catheter)による動脈遮閉術(Arterial occlusion)において、内頚動脈(Internal carotid artery)の分枝異常(Unusual branching)が原因で、重篤な術後合併症(Post-operative complication)を生じた馬の一症例が報告されています。
患馬は、五歳齢のサラブレッド牝馬で、三日間にわたる自発性鼻出血(Spontaneous epistaxis)の病歴で来院し、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉嚢真菌症の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、致死的出血(Fatal hemorrhage)の予防のため、バルーンカテーテルを用いた内頚動脈遮閉術による治療が選択されました。手術では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、内頚動脈へと挿入されたカテーテル先端を、喉嚢内の内視鏡で確認しながら、動脈切開術(Arteriotomy)の箇所から17cmの位置で膨らませる事で、内頚動脈が遮閉され、カテーテル挿入部から近位側での動脈結紮(Arterial ligation)が施されました。
しかし患馬は、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)の際に、鈍重かつ非反応性(Dull and unresponsive)を示し、重篤な鼻出血(Profuse epistaxis)を呈したため、再び全身麻酔が導入されました。再手術では、バルーンカテーテルは膨らんだままで外れていない事が確認され、輸血(Blood transfusion)が実施されたものの、喉嚢内に血液が貯留(Blood accumulation)して、精密な検査が出来ず、出血量も増加したことから、残念ながら安楽死(Euthanasia)が選択されました。剖検(Necropsy)においては、内頚動脈に挿入されたと思われたバルーンカテーテルは、この箇所に形成されていた異常分枝(Aberrant branch)を通って、喉嚢ではなく、破裂孔(Foramen lacerum)の方向に進展しており、内頚動脈自体は、この異常分枝の吻側から分岐していました(上図の左側)。そして、膨らんだカテーテルの先端は、異常分枝と脳底動脈(Basilar artery)の連絡部に達していました。
このため、この症例では、異常分枝が存在していたため、不適切な箇所でバルーンカテーテルが膨らみ、内頚動脈を遮閉できなかっただけでなく、脳底動脈が誤って閉塞されてしまい、内頚動脈への血流量を逆に増加させる結果につながり、手術直後における致死的出血に至った、という考察がなされています。そして、このような異常分枝が、放射線透過装置(Fluoroscopy)や造影レントゲン検査(Contrast radiography)などによる、術中診断画像(Intra-operative diagnostic imaging)によって確認された場合には、異常分枝をまず結紮してから、本来の内頚動脈のほうへバルーンカテーテルを進展させ膨らませる事で、適切な箇所での動脈遮閉を施す必要があると提唱されています(下図の左側)。
他の文献では、造影レントゲン検査によって、内頚動脈の二分枝(Bifurcation)が確認された馬は、14%(5/37頭)に上っており(Colles and Cook. Vet Rec. 1983;113:483)、内頚動脈の遮閉術に際して、異常分枝の存在を疑うことの重要性を示唆するデータが報告されたと言えます。これらの異常分枝は、頚部脳底動脈(Caroticobasilar artery)の変形したものである可能性が指摘されており、周辺組織を出来るだけ広く切開して、内頚動脈の走行や、異常の分枝が無いことを視認することで、今回のような手術ミスを避けられると提唱されています。また、通常の内頚動脈遮閉術では、13~15cmの距離までバルーンカテーテルを押し込んだ時点で抵抗が生じる(カテーテル先端がS字状湾曲部に達するため)のに対して、今回の症例では、17cmの位置まで抵抗なくカテーテルを推し進められた事から、このようなカテーテルの進展具合の違いによって、異常分枝の存在を疑えるケースもありうる、という考察もなされています。
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この研究論文では、喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)に起因する鼻出血(Epistaxis)の予防のための、バルーンカテーテル(Balloon-tipped catheter)による動脈遮閉術(Arterial occlusion)において、内頚動脈(Internal carotid artery)の分枝異常(Unusual branching)が原因で、重篤な術後合併症(Post-operative complication)を生じた馬の一症例が報告されています。
患馬は、五歳齢のサラブレッド牝馬で、三日間にわたる自発性鼻出血(Spontaneous epistaxis)の病歴で来院し、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉嚢真菌症の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、致死的出血(Fatal hemorrhage)の予防のため、バルーンカテーテルを用いた内頚動脈遮閉術による治療が選択されました。手術では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、内頚動脈へと挿入されたカテーテル先端を、喉嚢内の内視鏡で確認しながら、動脈切開術(Arteriotomy)の箇所から17cmの位置で膨らませる事で、内頚動脈が遮閉され、カテーテル挿入部から近位側での動脈結紮(Arterial ligation)が施されました。
しかし患馬は、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)の際に、鈍重かつ非反応性(Dull and unresponsive)を示し、重篤な鼻出血(Profuse epistaxis)を呈したため、再び全身麻酔が導入されました。再手術では、バルーンカテーテルは膨らんだままで外れていない事が確認され、輸血(Blood transfusion)が実施されたものの、喉嚢内に血液が貯留(Blood accumulation)して、精密な検査が出来ず、出血量も増加したことから、残念ながら安楽死(Euthanasia)が選択されました。剖検(Necropsy)においては、内頚動脈に挿入されたと思われたバルーンカテーテルは、この箇所に形成されていた異常分枝(Aberrant branch)を通って、喉嚢ではなく、破裂孔(Foramen lacerum)の方向に進展しており、内頚動脈自体は、この異常分枝の吻側から分岐していました(上図の左側)。そして、膨らんだカテーテルの先端は、異常分枝と脳底動脈(Basilar artery)の連絡部に達していました。
このため、この症例では、異常分枝が存在していたため、不適切な箇所でバルーンカテーテルが膨らみ、内頚動脈を遮閉できなかっただけでなく、脳底動脈が誤って閉塞されてしまい、内頚動脈への血流量を逆に増加させる結果につながり、手術直後における致死的出血に至った、という考察がなされています。そして、このような異常分枝が、放射線透過装置(Fluoroscopy)や造影レントゲン検査(Contrast radiography)などによる、術中診断画像(Intra-operative diagnostic imaging)によって確認された場合には、異常分枝をまず結紮してから、本来の内頚動脈のほうへバルーンカテーテルを進展させ膨らませる事で、適切な箇所での動脈遮閉を施す必要があると提唱されています(下図の左側)。
他の文献では、造影レントゲン検査によって、内頚動脈の二分枝(Bifurcation)が確認された馬は、14%(5/37頭)に上っており(Colles and Cook. Vet Rec. 1983;113:483)、内頚動脈の遮閉術に際して、異常分枝の存在を疑うことの重要性を示唆するデータが報告されたと言えます。これらの異常分枝は、頚部脳底動脈(Caroticobasilar artery)の変形したものである可能性が指摘されており、周辺組織を出来るだけ広く切開して、内頚動脈の走行や、異常の分枝が無いことを視認することで、今回のような手術ミスを避けられると提唱されています。また、通常の内頚動脈遮閉術では、13~15cmの距離までバルーンカテーテルを押し込んだ時点で抵抗が生じる(カテーテル先端がS字状湾曲部に達するため)のに対して、今回の症例では、17cmの位置まで抵抗なくカテーテルを推し進められた事から、このようなカテーテルの進展具合の違いによって、異常分枝の存在を疑えるケースもありうる、という考察もなされています。
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