馬の文献:喉嚢真菌症(Bacon-Miller et al. 1998)
文献 - 2020年10月08日 (木)
「喉嚢真菌症に対するバルーンカテーテル治療において大脳動脈の解剖学的異常に起因する合併症を生じた馬の一症例」
Bacon-Miller C, Wilson DA, Martin DD, Pace LW, Constantinescu GM. Complications of balloon catheterization associated with aberrant cerebral arterial anatomy in a horse with guttural pouch mycosis. Vet Surg. 1998; 27(5): 450-453.
この研究論文では、喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)に対するバルーンカテーテル治療(Balloon catheterization)において、大脳動脈の解剖学的異常(Aberrant cerebral arterial anatomy)に起因する合併症(Complications)を生じた馬の一症例が報告されています。
患馬は、三歳齢のクォーターホース去勢馬(Gelding)で、一ヶ月間にわたる間欠性鼻出血(Intermittent epistaxis)の病歴で来院し、内視鏡検査(Endoscopy)で真菌病巣を視認することで、喉嚢真菌症の確定診断(Definitive diagnosis)が下されました。治療としては、致死的出血(Fatal hemorrhage)を予防するため、バルーンカテーテル(Balloon-tipped catheter)による内頚動脈遮閉術(Occlusion of internal carotid artery)が選択されました。
手術では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、総頚動脈(Common carotid artery)からの内頚動脈起始部を結紮(Ligation)して、その下流部に設けた動脈切開術(Arteriotomy)からバルーンカテーテルが挿入されました。しかし、このカテーテルは、10cm以上進展させることが出来ず、その時点で麻酔下の患馬が無呼吸状態(Apnetic)になったため、機械的補助呼吸(Mechanical ventilation)が行われ、カテーテルを3~4cm引き戻し、再び推し進めた箇所でバルーンが膨らまされました。
患馬は、自発呼吸(Spontaneous ventilation)を取り戻したものの、ビオー呼吸(Biot’s breathing)(無呼吸状態から1~2回の深い呼吸を繰り返す)のパターンを示し、眼瞼反射および角膜反射(Palpebral/Corneal responses)は消失していました。覚醒室(Recovery stall)に移動させた後は、ドキサプラムとプレドニゾロンが投与されましたが、起立しようとする仕草は弱々しく不協調的(Attempts to raise were feeble and uncoordinated)で、瞳孔反射および疼痛反射(Pupillary and pain responses)は徐々に損失していきました。そして、肺水腫(Pulmonary edema)を示す血様泡沫(Blood-tinged froth)を鼻孔から排出し、手術から一時間後に斃死しました。
剖検(Necropsy)では、罹患側の後頭動脈(Occipital artery)は見当たらず、内頚動脈(もしくは、そうと思われた動脈)は異常分枝(Aberrant branch)となって、正常よりもやや内側方向(More medial course of the internal carotid artery)へと走行しており、バルーンカテーテルの先端は、脳底動脈(Basilar artery)と尾側大脳動脈(Caudal cerebellar artery)の連結部位まで達していました。罹患側の内頚動脈は、S字状湾曲(Sigmoid flexures)は認められず、舌下管(Hypoglossal canal)から頭蓋(Cranium)へと進入していました。このため、今回の症例では、異常分枝の存在に起因して、誤った箇所にバルーンカテーテルが作用された結果、脳組織への血流障害および脳浮腫(Cerebral edema)を引き起こして、重篤な神経症状(Severe neurologic signs)を呈したものと推測されました。
この研究では、手術の際の切開時において、内頚動脈の頭側部から起始しているハズの後頭動脈は見当たりませんでしたが、内頚動脈(もしくは、そうと思われた動脈)の中をカテーテルが通過していくのを内視鏡下で観察した後で、バルーンが膨らまされました。このため、術中の内視鏡所見は、異常分枝の有無を見極める指標としては信頼性が低いことが示唆され、十分な広さの軟部組織切開(Adequate soft tissue dissection)を施したり、動脈造影レントゲン検査(Angiogram)を併用することで、内頚動脈の走行を視認することの重要性を、再確認させるデータが示されたと言えます。また、馬によっては、内頚動脈の第二S字状湾曲部(second curve of the sigmoid)に起始した小さな分枝が、脳底動脈と連結している解剖学的異常もある事から(Freeman et al. Vet Surg. 1993;22:531)、内頚動脈の異常分枝の存在を完全に除外診断するためには、蛍光透視装置(Fluoroscopy)などによる術中モニタリングも有用であると考察されています。
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この研究論文では、喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)に対するバルーンカテーテル治療(Balloon catheterization)において、大脳動脈の解剖学的異常(Aberrant cerebral arterial anatomy)に起因する合併症(Complications)を生じた馬の一症例が報告されています。
患馬は、三歳齢のクォーターホース去勢馬(Gelding)で、一ヶ月間にわたる間欠性鼻出血(Intermittent epistaxis)の病歴で来院し、内視鏡検査(Endoscopy)で真菌病巣を視認することで、喉嚢真菌症の確定診断(Definitive diagnosis)が下されました。治療としては、致死的出血(Fatal hemorrhage)を予防するため、バルーンカテーテル(Balloon-tipped catheter)による内頚動脈遮閉術(Occlusion of internal carotid artery)が選択されました。
手術では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、総頚動脈(Common carotid artery)からの内頚動脈起始部を結紮(Ligation)して、その下流部に設けた動脈切開術(Arteriotomy)からバルーンカテーテルが挿入されました。しかし、このカテーテルは、10cm以上進展させることが出来ず、その時点で麻酔下の患馬が無呼吸状態(Apnetic)になったため、機械的補助呼吸(Mechanical ventilation)が行われ、カテーテルを3~4cm引き戻し、再び推し進めた箇所でバルーンが膨らまされました。
患馬は、自発呼吸(Spontaneous ventilation)を取り戻したものの、ビオー呼吸(Biot’s breathing)(無呼吸状態から1~2回の深い呼吸を繰り返す)のパターンを示し、眼瞼反射および角膜反射(Palpebral/Corneal responses)は消失していました。覚醒室(Recovery stall)に移動させた後は、ドキサプラムとプレドニゾロンが投与されましたが、起立しようとする仕草は弱々しく不協調的(Attempts to raise were feeble and uncoordinated)で、瞳孔反射および疼痛反射(Pupillary and pain responses)は徐々に損失していきました。そして、肺水腫(Pulmonary edema)を示す血様泡沫(Blood-tinged froth)を鼻孔から排出し、手術から一時間後に斃死しました。
剖検(Necropsy)では、罹患側の後頭動脈(Occipital artery)は見当たらず、内頚動脈(もしくは、そうと思われた動脈)は異常分枝(Aberrant branch)となって、正常よりもやや内側方向(More medial course of the internal carotid artery)へと走行しており、バルーンカテーテルの先端は、脳底動脈(Basilar artery)と尾側大脳動脈(Caudal cerebellar artery)の連結部位まで達していました。罹患側の内頚動脈は、S字状湾曲(Sigmoid flexures)は認められず、舌下管(Hypoglossal canal)から頭蓋(Cranium)へと進入していました。このため、今回の症例では、異常分枝の存在に起因して、誤った箇所にバルーンカテーテルが作用された結果、脳組織への血流障害および脳浮腫(Cerebral edema)を引き起こして、重篤な神経症状(Severe neurologic signs)を呈したものと推測されました。
この研究では、手術の際の切開時において、内頚動脈の頭側部から起始しているハズの後頭動脈は見当たりませんでしたが、内頚動脈(もしくは、そうと思われた動脈)の中をカテーテルが通過していくのを内視鏡下で観察した後で、バルーンが膨らまされました。このため、術中の内視鏡所見は、異常分枝の有無を見極める指標としては信頼性が低いことが示唆され、十分な広さの軟部組織切開(Adequate soft tissue dissection)を施したり、動脈造影レントゲン検査(Angiogram)を併用することで、内頚動脈の走行を視認することの重要性を、再確認させるデータが示されたと言えます。また、馬によっては、内頚動脈の第二S字状湾曲部(second curve of the sigmoid)に起始した小さな分枝が、脳底動脈と連結している解剖学的異常もある事から(Freeman et al. Vet Surg. 1993;22:531)、内頚動脈の異常分枝の存在を完全に除外診断するためには、蛍光透視装置(Fluoroscopy)などによる術中モニタリングも有用であると考察されています。
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