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馬の文献:喉嚢真菌症(Leveille et al. 2000)

「馬の喉嚢真菌症に起因する出血を予防するための内頚動脈、外頚動脈、上顎動脈の経動脈コイル塞栓療法」
Leveille R, Hardy J, Robertson JT, Willis AM, Beard WL, Weisbrode SE, Lepage OM. Transarterial coil embolization of the internal and external carotid and maxillary arteries for prevention of hemorrhage from guttural pouch mycosis in horses. Vet Surg. 2000; 29(5): 389-397.

この研究論文では、喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)に起因する鼻出血(Epistaxis)の有用な予防法を検討するため、十頭の健常な実験馬、および、内視鏡検査(Endoscopy)によって喉嚢真菌症の確定診断(Definitive diagnosis)が下された四頭の症例馬に対して、内頚動脈(Internal carotid artery)、外頚動脈(External carotid artery)、および、上顎動脈(Maxillary artery)における、経動脈コイル塞栓療法(Transarterial coil embolization)が行われました。

この研究の術式では、総頚動脈(Common carotid artery)に穿刺した血管造影カテーテル(Angiogram catheter)を進展させて、造影剤注入および蛍光透視装置(Fluoroscopy)を介した術中画像診断によって、内頚&外頚動脈および後頭動脈(Occipital artery)の走行を視認することで、異常分枝(Aberrant branch)が存在しないことが確認されました。次に、内頚動脈に進展させたカテーテルを通して、塞栓療法コイル(血管内径よりもやや大きいサイズ)を動脈内に挿入することで、塞栓形成が施され、造影剤が塞き止められている所見によって、血流遮断(Obstruction of blood circulation)の確認が行われました。そして、カテーテルを尾側へと引き戻して、同様の塞栓形成を実施した後、必要に応じて、外頚動脈および上顎動脈へもカテーテルを進展させて、同じ要領でコイル挿入および塞栓形成が施されました。

結果としては、十頭の健常馬においては、術後の血管造影レントゲン検査(Contrast radiography)によって、処置した全ての脈管が完全遮閉(Complete occlusion)されて、全てのコイルが挿入箇所に残存している所見が認められました。これらの健常馬の剖検(Necropsy)では、成熟した連続性血栓形成(Mature continuous thrombus formation)によって、処置部の動脈が遮閉されている事が確認されました。一方、四頭の症例馬においては、術後に鼻出血を再発(Recurrence)した馬は一頭もなく、手術から六十日目までには、罹患部位の真菌プラークが消失(Resolution of mycotic plaques)していました。このため、喉嚢真菌症の罹患馬に対しては、罹患箇所の動脈に対するコイル塞栓療法によって、致死的出血(Fatal hemorrhage)の予防と真菌病巣の治癒が達成され、良好な予後を示す馬の割合が高いことが示唆されました。

一般的に、馬の喉嚢真菌症に対する外科的療法では、バルーンカテーテル(Balloon-tipped catheter)による動脈遮閉術が応用される場合もあり、比較的に良好な治療成績が報告されています(Freeman and Donawick. JAVMA. 1980;176:232, Freeman and Donawick. JAVMA. 1980;176:236, Lepage. Prat Vet Equine. 1994;24:255)。術中レントゲン(Intra-operative radiography)およびバルーンカテーテルを用いた術式における、潜在的な欠点(Potential disadvantages)としては、(1)異常分枝の存在を確認しにくい場合があること、(2)カテーテル先端のバルーンが破損したり、膨満が不十分になる事で、鼻出血を再発する危険性があること(Greet. EVJ. 1987;19:483)、(3)カテーテル端は皮下に埋没させるため、外観的損失(Cosmetic blemish)や逆流性細菌感染(Retrograde bacterial infection)などの合併症につながる場合もあること、などが挙げられています。

この研究では、術中の血管造影の際に、空気や血栓破片を誤って注入してしまう危険を避けるため、二重洗浄手法(Double flush technique)を用いて、まず処置箇所の血管内の血液を吸入して、その後に造影剤を注入する術式が推奨されています。また、血管内にコイルを挿入する際には、コイルが短すぎると塞栓形成が不十分になる反面、コイルが長すぎるとうまく丸まらず、挿入箇所から流入してしまう可能性があるため、処置部位の造影所見(血管内径)に基づいて、適切なサイズのコイルを選択することが重要であると指摘されています。一方、コイルの挿入箇所が遠位すぎると、内頚動脈だけでなくウィリス動脈輪(Willis’s circle)も塞栓してしまう危険がある(今回の研究でも、一頭の実験馬に見られた)、という警鐘も鳴らされています。

この研究では、経動脈コイル塞栓療法の後には、出血再発、失明(Blindness)、皮膚切開創感染(Skin incisional infection)などの術後合併症(Post-operative complications)は認められませんでした。一方、四頭の症例のうち一頭では、術後に喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)を続発しましたが、これは真菌病変の侵食に伴う進行性神経症状(Progressive neurologic signs)の一つであると推測され、コイル塞栓療法の結果として生じた合併症ではないと考えられました。しかし、軟部組織切開(Soft tissue dissection)の際には、頚動脈鞘(Carotid sheath)を慎重に操作することで、喉頭神経障害(Laryngeal neuropathy)の予防に努めることが重要であると推測されています。

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