馬の文献:喉嚢真菌症(Delfs et al. 2009)
文献 - 2020年10月19日 (月)
「三頭の馬の喉嚢真菌症による急性鼻出血に対する経動脈的なニチノール血管遮閉プラグによる治療」
Delfs KC, Hawkins JF, Hogan DF. Treatment of acute epistaxis secondary to guttural pouch mycosis with transarterial nitinol vascular occlusion plugs in three equids. J Am Vet Med Assoc. 2009; 235(2): 189-193.
この研究論文では、喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)に起因する急性鼻出血(Acute epistaxis)に対して、経動脈的なニチノール血管遮閉プラグ(Transarterial nitinol vascular occlusion plugs)による治療が応用された、馬の三症例が報告されています。
この研究の術式では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、総頚動脈(Common carotid artery)に穿刺した血管接続針(Vascular-access needle: 18G)を介して、イントロデューサと血管拡張セットが挿入されました。次に、蛍光透視装置(Fluoroscopy)を用いての血管造影(Angiogram)によって、内頚動脈や外頚動脈(Internal/External caroid arteries)の走行を確認してから、ニチノール製の血管遮閉プラグを挿入することで動脈遮閉が行われ、上顎動脈(Maxillary artery)からの出血を生じた場合には、上顎動脈と大口蓋動脈(Major palatine artery)にも動脈遮閉が施されました。
結果としては、三頭の患馬の全てが、手術から一年以上の生存を果たし、意図した用途への運動復帰を果たしていました(長期生存率および運動復帰率は100%)。また、術後合併症(Post-operative complications)や鼻出血の再発(Recurrence)は認められず、また、三頭の症例すべてにおいて、真菌病巣の完全な消失(Complete resolution of fungal lesion)が達成された事が報告されています。このため、喉嚢真菌症の罹患馬に対しては、ニチノール血管遮閉プラグを介した動脈遮閉術(Arterial occlusion)によって、致死的出血(Fatal hemorrhage)の予防と、原発病巣の治癒(Healing of primary lesions)が期待され、良好な予後を示す馬の割合が高いことが示唆されました。
一般的に、馬の喉嚢真菌症における外科的療法に際しては、罹患した動脈を近位部で結紮(Ligation)しただけでは、大脳動脈環(Cerebral arterial circle:いわゆるウィリス動脈輪)からの血液逆流(Retrograde blood flow)が起こり、致死的出血の予防はできないため、真菌病巣の近位側と遠位側の両方で動脈遮閉する必要があることが知られています(Church et al. EVJ. 1986;18:362, Owen et al. EVJ. 1974;6:143)。そのための術式としては、バルーンカテーテル(Balloon-tipped catheter)やコイル塞栓形成術(Coil embolization)などが応用されていますが(Lane. EVJ. 1989;21:321, Leveille et al. Vet Surg. 2000;29:389, Lepage and Piccot-Crezollet. EVJ. 2005;37:430)、このうち、バルーンカテーテルを用いた術式では、カテーテルの外端が皮下組織内に残存するため、細菌感染(Bacterial infection)を続発する危険性があります。
この研究で試験されたニチノール製の血管遮閉プラグは、コイル塞栓形成術と同様な手技で動脈遮閉できますが、コイルは血管内に挿入した後には操作が効かないのに対して、プラグは太さ(血管内径の130~150%が最適)を伸縮自在に変えられるので、(1)一箇所の処置箇所には一つのプラグがあれば良い(コイルは複数個を要する場合も多い)、(2)血管造影の所見に基づいて、プラグの位置を変更できる、(3)血管内腔に堅固にフィットするので、処置箇所から流れ出てしまう危険性が非常に少ない、などの利点が挙げられています。また、インプラントのコストは、血管遮閉プラグは一つ300ドル程度なのに対して、塞栓コイルは一つ50~100ドルで(コイルは二つ~三つ要ることも多い)、大きな差はないと提唱されています(いずれも論文発表時点での価格)。
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この研究論文では、喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)に起因する急性鼻出血(Acute epistaxis)に対して、経動脈的なニチノール血管遮閉プラグ(Transarterial nitinol vascular occlusion plugs)による治療が応用された、馬の三症例が報告されています。
この研究の術式では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、総頚動脈(Common carotid artery)に穿刺した血管接続針(Vascular-access needle: 18G)を介して、イントロデューサと血管拡張セットが挿入されました。次に、蛍光透視装置(Fluoroscopy)を用いての血管造影(Angiogram)によって、内頚動脈や外頚動脈(Internal/External caroid arteries)の走行を確認してから、ニチノール製の血管遮閉プラグを挿入することで動脈遮閉が行われ、上顎動脈(Maxillary artery)からの出血を生じた場合には、上顎動脈と大口蓋動脈(Major palatine artery)にも動脈遮閉が施されました。
結果としては、三頭の患馬の全てが、手術から一年以上の生存を果たし、意図した用途への運動復帰を果たしていました(長期生存率および運動復帰率は100%)。また、術後合併症(Post-operative complications)や鼻出血の再発(Recurrence)は認められず、また、三頭の症例すべてにおいて、真菌病巣の完全な消失(Complete resolution of fungal lesion)が達成された事が報告されています。このため、喉嚢真菌症の罹患馬に対しては、ニチノール血管遮閉プラグを介した動脈遮閉術(Arterial occlusion)によって、致死的出血(Fatal hemorrhage)の予防と、原発病巣の治癒(Healing of primary lesions)が期待され、良好な予後を示す馬の割合が高いことが示唆されました。
一般的に、馬の喉嚢真菌症における外科的療法に際しては、罹患した動脈を近位部で結紮(Ligation)しただけでは、大脳動脈環(Cerebral arterial circle:いわゆるウィリス動脈輪)からの血液逆流(Retrograde blood flow)が起こり、致死的出血の予防はできないため、真菌病巣の近位側と遠位側の両方で動脈遮閉する必要があることが知られています(Church et al. EVJ. 1986;18:362, Owen et al. EVJ. 1974;6:143)。そのための術式としては、バルーンカテーテル(Balloon-tipped catheter)やコイル塞栓形成術(Coil embolization)などが応用されていますが(Lane. EVJ. 1989;21:321, Leveille et al. Vet Surg. 2000;29:389, Lepage and Piccot-Crezollet. EVJ. 2005;37:430)、このうち、バルーンカテーテルを用いた術式では、カテーテルの外端が皮下組織内に残存するため、細菌感染(Bacterial infection)を続発する危険性があります。
この研究で試験されたニチノール製の血管遮閉プラグは、コイル塞栓形成術と同様な手技で動脈遮閉できますが、コイルは血管内に挿入した後には操作が効かないのに対して、プラグは太さ(血管内径の130~150%が最適)を伸縮自在に変えられるので、(1)一箇所の処置箇所には一つのプラグがあれば良い(コイルは複数個を要する場合も多い)、(2)血管造影の所見に基づいて、プラグの位置を変更できる、(3)血管内腔に堅固にフィットするので、処置箇所から流れ出てしまう危険性が非常に少ない、などの利点が挙げられています。また、インプラントのコストは、血管遮閉プラグは一つ300ドル程度なのに対して、塞栓コイルは一つ50~100ドルで(コイルは二つ~三つ要ることも多い)、大きな差はないと提唱されています(いずれも論文発表時点での価格)。
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