馬の文献:喉嚢真菌症(Munoz et al. 2015)
文献 - 2022年07月13日 (水)
「超音波誘導による馬の内頚・外頚動脈への経動脈コイル設置法」
Juan Munoz, Manuel Iglesias, Eduardo Lloret Chao, Christian Bussy. Ultrasound guided transarterial coil placement in the internal and external carotid artery in horses. Vet Surg. 2015; 44(3): 328-332.
この研究論文では、馬の喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)に有用な外科的療法を確立させるため、10頭の屠体、3頭の健常な実験馬、および、1頭の症例馬を用いて、内頚・外頚動脈(Internal and external carotid artery)に対する超音波誘導での経動脈コイル設置法(Ultrasound guided transarterial coil placement)の評価が行われました。
この研究の術式では、馬の屠体を用いながら、頭頚部を完全に伸長させた姿勢(Full extension)で、頚静脈(Jugular vein)を目印として視認した総頚動脈(Common carotid artery)を吻側に追跡し、内頚動脈と後頭動脈(Occipital artery)を視認して、それに併行して、頚部の近位1/3を切開し、頚皮筋(Cutaneous coli muscle)と腕頭筋(Brachiocephalicus muscle)と肩甲舌骨筋(Omohyoideus muscle)を鋭切開(Sharp dissection)することで、総頚動脈が露出(Exteriorization)されました。その後、総頚動脈から迷走神経幹(Vagosympathetic trunk)を剥離して挙上させ、誘導システム(Introducer system)を介して血管造影カテーテル(Angiographic catheter)を刺入および吻側へ押し込んでいき、内頚動脈の起始部にて超音波画像で視認しながら、内頚動脈の内部へと13cm伸展させました。そして、従来の喉嚢X線撮影法(Conventional radiographs of the guttural pouch)で正確な位置にあることを確認してから、最初の塞栓用コイル(Embolization coil)をワイヤーで押し込むことでS状曲(Sigmoid flexure)に設置した後、カテーテルを内頚動脈の尾側領域(Caudal aspect)まで引き戻し、超音波で動脈内径を計測してから、もう一つの塞栓用コイルが設置して、X線画像でコイルの設置箇所を確認しました。その後に、超音波画像を用いて外頚動脈を吻側に追跡し、舌顔面動脈(Linguofacial trunk)の起始部を視認してから、超音波で動脈内径を計測し、最初の塞栓用コイルを設置した後、同じ手順で、もう一つの塞栓用コイルが設置されました。次に、実験馬および症例馬を用いて、全身麻酔下(Under general anesthesia)および右側横臥位(Right lateral recumbency)にて、同じ術式が実施され、造影剤を注入してX線撮影することで、血管閉塞(Vascular occlusion)が達成されたことが確認されました。
結果としては、全ての屠体と使用馬に対して、超音波誘導による内頚・外頚動脈への経動脈コイル設置が達成され、その際、超音波画像にて内頚動脈はその起始部から4~6cmの位置まで視認可能であり、外頚動脈はそれよりも長く視認可能であったことが示されました。塞栓用コイルが不適切に設置されたのは一回のみで、コイルが伸びたまま展開(Elongated deployment)された結果でした。臨床応用された症例馬1頭では、この術式で良好な血管閉塞が達成され、術後合併症(Post-operative complications)も無く、術後三ヶ月後には完治して騎乗に復帰しており、また、内視鏡検査(Endoscopic examination)では喉嚢の真菌病巣も消失していたことが報告されています。このため、超音波誘導による馬の内頚・外頚動脈への経動脈コイル設置は、臨床的に有効な術式であり、馬の喉嚢真菌症の外科的療法に応用可能であることが示唆されました。また、超音波誘導によるコイル設置法は、起立位手術(Standing surgery)にも応用可能であると推測されています。
この研究では、内頚動脈の吻側領域は超音波で視認できず、盲目的にカテーテル伸展およびコイル設置が行なわれ、良好な血管閉塞が達成されました。しかし、この箇所の処置においては、従来の透視装置(Fluoroscopy)を用いた手法のほうが、操作を正確に実施できると推測されるため、実際の手術においては、超音波装置と透視装置を併用することで、より信頼性の高い術式を実施できると考察がなされています。一方で、本研究の術式を実施する際には、術者の他に、超音波検査に熟練した別の操作者(Additional experienced person)が必須であると提唱されています。つまり、たとえ超音波誘導を適用しても、透視装置の必要性が完全に無くなる訳ではないことを鑑みると、手術の人員が限定的である場合には、無理に術中超音波を使用するのではなく、全ての操作を透視装置画像を介して実施するのが現実的であるのかもしれません。
この研究では、計14回の内頚動脈のコイル塞栓術において、血管造影カテーテルを内頚動脈に真っすぐに押し込めたのが3回、カテーテルを回転させ向きを変えただけで容易に押し込めたのが8回で、カテーテルが後頭動脈に迷入したものの、超音波画像で正確にその位置を把握して、一度引き戻してから直ぐに内頚動脈へと押し込めたのが3回でした。また、計13回の外頚動脈のコイル塞栓術において、血管造影カテーテルを外頚動脈に真っすぐに押し込めたのが10回で、カテーテルが舌顔面動脈に迷入したものの、超音波画像で正確にその位置を把握して、直ぐに外頚動脈へと押し込めたのが3回でした。このため、超音波誘導によるコイル設置法は、透視装置を用いた手法と比較して、造影剤による副作用を避けながら、動脈の走行やカテーテルの伸展位置を正確に評価できるという利点があると考察されています。
この研究では、超音波誘導によるコイル設置法によって、血管の横断像(Cross-sectional image)を用いることで、その内径を正確に計測して、使用するコイルの適切なサイズを選択できるという利点が挙げられています。一方、コイルを正して血管内に展開させるためには、血管の縦断方向に超音波プローブを当てることが推奨されています。また、内頚動脈の尾側領域においては、コイルを展開するときに超音波画像の質が低下する現象が観察されており、この要因としては、カテーテル挿入による脈管痙攣(Vasospasm)やコイル設置による血流閉塞(Flow obstruction)が挙げられています。
この研究では、内頚動脈の吻側領域におけるコイル塞栓術では、全長の短いトルネードコイルを1つ設置することで、良好な血管閉塞が達成されたものの、内頚動脈や外頚動脈の尾側領域においては、より全長が長いネスターコイルが2つ使用されました。筆者の見解では、この部位の動脈の太さを考えると、トルネードコイルは勿論、ネスターコイル1つでも塞栓のためには不十分であると記述されています。幸いにもこの部位は、超音波画像でも容易に評価可能であるため、術中に慎重に血管閉塞の度合いを視認することで、不完全な血流遮断を避けられると考えられます。一方、本研究では、生食を血管に注入して、その流れを超音波画像上に描出することで、血管閉塞の視覚的確認が試みられましたが、この手法の信頼性や再現性は、科学的には立証されていないため、今後の検討を要すると考察されています。
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この研究論文では、馬の喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)に有用な外科的療法を確立させるため、10頭の屠体、3頭の健常な実験馬、および、1頭の症例馬を用いて、内頚・外頚動脈(Internal and external carotid artery)に対する超音波誘導での経動脈コイル設置法(Ultrasound guided transarterial coil placement)の評価が行われました。
この研究の術式では、馬の屠体を用いながら、頭頚部を完全に伸長させた姿勢(Full extension)で、頚静脈(Jugular vein)を目印として視認した総頚動脈(Common carotid artery)を吻側に追跡し、内頚動脈と後頭動脈(Occipital artery)を視認して、それに併行して、頚部の近位1/3を切開し、頚皮筋(Cutaneous coli muscle)と腕頭筋(Brachiocephalicus muscle)と肩甲舌骨筋(Omohyoideus muscle)を鋭切開(Sharp dissection)することで、総頚動脈が露出(Exteriorization)されました。その後、総頚動脈から迷走神経幹(Vagosympathetic trunk)を剥離して挙上させ、誘導システム(Introducer system)を介して血管造影カテーテル(Angiographic catheter)を刺入および吻側へ押し込んでいき、内頚動脈の起始部にて超音波画像で視認しながら、内頚動脈の内部へと13cm伸展させました。そして、従来の喉嚢X線撮影法(Conventional radiographs of the guttural pouch)で正確な位置にあることを確認してから、最初の塞栓用コイル(Embolization coil)をワイヤーで押し込むことでS状曲(Sigmoid flexure)に設置した後、カテーテルを内頚動脈の尾側領域(Caudal aspect)まで引き戻し、超音波で動脈内径を計測してから、もう一つの塞栓用コイルが設置して、X線画像でコイルの設置箇所を確認しました。その後に、超音波画像を用いて外頚動脈を吻側に追跡し、舌顔面動脈(Linguofacial trunk)の起始部を視認してから、超音波で動脈内径を計測し、最初の塞栓用コイルを設置した後、同じ手順で、もう一つの塞栓用コイルが設置されました。次に、実験馬および症例馬を用いて、全身麻酔下(Under general anesthesia)および右側横臥位(Right lateral recumbency)にて、同じ術式が実施され、造影剤を注入してX線撮影することで、血管閉塞(Vascular occlusion)が達成されたことが確認されました。
結果としては、全ての屠体と使用馬に対して、超音波誘導による内頚・外頚動脈への経動脈コイル設置が達成され、その際、超音波画像にて内頚動脈はその起始部から4~6cmの位置まで視認可能であり、外頚動脈はそれよりも長く視認可能であったことが示されました。塞栓用コイルが不適切に設置されたのは一回のみで、コイルが伸びたまま展開(Elongated deployment)された結果でした。臨床応用された症例馬1頭では、この術式で良好な血管閉塞が達成され、術後合併症(Post-operative complications)も無く、術後三ヶ月後には完治して騎乗に復帰しており、また、内視鏡検査(Endoscopic examination)では喉嚢の真菌病巣も消失していたことが報告されています。このため、超音波誘導による馬の内頚・外頚動脈への経動脈コイル設置は、臨床的に有効な術式であり、馬の喉嚢真菌症の外科的療法に応用可能であることが示唆されました。また、超音波誘導によるコイル設置法は、起立位手術(Standing surgery)にも応用可能であると推測されています。
この研究では、内頚動脈の吻側領域は超音波で視認できず、盲目的にカテーテル伸展およびコイル設置が行なわれ、良好な血管閉塞が達成されました。しかし、この箇所の処置においては、従来の透視装置(Fluoroscopy)を用いた手法のほうが、操作を正確に実施できると推測されるため、実際の手術においては、超音波装置と透視装置を併用することで、より信頼性の高い術式を実施できると考察がなされています。一方で、本研究の術式を実施する際には、術者の他に、超音波検査に熟練した別の操作者(Additional experienced person)が必須であると提唱されています。つまり、たとえ超音波誘導を適用しても、透視装置の必要性が完全に無くなる訳ではないことを鑑みると、手術の人員が限定的である場合には、無理に術中超音波を使用するのではなく、全ての操作を透視装置画像を介して実施するのが現実的であるのかもしれません。
この研究では、計14回の内頚動脈のコイル塞栓術において、血管造影カテーテルを内頚動脈に真っすぐに押し込めたのが3回、カテーテルを回転させ向きを変えただけで容易に押し込めたのが8回で、カテーテルが後頭動脈に迷入したものの、超音波画像で正確にその位置を把握して、一度引き戻してから直ぐに内頚動脈へと押し込めたのが3回でした。また、計13回の外頚動脈のコイル塞栓術において、血管造影カテーテルを外頚動脈に真っすぐに押し込めたのが10回で、カテーテルが舌顔面動脈に迷入したものの、超音波画像で正確にその位置を把握して、直ぐに外頚動脈へと押し込めたのが3回でした。このため、超音波誘導によるコイル設置法は、透視装置を用いた手法と比較して、造影剤による副作用を避けながら、動脈の走行やカテーテルの伸展位置を正確に評価できるという利点があると考察されています。
この研究では、超音波誘導によるコイル設置法によって、血管の横断像(Cross-sectional image)を用いることで、その内径を正確に計測して、使用するコイルの適切なサイズを選択できるという利点が挙げられています。一方、コイルを正して血管内に展開させるためには、血管の縦断方向に超音波プローブを当てることが推奨されています。また、内頚動脈の尾側領域においては、コイルを展開するときに超音波画像の質が低下する現象が観察されており、この要因としては、カテーテル挿入による脈管痙攣(Vasospasm)やコイル設置による血流閉塞(Flow obstruction)が挙げられています。
この研究では、内頚動脈の吻側領域におけるコイル塞栓術では、全長の短いトルネードコイルを1つ設置することで、良好な血管閉塞が達成されたものの、内頚動脈や外頚動脈の尾側領域においては、より全長が長いネスターコイルが2つ使用されました。筆者の見解では、この部位の動脈の太さを考えると、トルネードコイルは勿論、ネスターコイル1つでも塞栓のためには不十分であると記述されています。幸いにもこの部位は、超音波画像でも容易に評価可能であるため、術中に慎重に血管閉塞の度合いを視認することで、不完全な血流遮断を避けられると考えられます。一方、本研究では、生食を血管に注入して、その流れを超音波画像上に描出することで、血管閉塞の視覚的確認が試みられましたが、この手法の信頼性や再現性は、科学的には立証されていないため、今後の検討を要すると考察されています。
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