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乾草の高騰で代わりのエサは?

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馬に給餌する乾草が手に入りにくい場合、その代わりに給餌する粗飼料は何が良いのでしょうか?

ここ数年、コロナ禍や欧州での戦争の影響で、日本に輸入される乾草の価格が高騰しています。このため、乗馬倶楽部や牧場によっては、馬のエサ代を抑えるため、乾草の給餌量を減らして、他のエサに代替する必要が出てきている状況もあるようです。そのような場合には、どのような代替粗飼料を選択するのか、という事だけでなく、給餌の際に気をつける事項についても、十分に理解しておくことが大切です。

参考資料:
Nancy S. Loving. What to Feed Your Horse in a Hay Shortage. Horse Illustrated, May2, 2019.

乾草の代替粗飼料として、まず考えられるのはヘイキューブで、乾草に比べて供給が安定的で、価格も高騰しにくい傾向にあります。乾草と異なり、水でふやかして給餌される事もあります。しかし、通常のヘイキューブは、アルファルファ乾草を短く刻んでキューブ状に固めたものですので、アルファルファに慣れていない馬に対しては、乾草からヘイキューブへの移行には、十分な時間を掛けることが重要です。また、もし可能であれば、粗飼料すべてをヘイキューブに置き換えるのではなく、乾草と両方を給餌するのが望ましいと言われています(乾草の給餌を止めるのではなく、給餌量を節約する目的)。

次に挙げられる代替粗飼料としては、アルファルファから生成されたペレットがありますが、こちらはヘイキューブほど安価ではなく、また、乾草よりも咀嚼が容易で、短時間で完食してしまうという欠点もあるそうです。やはり、アルファルファ乾草に慣れていない馬には、緩やかに給餌内容を変更することが大切です。一方で、ペレットは乾草ほど飼料の無駄が生じない、というのは利点であると言われています。乾草の無駄というのは、細かい乾草片が敷料に混ざったり、周囲にこぼれたりするためであり、これはヘイキューブも同様です。

もう一つ、よく選ばれる代替粗飼料としてはビートパルプがあり、十分に水でふやかしてから給餌されることが一般的です(そうしないと食道に詰まったり、胃拡張になると言われています)。ビートパルプは、繊維質とカロリーに秀でていますが、代謝系に問題のある馬には、多給とならないよう留意すべきであると言われています(特に糖蜜を含む製品の場合には)。また、ビートパルプはカルシウム含有量も高いため、若齢馬に給餌するときには、カルシウム過剰によって、リンとのバランスが崩れ、正常な筋骨格系の発達に悪影響を及ぼすデメリットも指摘されています。

さらに、乾草を代替できる粗飼料としては、ヘイレージ(牧草サイレージ)があり、乾草よりも水分含有量が25~50%も多いため、乾草を給餌していた量の1.25~1.5倍を与える必要があります。ヘイレージは、湿り気がありホコリが少ないため、炎症性気道疾患や息労などの罹患馬にも有用です。しかし、保存中のヘイレージは密封されて湿気も多いため、危険な嫌気性菌(ボツリヌス等)が増えやすかったり、開封して時間が経つとカビが増えやすい、などの欠点もあります。このため、ヘイレージを導入する際には、正しく生産および保存している業者から入手したり、飼い付け時にヘイレージの劣化が無いかを常に観察することが重要である、という警鐘が鳴らされています。

その他には、乾草の給餌量を減らした分だけ、単純に濃厚飼料を増やして摂取カロリー量を維持する方針もありえますが、胃潰瘍や疝痛のリスクが増えるなどデメリットもあるため、決して推奨される方策ではありません。また、青草を刈ってきたり、オカラを混ぜることで、乾草の給餌量を抑えることも可能ですが、持続的な安定供給は難しいのかもしれません。何よりも、良質な粗飼料は馬の健康維持には必須であり、上述のような代替粗飼料に依存しすぎることで、結局、疝痛などの消化器疾患の治療による出費が増えて、本末転倒の結果になることも考えられます。

勿論、乗馬倶楽部や牧場の経営のためには、馬のウェルフェアを損なわない範囲で、上述のように、エサ代を抑制する試みが必要になるケースもありえます。しかし、その際には、馬の健康状態を細やかに観察して、此処の馬に対して、どの程度の代替粗飼料の給餌が許容されるのかを、毎朝毎夕、一頭一頭、慎重に評価することが極めて重要であると言えます。

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