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馬の文献:喉嚢真菌症(Khairuddin et al. 2015)

「馬の内頚動脈とその分枝における血管造影的な多様性」
Nurul H Khairuddin, Martin Sullivan, Patrick J Pollock. Angiographic Variation of the Internal Carotid Artery and its Branches in Horses. Vet Surg. 2015; 44(6): 784-789.

この研究論文では、馬の喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)の診断および外科的療法の際に重要な血管造影的解剖学(Angiographic anatomy)を解明するため、50頭の馬の屠体頭頚部を用いて、血管造影の透視装置撮影像と、同屠体の血管組織をラテックス充填して確認した実際の立体構造との比較が行なわれました。

結果としては、17%の屠体において、従来の解剖学とは異なる構造が認められ、これには、内頚動脈(Internal carotid artery)と後頭動脈(Occipital artery)が同一の脈管幹(Common trunk)として起始しているもの(5%の屠体)、内頚動脈の異常分枝(Aberrant branch)が脳底動脈(Basilar artery)に連絡しているもの(4%の屠体)、内頚動脈の異常分枝が他血管に連絡することなく周囲組織内に走行しているもの(3%の屠体)、内頚動脈の異常分枝が複数の小さな随伴枝(Several smaller satellite branches)を形成して、その一部は対側の後頭動脈の尾側枝(Caudal branch of the ipsilateral occipital artery)に連絡しているもの(5%の屠体)、等が確認されました。このため、喉嚢真菌症の外科的療法としての経動脈的コイル塞栓形成術(Trans-arterial coil embolization)を実施する際には、これらの血管組織の多様性を考慮して、正確な血管走行を精査して、血流遮断のミスによる致死的な術後出血(Fatal postoperative hemorrhage)を防ぐことが重要であると考えられました。また、この研究で認められたタイプ以外の異常分枝が存在する可能性も否定できない、という指摘もなされています。

この研究では、血管造影像を得るときに、透視装置のカメラ部分(Cアーム)を複数の角度に回転させて透視する方法(回転式血管造影術:Rotational angiography)を実施することで、内頚動脈の多様性をより正確に把握できるという所見が示されました。このため、実際のコイル塞栓形成術の施術においては、血流の不完全遮断による術後出血を予防するため、複数方向からの撮影像を比較して、動脈走行の状態を正確に診断することが推奨されました。過去の論文では、真菌病変は内頚動脈のS状曲より遠位側(Distal to the sigmoid flexure)に生じることが報告されています。

一般的に、馬の内頚動脈は、総頚動脈から分岐したあと大脳動脈輪(Cerebral arterial circle:ウィリス動脈輪)に連絡しているため、近位と遠位の両方向からの血流があり、真菌病巣による出血を防ぐためには、病巣の近位側と遠位側の両方にてコイル塞栓形成する必要があります。この研究で確認された動脈走行の多様性のうち、特に、内頚動脈の異常分枝が脳底動脈に連絡している場合には、この分枝も同時にコイル塞栓するか、分枝と病変のあいだの地点でコイル塞栓しなければ、逆行性血流(Retrograde blood flow)を止めることが出来ず、術後の致死的出血を引き起こしてしまう、という警鐘が鳴らされています。

過去の文献では、内頚動脈の随伴枝からの逆行性血流を遮断できずに、術後四週間で出血死したと推測される知見や(Greet et al. EVJ, 1987;19:483)、内頚動脈と後頭動脈の同一脈管幹が存在し、この二つがかなり遠位側で分岐して、血流の遮断箇所が不正確となり、術後六週間で出血死したと推測される知見が報告されています(Hardy et al. JAVVMA, 1990;196:1631)。今後の研究では、回転式血管造影術を用いることで、外頚動脈(External carotid artery)や顎動脈(Maxillary artery)にも、内頚動脈と同様な多様性があるのかを調査するのが大切である、という考察がなされています。また、透視回数が増えることで、動脈痙攣(Arterial spasm)の発生率や、注入する造影剤による副作用などが増加しないかについても、実際の臨床症例にて検証する必要があるかもしれません。

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