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馬の夏バテ予防対策

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本格的な夏の訪れを前に、馬の夏バテを予防する対策を再確認してみましょう。

一般的に、馬は寒さには強いものの、暑熱には大変弱く、ヒトよりも低い気温でも夏バテを起こしてしまうことが知られています。その要因としては、馬には草食動物として特有な消化管の構造として、繊維質の発酵タンクである大腸からの熱発生が大きいため、高体温状態に陥りやすいことが挙げられます。また、馬は体重に占める筋肉量が多いため、基礎代謝エネルギー量が大きいことも、夏バテになり易い一因であると言われています。

このため、気温の高い日が続く今夏においても、適切な予防対策を講じることで、夏バテを防ぐのみならず、熱射病の発症を抑えることが重要であると言えます。

参考資料:
Caitlin Dobecka. How to Help Your Horse Avoid Heat Stress This Summer. The Horse, Topics, Seasonal Care, Jun12, 2022.
Edited Press Release. Take Precautions against Equine Heat Stress. The Horse, Topics, Seasonal Care, Jul25, 2014.



馬の発汗について

馬という動物が、暑い日に体温を下げる第一の方法は発汗です。このため、発汗よる馬体の水分ロスを補うため、十分な給水を行なうことが、夏バテ防止の最優先の対策になります。具体的には、水桶に常に新鮮な飲料水を補給しておくのは勿論ですが(真夏日には飲水量が80~100L/日になる事もある)、岩塩を馬房に設置したり、塩を飼料添加することで、馬自身で喉が渇いて、自発的な飲水欲が増すようにしておく方法が有用です。また、馬の胃袋は容積が小さく、一度に多量の飲水は出来ないため、運動の前後に蹄洗場にいる時も、バケツで用手給水をするのも良いアイデアです。

そして、発汗や高体温症では、水分だけでなく電解質も失われますので、水桶に電解質のパウダーを溶解しておいたり、飼料に電解質サプリを混ぜるのも有効です。ただし、前者の場合には、必ず水桶は2つ設置して、電解質の入っていない飲料水も併せて提供することが推奨されています(電解質を溶解した水を飲まない可能性もあるため)。

なお、馬には、発汗がまったく出来ない(無汗症:Anhidrosis)、または、発汗量が著しく少ない(発汗減少症:Hypohidrosis)という病気もあります。これは、発汗刺激を伝達する皮膚の受容体が異常をきたしたり、免疫介在性に汗腺が萎縮することで発症すると言われており、今まで汗をかけていた馬が、あるとき急に発症することもあります。

ですので、馬が明らかに高体温の徴候(頻呼吸、抑鬱、運動不耐性など)を示していて、十分な発汗があるかが不明瞭な場合には、速やかに獣医師に検査をお願いしましょう。暑い夏場には命に関わることもありますので、出来るだけ早く、発汗減少症を改善させる飼料添加剤を補給することで、内科的に発汗を刺激する措置を行なうのが良いと思います。



馬の夏バテ予防のための飼養環境

夏バテを予防するための飼養環境への対策としては、厩舎の扉や窓を開け放ち、扇風機を回して十分に換気することに加えて、屋根の上から水を流したり、通路や周囲エリアに散水して、気化熱で気温の上昇を抑えます。このうち、特に屋根に水を流す措置は、厩舎内の暑熱防止にかなり有効であることが知られていますので、散水装置が未整備の施設では、真夏日が来る前に設置することを検討しましょう。

そして、馬に騎乗するのは涼しい早朝または夕方のみとして、騎乗している時間を短くすることに加えて、障害飛越や収縮運動などの筋力を使う運動内容を減らしたり控えることで、馬の体温上昇を最小限に抑えることが出来ます。また、休馬日にパドック放牧をおこなう場合にも、涼しい夜間に放牧に出すことも検討してみましょう。



馬の夏バテ予防のための飼料

エサに関しては、粗蛋白質の摂食量が多いと、消化・分解の過程で発生する熱量が増えて、体温上昇を助長してしまうことが知られています。このため、夏バテの疑いがある馬では、一時的で構わないので、蛋白質含有量の多い飼料(アルファルファ、トウモロコシ、筋肉増強を謳ったペレット等)の給餌量を減らすことも一案です。

また、夏バテで腸内細菌叢のバランスが崩れると、穀物やペレット等の濃厚飼料が異常発酵してガス産生量が増えて、結腸や盲腸の鼓脹症(いわゆる風気疝)を発症する危険性が高まります。ですので、暑い日が続くときには、濃厚飼料の給餌量を一過性に減少させてみるのも賢明だと言えます。そして、もし可能であれば、乾草の代わりに新鮮な青草(水分やミネラル含有量が多い)を給餌することで、脱水や疲労蓄積を抑える効果も期待できます。



馬の熱射病への対応

言うまでもなく、夏バテよりも怖いのは熱射病であり、迅速に適切な対処をしないと、心不全から突然死することもある怖い病気です。熱射病の症状としては、大量の発汗、活力低下、運動中につまづく、不自然な呼吸、馬房に戻っても頻呼吸や頻脈がおさまらない、などが挙げられます。ですので、たとえこのうち一つでも該当する場合には、速やかに検温をして、高体温症(直腸温が38.5℃以上)の有無を確認しましょう。しかし、熱射病と脱水症が同時に起こっている場合には、消化管への血流障害から直腸温が上昇しにくいケースもありますので、検温の数値だけに頼らず、馬の腋窩や内股に手を入れてみて、明らかに暑く感じないかを確認しましょう。

熱射病の疑いがある場合には、速やかに獣医師に連絡して、適切な治療法を指示してもらうことが大切です。現場で実施できる対応策としては、すぐに運動を中止して馬装を解き、馬体に水冷をかけ続けましょう(最初に肢端に冷水をかけて、徐々に体躯へと上がっていきましょう)。もし、5L以上のアルコールがある場合には、水をかける前に、全身にアルコールをかけて、扇風機で送風して揮発させる措置(通常2~3分間で完全に揮発する)を行なうことで、より迅速に体温を下げることが可能です。勿論、バケツで冷水を用手給水して、体温を15分おきにチェックするのも大切です。また、馬房に戻した後も、四肢の管部に氷冷バンテージを巻くことで、体温低下の一助になると言われています。

以上のように、必要な暑熱対策を事前に講じておくことで、夏バテや熱射病の予防を図り、夏場のホースマンライフを心からエンジョイできるように努めていきましょう。

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